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イベリス

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第二十九話 報いを受けた人その三

「その結果全てを奪われて」
「財産もですか」
「はい、事実上です」
「それで収容所に送られたんですか」
「彼等は何もしていませんが」
 敵国にルーツを持つ者だという理由でそうなったのだ。
「その積極的な旗振りをしていた人物がいまして」
「誰だったんですか?」
「アール=ウォーレンという人物です」
 この人物だというのだ。
「当時のカルフォルニア州の知事でした」
「カルフォルニアの一番偉い人ですね」
「人種的偏見を剥き出しにした発言を次々に行い」
 そうしてというのだ。
「日系人を積極的に迫害しカルフォルニアに絶対に戻さないと言いました」
「あの、それって」
 ここまで聞いてだ、咲は不安そうな顔になって述べた。
「後で」
「はい、問題になり」
「やっぱりそうですよね」
「批判を受けました」
「そうですよね」
「自分自身に人種的偏見があったことは明らかだったので」
 他ならぬ自分自身が言ったことだったからだ、言葉は返って来ないのだ。それがどんなものであろうとも。
「それで、です」
「批判を受けたんですね」
「二次大戦後アメリカで人種的偏見が問題とされる様になり」
「黒人のお話とかですね」
「はい、そしてです」
「その人もですか」
「かなりの批判を受けました」 
 そうなったことを話した。
「まさに」
「それで一生言われたんですか」
「亡くなりましたが今も言われています」
 死んでからもというのだ。
「明らかな人種差別主義者であったと」
「それで歴史に名前が残るって嫌ですよね」
「今では最低の人間ということですからね」
「そうですよね」
「差別の中でもです」
「人種とか民族は」
「ナチスの様な」
 速水はこの時代では多くの国で全否定されている彼等の話もした。
「忌むべきものであるとされていますね」
「そうですよね」
「ナチスは人種だけでなくです」
「障害者もでしたね」
「差別して」
 そしてだ。
「抹殺しようとしていました」
「恐ろしい政党だったんですね」
「私もそう思います、ですが」
「ですが?」
「当時はナチスは悪とみなされていませんでした」
 ナチスが存在した当時はだ。
「全く、だからです」
「政権を握れたんですね」
「圧倒的な支持によって」
「悪と思われていなくて」
「悪はです」
 それはというと。
「時代によって変わるので、そしてアール=ウォーレンも」
「今のお話の人もですか」
「大戦中は批判されませんでした」
「日系人を強制収容所送りにして」
「カルフォルニアに帰さないと言っても」 
 それもジャップと罵り如何なる手段を講じてもと言い切った、これが人種差別発言であることは言うまでもない。
「問題とはなりませんでした」
「そうした時代でしたか」
「だから日系人に暴力を振るっても」
 収容所に叩き込まれるまで実際に起こっていた、尚警官は見て見ぬ振りだった。これがカルフォルニア州の警察だ。 
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