イベリス
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第二十八話 またアルバイトに行ってその十三
「ですから日本人ですと代用コーヒーは特に冷やしますと」
「美味しく思いますね」
「そう思いますが」
それでもというのだ。
「冷やせば美味しいと知らず」
「そしてまずいと思って飲んでいますと」
「まずいと感じます」
そうなるというのだ。
「どうしても」
「そうなりますか」
「私もドイツに行った時に機会があったので飲みました」
その代用コーヒーをというのだ。
「そうしますと」
「麦茶の味で」
「実際に冷やして飲んでみますと」
そうすればというのだ。
「美味しかったです」
「そうなんですね」
「ただドイツの夏は日本より遥かに涼しく湿気もないです」
「日本の夏は凄いですからね」
その暑さそれに湿気もだ。
「その中で冷たい麦茶を飲みますから」
「だからですね」
「美味しいのです」
「日本だからですか」
「あの夏の暑さと湿気の中で冷たい麦茶を飲むことがです」
まさにこのことがというのだ。
「麦茶が美味しい理由でしょう」
「それがドイツでしかも熱いと」
「これがです」
「美味しくないですか」
「実際噂通りにです」
「美味しくなかったんですね」
「そうでした」
こう咲に話した。
「普通のコーヒーがあるなら」
「そちらを飲みますか」
「そうなります、実際もうドイツではです」
統一されてからはというのだ。
「旧東ドイツでもです」
「飲んでいませんか」
「もう忘れられています、かつては普通のコーヒーは貴族だけが飲んでいましたが」
「それで平民の人達は、ですか」
「その代用コーヒーを飲んでいまして」
「そんな歴史があったんですね」
「フリードリヒ大王の頃でした」
このあまりにも有名な王の頃だったというのだ。
「そして戦争中物資不足に陥った時も」
「飲まれていたんですね」
「そして東ドイツでもです」
この国でもというのだ。
「西ドイツに比べて遥かに貧しかったので」
「だからコーヒーは飲めなくてだったんですね」
「そうです、代用コーヒーを飲んでいました」
「そうしたものだったんですね」
「ですから今は」
「ドイツも統一されて」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「かつての東ドイツも豊かになり」
「もう代用コーヒーは飲まれていないんですね」
「ですが私は飲む機会があり」
そしてというのだ。
「飲んでみたのです」
「それでおわかりになられましたか」
「そうでした、何でも口にするものです」
「そうすればわかりますか」
「その味が。そして今は」
「紅茶をですね」
「こうして飲んでいます」
こう言ってだった。
速水は笑顔で紅茶を飲んだ、そうしてそのうえで笑顔になった。咲は彼のその笑顔を見てから家に帰った。
第二十八話 完
2021・8・23
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