魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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G編
第105話:70億の奇跡
前書き
読んでくださりありがとうございます
颯人と透がネフィリムと、ガルドがメデューサとの戦いを行っている間に、装者達もまた動いていた。
「私はもう、迷わない……だってマムが、命懸けで月の落下を阻止してくれてる」
マリアは月を見上げた。いや、もしかしたら今も尚月に向けて上昇し続けているナスターシャ教授を見ているのかもしれない。
いずれにせよ、残り少ない命を必死に削って月の落下を阻止してくれている人がいる。マリアの敬愛する人が、最期の戦いをしているのだ。
それを思うと、もう迷いはなかった。
マリアは手の中のギアペンダントを握り締める。それは嘗て、セレナが使用していたシンフォギアの物。以前の実験の際に損傷してそれ以降、修理していなかったシンフォギア。
ギアペンダントを握り締め、決意を胸にマリアは唄を口にする。
「Seilien――――」
「無駄な事を…………やれ」
唄うマリアを見て、ワイズマンは鼻で笑いウェル博士を操りネフィリムに巨大な火球を放たせた。恐らく喰らえば、装者全員を纏めて焼き払えるだろう一撃。
しかし――――
「それをさせない為に、俺らが居るんだよ!」
〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉
颯人は装者達に向け放たれた火球に向けフレイムドラゴンでストライクウィザードを放ち、威力を大幅に減衰させた。だがそれでもまだ火球は奏達の居る岩に向け突き進む。
「!」
〈バリヤー、ナーウ〉
その火球の前に今度はライドスクレイパーに乗った透が立ちはだかる。障壁を張り必死に火球を押し止め、クリス達を守ろうとした。
火球の威力に対して小さな障壁で、透は意外なほどの頑張りを見せ予想よりも長い時間火球を押さえた。それでもやはり火球の威力には負けるのか、障壁毎弾き飛ばされてしまう。
そのままマリア達の居る岩に火球が直撃するかと思われた……のだが、しかし颯人達の行動は無駄ではなかった。
2人の行動のお陰でマリアは聖詠を謳いきる事が出来た。
「――――coffin airget-lamh tron」
マリアの唄が終わると同時に火球が岩に直撃し、凄まじい爆炎と衝撃がまき散らされる。一見すると生存は絶望的に見える光景。
だが黒煙は振り払われ、そこに球体に展開されるエネルギーフィールドが姿を現した。シンフォギア装着時に引き起こされる、絶対防御フィールドだ。これの前ではどんな攻撃も意味を成さない。
そのフィールドの中心に居るマリアは、シンフォギアの感想システムで衣服を取り払われている。
あわやと言うその光景、それを見てまず真っ先に声を上げたのは了子であった。
「どう言う事? 彼女に適合しているのはガングニールじゃないの? 何故、別のシンフォギアの聖詠が唄えるの?」
シンフォギアの事をよく知るからこそ、理解できない事象。本来であればシンフォギアは1人につき一つしか扱えない。
その秘密は、もともと破損していた事で機能にエラーが起こった事にある。本来なら起動しない筈のギアが、超高出力のフォニックゲインに加え、理論では説明しきれない要因――即ち『愛』によって、奇跡とも言えるシステムの誤作動によって引き起こされたのである。
「調が居る……切歌が居る……セレナが居る……ガルドが居る……そして、マムもついている。皆が居るなら、これ位の奇跡…………安いもの!!」
マリアの想いに応えるべく……或いは触発されてか、その場にいる装者が全員唄った。いや、唄おうとした。
「ッ!?」
「ッ、奏?」
そんな中でただ1人、奏は胸に浮かんだ歌を紡ぐのを躊躇した。何故ならこの瞬間、彼女達の胸に浮かんだ歌は絶唱だったのだ。
不完全な装者である奏には絶唱の負担は大きすぎる。だが奏が唄うのを躊躇ったのは我が身可愛さからではない。彼女が受ける負担は全て颯人が受けてしまう。
それが分かっていながら絶唱を唄うのは――――
「奏ッ!」
「ッ!!」
その時颯人が奏に声を掛けた。まるで奏の心の不安を感じ取ったようなタイミング。いや実際感じ取ったのだろう。遠目からでも、奏の顔に浮かんだ躊躇いに戦いながらも目敏く気付いたのだ。
最愛の女性が、何に対して不安を感じ躊躇しているかくらい分かる。分かるからこそ、その不安を取り除く為に声を掛けるのだ。
「唄え!」
「え……」
「奏の唄は何時だって俺に力をくれる! 奏の唄で俺は傷付かねぇ! だから何も不安に思うな、思う存分唄いたいように唄え! その唄が俺の力になる!!」
それは奏にのみ効く魔法だった。先程まで奏の心に蔓延っていた不安は綺麗さっぱり無くなっていた。
「――――皆、悪い。待たせた――!」
力強い目で翼達仲間を見て頷く奏。もう彼女の心に迷いはない。最愛の男性が、自分の唄を熱望してくれているのなら、それに応えてみせる。今の奏にあるのはその一心だった。
奏に湧き上がった勇気は響達にも伝播した。奏に頷き返し、装者達は唄い出した
それは、『始まりの歌』。
全てのシンフォギア装者が唄い出す。
「何だあれは? あんなものまでシンフォギアにはあるのか? 奇跡の所業とでもいうつもりか……気に入らん」
口調に不機嫌さを混ぜたワイズマンが、再度ネフィリムに火球を吐き出させた。
先程の火球を防ぐので消耗し過ぎて、颯人と透は助けに向えない。だが、2人は微塵も心配していなかった。
「セット!ハーモニクス!!」
火球が防御フィールドに叩き付けられる寸前、響が動いた。7人の間で行き交う、七重奏の唄をその手に重ねる。それは響にしか出来ない、とっておきのとっておき。
「S2CA! フォニックゲインを力に変えてぇぇぇぇ!!」
響が火球を殴り飛ばし、その爆炎の中で奏が翼と手を握る。
「信じる奴、愛する奴が居れば――」
「――惹かれ合う音色に、理由なんていらない」
翼は調に手を伸ばした。調は最初に手を、次に翼を見て、戸惑いながらもその手を取った。
「あたしも、つける薬が無いな」
一方で、クリスは切歌に手を差し出した。差し出された手を見て、切歌は笑みを浮かべつつその手を取る。
「それはお互い様デスよ」
「調ちゃん! 切歌ちゃん!」
調と切歌が翼とクリスと手を繋いだのを見て、響も調、切歌と手を繋いだ。
繋がるのは手だけではない。手と歌で繋がり、心が重なっていく。
「あなたのやっている事、偽善でないと信じたい……だから近くで私に見せて。あなたの言う、人助けを……私達に……」
「うん」
「繋いだ手だけが紡ぐもの……」
集う歌が力となっていく。マリアはそれを確かに感じていた。いや、マリアだけではない。その場の全員がだ。
心が繋がったその時、装者達の体が眩い輝きを放った。
「ふん、高が8人の絶唱程度でどうにかなる状況だとでも? まぁいい」
それをワイズマンは黙って見てはいなかった。ネフィリムを動かさせ、何発もの火球を放たせる。先程よりも威力を落として、質ではなく量で攻めるつもりのようだ。連射用に火力を下げても尚、その威力は凄まじく防ぎきれないダメージに装者達のギアが砕けていく。
「くぅぅぅぅ――――!?」
「ぐ、ぐぐぐ――――!!」
蓄積していくダメージに負けまいと踏ん張る装者達。その様子に頃合いと見たのか、ネフィリムが再び最大までチャージした火球を放とうとした。
いち早く復帰した透がそれを妨害しようとするが、ネフィリムは透の攻撃を意にも介さない。
「ついでだ、こいつもくれてやる」
〈コネクト、ナーウ〉
〈ブラスター、ナーウ〉
しかもダメ押しでワイズマンが空間を繋げ、装者達に向け強烈な砲撃魔法を放とうとした。ネフィリムの火球と合わせて喰らえば、フィールドも限界を迎えてしまう。
正に絶体絶命…………その時である。
「透! 箒貸せ!」
颯人は立ち上がり奏の方に向かいながら透に叫ぶ。突然の言葉に、しかし透は少しも疑問を抱かずライドスクレイパーを颯人に向けて投げた。
投げられたライドスクレイパーを受け取った颯人は、それに跨り急上昇。装者達の前に立ちはだかりネフィリムの火球とワイズマンの魔法を防ごうとした。
「止まれぇぇぇッ!!」
〈ディフェンド、プリーズ〉
魔法の障壁を生み出し、ネフィリムの火球とワイズマンの魔法を同時に受け止める。
その光景を見てワイズマンは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。あの程度で止められる訳がない。仮に止められたとしても、焼け石に水程度の時間が精々だ。
「ふん、無駄な事を。纏めて消し飛ぶのをお望みか」
だがワイズマンの予想に反し、颯人は持ち堪えていた。空中で足場はライドスクレイパーしかないと言う状況で、彼はネフィリムの火球を受け止め続けたのだ。
「何?」
不可解、それがワイズマンの抱いた感想だった。幾らなんでもあれはあり得ない。魔法にだって限度はある。ましてや颯人は既に幾分か消耗している筈なのだ。あれほどの威力の火球、受け止められる訳がない。
「舐めんじゃ、ねぇぞ――! 俺の奏への情熱はな、こんなもんにだって負けやしねぇんだ!!」
咆哮……気合を入れるかのように颯人が吼えて火球を受け止める障壁に力を籠める。
すると障壁を形作る炎の魔力が大きく燃え上がった。燃え上がった障壁の炎は火球を飲み込んでいき、遂には炎の障壁が火球を焼き尽くして霧散させてしまった。
その光景にワイズマンは思わず唖然としてしまった。
「ば、馬鹿な……」
颯人により装者達に迫る脅威は取り除かれた。颯人が肩越しに振り返ると、奏が彼に向け笑い掛けながら唄っている。
「……言ったろ? 奏の歌があれば俺は何時でも全開だって。どんな歌でも、奏の歌は俺の力になる」
理屈ではない、確信だ。以前は颯人をも苦しめた奏の絶唱も、今は彼の心を燃え上がらせる燃料だった。
そしてその唄は、颯人だけでなく奏達装者自身の力にもなる。
「8人じゃない……私が束ねるこの歌はッ! 70億の、絶唱ぉぉぉぉぉぉっ!!」
フォニックゲインが装者達を包み込む。響によって束ねられた、膨大なフォニックゲイン。
それが装者達を包んだ瞬間、エネルギーフィールドが消え同時に8色の光が天へと昇る。
否、それはただの光ではない。光は弾け、中から輝く翼を広げた純白のシンフォギア――エクスドライブモードに至った8人の装者だ。
「響き合う皆の歌がくれた――――」
それはまるで天使の様。悪意を払う、天からの使い達。
『シンフォギアでぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』
奏達がエクスドライブモードへと至ったのを見て、颯人は仮面の奥で満足そうに笑みを浮かべる。
〈コネクト、プリーズ〉
徐に颯人はコネクトの魔法で出来た魔法陣に腕を突っ込み、何かを取り出した。
彼が取り出したのは1つの指輪。先程メデューサがファントムに変異した際、魔法使いだったメデューサが落とした指輪の一つ。
「透!」
「!」
颯人は透の傍に降り立ちながら取り出した指輪を透に渡した。その指輪とはスペシャル・ウィザードリング。一度は颯人の手でメデューサから透の手に渡りながらも奪い返され、そして今再び透の手へとやってきた指輪だった。
「奏やクリスちゃん達がお色直ししたんだ。お前もこいつ使っとけ」
透は颯人の言葉に頷き、指輪を受け取るとそれを右手中指に嵌めハンドオーサーに翳した。
〈イエス! スペシャル! アンダスタンドゥ?〉
スペシャルの魔法の効果により、透のメイジの鎧に上乗せする形で更に重厚な鎧が被せられていく。
透が強化されたのを見て、颯人もさぁ挑もうかと脚を一歩踏み出したその時。目の前に魔法陣が現れるとそこからウィズが手を伸ばしてきた。
「こいつを使え」
魔法陣の向こうからウィズがそれだけ言って手の中の指輪を颯人に放る。咄嗟に受け取ると、その指輪はルナアタック事変の最後、月の欠片を破壊するのに使用したスペシャルラッシュの指輪だった。あの後、アルドがコツコツと再びこの指輪を作っていたのだ。
礼を言おうとしたが、顔を上げた時にはウィズの腕は既に引っ込み魔法陣も消えていた。せっかちな師匠に颯人は小さく溜め息を吐くと、渡された指輪を右手に嵌めた。
「さぁ、タネも仕掛けも無いマジックショーの始まりだぜ!」
〈スペシャルラッシュ、プリーズ! フレイム! ウォーター! ハリケーン! ランド!〉
再びすべてのドラゴンの力を引き出した颯人。それを合図に、エクスドライブモードの装者達も合わせてネフィリムへと向かって行く。
「だが、たかが8人の装者と魔法使い如きで……」
ネフィリムが迫る装者と魔法使い達に向け無数の火球を放つ。それらはマリアの張るバリアフィールドに阻まれ、彼女達を焼く事は出来ない。
それは単純に彼女達の力だけによるものではなかった。
「ち~がうんだなぁ。ここにあるのはたった8人のものじゃない」
奏を通して颯人に伝わるフォニックゲイン。パスがあるからこそ分かる。ここに集まっているのは、たった8人ぽっちの歌ではない。
「私が束ねるこの歌は――――七十億の、絶唱ぉぉぉぉぉぉっ!!」
全世界70億人の絶唱。マリアとセレナが繋いだ世界が生み出した、奇跡の歌。
その前には、下らぬ妄執だけで動くネフィリムも木端同然であった。
「響き合う皆の歌がくれた――――」
『シンフォギアでぇぇぇぇぇぇッ!!』
〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉
〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉
2人の魔法使いと、8人のシンフォギア装者。70億の歌を束ねた装者の光と、魔法の輝きがネフィリムへと突き進む。
それはとてもではないがネフィリムに止められるものではなく、悪足掻きの火球も颯人と透によりかき消され、無防備となったネフィリムをシンフォギア装者達の光が直撃し、跡形もなく消し飛ばしたのだった。
後書き
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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