Fate/WizarDragonknight
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スネークダークネス
「はあっ!」
トレギアの爪が、空間を引き裂く。
合計十本の爪の斬撃が、トレラテムノーとなってウィザードたちを襲う。
それに対し、ウィザードはジャンプ。さやかとソラも、それぞれファントムの姿となり、左右へ散開した。
「ハルさん! 何なのアイツ!」
さやかだった人魚のファントム、マーメイドがウィザードへ問いかける。
ウィザードは指輪を入れ替えながら答えた。
「トレギア。……まあ、危ない奴ってところかな」
「へえ……また聖杯戦争なんでしょ? どうせ」
「……」
「アンタたちの身勝手な願い、本当に迷惑だよね。あっちこっちでメチャメチャやってるよし?」
ウィザードは、それに応えず、トレギアへ跳び上がる。
地下の湖は確かに大きいが、ウィザードフレイムスタイルでも横断できない大きさではない。そのままトレギアへ肉薄し、ウィザーソードガンで斬りつけた。
だが、やはりトレギアには命中しない。
両手を後ろで組んだまま、ウィザーソードガンの刃スレスレで回避、腕を突き飛ばし、「ほらほら」と挑発する。
「どうしたの? そういえば、ノアがいないと私には勝てなかったっけねえ?」
「このッ!」
ウィザードはさらに、剣撃を重ねていく。
だが、トレギアは前回戦った時と同じように、ウィザードの攻撃を容易くいなしていく。
「だったら……!」
ウィザードはトレギアから跳びのき、指輪を発動する。
『ビッグ プリーズ』
大きな手。
魔法陣を通じて巨大化したウィザードの主力魔法の一つだが、トレギアには通じない。
悲しいかな、トレギアの目より放たれた赤い光線により、ウィザードの手は木端微塵に破裂してしまった。
だが。
『ヒーヒーヒーヒー』
すでにそれは、囮としての役割を果たしていた。
魔力の残滓が飛び散る中、ウィザードは全速力でトレギアとの距離を詰めていた。
最速で放たれたスラッシュストライクには、トレギアも避け切れず、防御を取らざるを得なくなる。結果、彼の左腕を赤い一閃が貫いた。
「ぐっ……」
揺らめいたところへ、さらにウィザードは追撃する。
連続蹴りから始まった斬撃。
さらに、ウィザーソードガンで何度も回転させて斬りつけていく。
だが、トレギアはやはり攻撃を受けない。華麗にまで言い切れるような動きに、ウィザードはルビーの下で唇を噛んだ。
「やれやれ……本当に君は、私を苛立たせてくれるね……」
「逃がすか!」
『ハリケーン プリーズ』
飛び上がるトレギア。それに対し、ウィザードは、即座にルビーからエメラルドの指輪へ切り替えた。
風のウィザードは、風を纏い、低い天井の地下世界を切り裂いていく。
「ちいっ!」
舌打ちしたトレギアは、両腕から黒い雷を広範囲に放つ。
攻撃ではなく防御のために繰り出したそれは、緑の風と衝突し、地下世界に爆発を広げていく。
「ふん。……少し、玩具を持ってきてあげたよ?」
「玩具?」
トレギアはねっとりと指を鳴らした。
「気に入ってくれるといいなあ……行け。スネークダークネス!」
トレギアの合図。
すると、彼のすぐ隣の鍾乳石が粉々に砕けていく。
やがて、地の底より現れたのは、白い怪物。毒々しささえも感じる白い体と、頭、腕、背中、爪などあらゆる部位に赤いパーツが生えている。さらに、その右手は左手と比べて赤いパーツが非常に多く、攻撃に特化した形になっている。
スネークダークネス。
名前の通り、蛇を闇の形に埋め込んだそれは、口から赤い光線を放ち、鍾乳石を爆炎色に染め上げていく。
「へえ……ちょっと手伝ってあげようか? ハルト君?」
グレムリンが、ウィザードの隣に並ぶ。
ウィザードはグレムリン、そしてトレギアとスネークダークネスを見比べ。
「分かってるよな? 俺はお前を絶対に許さない」
「ふうん……そういいきっちゃうのは悲しいなあ? ね? さやかちゃん」
その言葉と共に、人魚のファントムもまたウィザードの隣に並ぶ。
「あたしはアンタとは違うんだけどなあ……。結局アイツも聖杯戦争の参加者なんでしょ?」
「……」
「別にアンタに加担してるわけじゃないからね。アンタもそのつもりだったんだろうけど、あたしはアンタの敵でも味方でもないから」
「ああ。俺だって……人に手を出さない限り、あえて敵対するつもりはないよ」
「ファントムと戦うのは初めてだね……」
トレギアは指を回しながら、マーメイドとグレムリンへほほ笑んだ。
「どうか、お手柔らかに」
「出来るほど、あたし器用じゃないんだよね」
マーメイドはそう言って、レイピアで突撃する。
だが、トレギアは完全にその
「君は……面白いね」
トレギアは、グレムリンに顔を近づけながらそう言った。
すると、グレムリンもまた頷く。
「そうだね。僕も、君には何だか親近感がわいているよ。でも……」
グレムリンは、切り結んだ剣を収め、飛びのく。
すぐそばにある壁より潜ると、すぐにトレギアの足元から飛び出てくる。
「おやおや。中々な動きだね」
「ありがとう」
マーメイドの高速の連続突き。
だが、トレギアはせせら笑いながら指で白羽どりをした。
「悪くないが……そんなもの、私には通じない」
すでにトレギアの腕には、黒い雷が迸っている。
危険を感じたマーメイドは、即座に体を液体化。固体としての性質を捨て去った体は雷から逃避し、そのままトレギアの背後でまた新たな肉体となる。
「また剣で来るのかい?」
トレギアは首だけ振り向きながら言った。
「あたしの剣から、逃げたって無駄なんだから!」
すると、マーメイドが指したレイピアが、空間に無数に広がっていく。
トレギアをめった刺しにしようとするそれは、一斉にトレギアへ降り注ぐ。
「へえ……ガルラ」
トレギアが指を鳴らすと、彼の足元に発生した闇から、灰色の生物が現れる。
咆哮を上げた途端、無数のレイピアがガルラに突き刺さる。
倒れるとともに、爆発。
爆炎の中で、トレギアは静かにマーメイドとグレムリンを睨んでいた。
『ランド プリーズ』
ウィザードは、風から土へその姿を変える。
スネークダークネスと等しいパワーで、互いに肉弾戦となる。
ウィザードの蹴りと、スネークダークネスの爪。一つ一つがぶつかるたびに、筋肉同士の打撃音が響く。
「っ!」
ウィザードは、ウィザーソードガンをガンモードにして発砲。スネークダークネスの体のあちこちに火花が散るが、それでもスネークダークネスの進撃は止められない。
スネークダークネスの凶悪な右腕が、何度もウィザードを襲う。
スピードを犠牲にパワーを得たランドスタイルは、その両手の掌底でスネークダークネスの腕と同等の力を発揮できる。
そのままスネークダークネスと組合い、やがて。
「だあああああああああッ!」
ウィザードはスネークダークネスを押し倒す。
鍾乳石を破壊しながら倒れたスネークダークネスへ、ウィザードは追撃の魔法を使う。
『チョーイイネ グラビティ サイコー』
土の魔法使い最強の魔法。
それは、スネークダークネスを地面に張り付けにした。
そのままウィザードは、ウィザーソードガンの手を開く。
『キャモナシューティングシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
ウィザードは、そこへトパーズの指輪を読み込ませようとする。
だが、それよりも先にスネークダークネスの口から赤い光線が放たれる。
それは、ウィザードの周囲を破壊し、ウィザード自身にも的確なダメージを与え、地面を転がさせた。
それに伴い、重力の魔法も解除されてしまう。
起き上がったスネークダークネスは、さらにウィザードへ追撃の剛腕を振るった。
回避が間に合わず、まともに打撃を受けるウィザード。
その質量にも任せた一撃一撃は、トパーズの体にダメージと負担を乗しかけていく。
さらに、また剛腕。両腕で受け止めたウィザードは、徐々に押されていく。
「こいつ……なんて馬鹿力だ……」
片膝を付かなければならないほど、スネークダークネスの力は大きい。
「だったら……これだ!」
『ドリル プリーズ』
一瞬だけ、全力を解き放つ。剛腕が大きく放り上げられたと同時に、ウィザードは地中へ体を進めていく。
スネークダークネスが虚空を叩く。
その間にも、地中を掘り進んだウィザードは、スネークダークネスの背後に回り、飛び上がった。
「だあっ!」
力を込めたウィザーソードガンを振り下ろす。
物理特性に秀でたウィザードの一撃に、スネークダークネスは悲鳴を上げた。
「よし……このまま……!」
スネークダークネスが振り返るよりも先に追撃にと、ウィザードは怪獣の長い尾を掴み上げる。
白く、ごつごつした尾。それを持ち上げ、振り回そうとすると。
「うわっ!? 何だコイツ!?」
突然、尾が動き出す。
まるで蛇のように、尾の先端が口を開く。そのままウィザードに食らいつこうとしてくるが、左手でその上あごを抑えた。
「コイツ、一体どうなっているんだ……!?」
だが、それに応える者はいない。
すでに長い尾とは別に、ウィザードへ敵意むき出しで迫るスネークダークネス。
その殴打をキックで相殺し、一度スネークダークネスから離れる。
尾が引っ込められて、投げられる赤い部位。
体で受けながらも、やがてウィザードはがっちりと赤いそれをホールドする。
そのまま、互いの力比べとなる。やがて、スネークダークネスは右腕を振り回し、ウィザードを放り投げた。
着地し、次の指輪を。
『バインド プリーズ』
束縛の魔法。土のウィザードならば、普段は地でできた鎖で相手を拘束する。
だが今回、この神秘の空間で発動したその魔法は、地下深くのミネラルを合成し、結晶の鎖となっていた。
それは、スネークダークネスの手足を拘束、動きを封じる。
スネークダークネスは唸り声を上げながら抵抗する。だが、普段以上の強度を持つそれは、決して壊れることはなかった。
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
発動する、必殺の魔法。
だが、
地下で蹴りの体勢に入ったウィザード。
だが、その必殺技が命中する前に、スネークダークネスが唸る。
その口から放たれた赤い光線が、ウィザードの蹴りと衝突。それはしばらく拮抗していたが、やがて。
「もう一発コイツだ!」
『ドリル プリーズ』
ウィザードのキックストライクに、回転が備わる。
勢いを増した黄色の必殺技は、スネークダークネスの光線を切り分けていく。
そして。
「だあああああああああああああああああっ!」
「_______」
それは、スネークダークネスの断末魔。
巨大な黄色の魔法陣を浮かび上がらせながら、スネークダークネスは力なく倒れていく。
やがて。
完全に沈黙したスネークダークネスは、そのまま爆発。
無数の鍾乳石を巻き込みながら、それは完全に消滅した。
「おやおや……」
スネークダークネスの一部始終を見届けたトレギア。彼はマーメイドを受け流し、グレムリンを投げ飛ばした。
「まさか、マスターからもらった怪獣が破壊されるなんてね……」
「次は……お前だ……!」
ウィザードは肩で呼吸しながら、トレギアへウィザーソードガンを向ける。
それに対し、微笑するトレギアは、爪から放たれた赤い斬撃でマーメイドとグレムリンをともに大きく引き離す。
「流石だね。ハルト君。やっぱり、君とならこの戦いも退屈しないで済みそうだ」
「俺はお前と長い付き合いにするつもりはない。お前は危険すぎる」
だが、トレギアはウィザードの言葉にも鼻を鳴らすだけだった。
「前も言ったけど、残業はしない主義なんだ」
「……?」
「本来の目的も果たしたし、持ってきた玩具も壊れてしまったし……今日はこれくらいでお開きにしよう……」
「ええ? 帰っちゃうの?」
トレギアに対し、グレムリンが残念そうに肩を落とした。
「君、少し面白そうなことしてたからさあ? 僕も知りたいんだけど」
「悪いね。ファントム君。私は誰かと協力なんてことは嫌いなんだ」
トレギアは、グレムリンを睨みながら言った。
だが、グレムリンは、トレギアから目を離し、彼が最初に破壊した祠を見落とす。
「君が破壊したこれ、一体なんだろう?」
「いずれ分かるよ。この見滝原にいる限り、無関係ではいられないんだから」
「どういう意味だ!?」
ウィザードがトレギアへ銃口を向けた。
だが、トレギアが答えることはない。
そのまま、その体は蒼い闇に包まれ、笑い声とともに消えていった。
後書き
ハルト「このあと地上に戻ったらタカヒロさんに滅茶苦茶怒られた」
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