ネクロノミコン
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第一章
ネクロノミコン
その書の名をネクロノミコンという。
狂えるアラブの詩人であるアブド=アル=アズラッドが書き残したこの書については色々言われている。
「実はこの人は邪教の信徒だったとかな」
「言われているんだな」
「そうなんだよ」
アメリカのある大学の中でフリードリヒ=シュテファン金髪碧眼で眼鏡をかけた太った青年は黒髪で細い目で面長の自分と同じ位の身長のアジア系の友人シェーリン=ヤンに話した。ヤンも同じ大学に通っているのだ。
「これが」
「アラブというとイスラム教徒だけれどな」
「表向きは」
シュテファンはヤンに喫茶店でレモンティーを飲みながら話した、見ればヤンはクリープが入ったコーヒーを飲んでいる。
「そうで実は」
「邪教の徒でか」
「そしてバビロンやメンフィスといった古い街を巡り」
そうしてというのだ。
「遺跡や名もない街やアラブの砂漠を巡って十年経て」
「遂にかい」
「人類以前の種族が残した恐るべき年代書を発見し」
「そしてそこからかい」
「キタブ=アル=アジフを書いたんだ」
この書をというのだ。
「そうしたんだよ」
「そしてその書がだね」
「当時錬金術や魔術を盛んに学んでいたアラビアで密かに写本が作られ」
「そこからだね」
「十世紀の中ごろにギリシア語に翻訳されたんだ」
そうなったというのだ。
「コンスタンティノープルの学者テオドラス=フィレスタスによってね」
「成程ね」
「そこで彼がネクロノミコンと名付けたんだ」
そのフィレスタスによってというのだ。
「そしてだよ」
「今の名前になったんだ」
「最初のキタブ=アル=アジフというのは魔物の遠吠えという意味だったらしいけれど」
それがというのだ。
「ネクロノミコン、死せる名前の書とかいう意味になったそうだ」
「ネクロノミコンはそうした意味かい」
「そうだよ、ただギリシア語版は原典のアラビア語版に図表を含むかなり忠実は翻訳だったというが」
しかしというのだ。
「内容があまりにもキリスト教に反していて」
「焚書だね」
「そうなって」
そしてというのだ。
「その殆どが失われたんだ」
「まだ欧州では印刷技術も入ったばかりかなかっただろうしね」
「君のルーツの国の宋の頃に出来てね」
「十世紀位だったね」
「ギリシア語版は丁度その頃に出たんだ」
「じゃあ印刷されたかどうか微妙だね」
「そうだね、だったら」
印刷されていたかわからないならというのだ。
「出回っていることも」
「あまり考えられない」
「元々ね、しかしそれがだよ」
そのギリシア語版のネクロノミコン達がというのだ。
「その焚書で殆ど失われてアラビア語版も」
「なくなっていたんだ」
「十字軍やらモンゴル帝国やらが来たからだろうね」
「戦乱の中で失われたか」
「イスラムの中でも色々あったし」
それでというのだ。
「そうしてだよ」
「殆どなくなったんだね」
「しかし僅かに残ったものがラテン語に翻訳され」
今度はこの言語にというのだ。
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