たたりもっけ
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第一章
たたりもっけ
松尾芭蕉はこの時河合曾良と共に岩手のある森を歩いていた、その時に。
曾良は周りを見回して芭蕉に言った。
「ここは随分と深く」
「そして寂しいですね」
芭蕉も周りを見回して言った。
「随分と」
「はい、本当に」
「こうした場所はです」
芭蕉はさらに言った。
「すぐに過ぎましょう」
「それが一番ですね」
「何かです」
ここでだった、芭蕉は。
周りを見回し続けながら顔を曇らせてこうも言った。
「恐ろしい、そして悲しい」
「そうしたものをですか」
「感じます」
こう曾良に話した。
「どうも」
「悲しいですか」
「ですから」
それ故にというのだ。
「ここはすぐにです」
「去るべきですか」
「そうしましょう」
こう曾良に言ってだった。
芭蕉は足を早め曾良と共に森の中を進んだ、その中で昼なのにだった。
「ホーーホーー」
「あれっ、これは」
曾良は森の中に響く梟の声を聞いて首を傾げさせた。
「梟ですね」
「そうですね」
芭蕉もその声を聞いて頷いた。
「これは」
「確かに森は深く暗いですが」
それでもとだ、曾良はその声を聞きつつ周りを見回して言った。
「ですが」
「まだお昼なのね」
「これはよくないです」
「そうですか」
「はい、ですから」
「ここを早くですね」
「いえ、その前にです」
芭蕉はここでだった。
急に下に敷きものを敷いてその上に座って静かに念仏を唱えだした、瞑目しそうした。曾良もそれを受けて。
彼の横に来て念仏を唱えた、そして。
それが終わると梟の鳴き声は聞こえなくなった、それを受けてだった。
芭蕉は立ち上がり共にそうした曾良に微笑んで言った。
「よくぞ共に唱えてくれました」
「お師匠様がそうされたので」
曾良は芭蕉に微笑んで答えた。
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