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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第14節「呪いの凶刃」

 
前書き
昼間は筆が乗らず、午後から書き進めていたのですがめっっっっちゃ遅れました。申し訳ありません。
何とか日付を跨ぐ前に更新する事ができました。

今回は第1章の終わりとなる回です。
翔くんVSノエル、ご覧下さい。 

 
「お初にお目にかかります。僕はノエル」

ノエルと名乗った青年は、腰からナイフを引き抜くと俺の方に向ける。

「伴装者、風鳴翔。君の相手はこの僕だ」
「つい最近、見たような顔だ。キャロルの仲間か?」
「ええ。あなた達が保護した出来損ない、エルフナインと同じホムンクルスですよ。まあ、僕はアレとは違ってこちら側なのですが」

もう一体のホムンクルス。それに加え、4体目のオートスコアラーか……。

おそらく、ここで響のギアまで破壊するつもりだろう。
最後の念押しに2人がかり、と言ったと辺りだろうか?

「響、こっちは任せろ。君はオートスコアラーを頼む」
「無茶はしないでねッ!」

そう言って響は拳を握り、赤毛のオートスコアラーへと向かっていった。

「懸命ですね。彼女を僕と戦わせていたら、無傷では済みませんでしたよ」
「どういう意味だ?」
「それは勿論……こういう意味ですよッ!」

次の瞬間、ノエルは一瞬で俺の目の前に接近し、ナイフを振り下ろしてきた。

「ッ!?」
「防ぎましたか。流石ですね」
「そのナイフは……ッ!」

禍々しいオーラを帯びた古めかしいナイフ。
咄嗟に構えた隠し武器、エルボーカッターが受け止めたそれは、ただの骨董品にしては物々しい雰囲気を醸し出している。

「哲学兵装、“切り裂きジャックのナイフ”」
「なに……?」
「あなた達が扱うのが“ウタノチカラ”なら、これに宿っているのは“コトバノチカラ”。長い時を経て積層された呪い、対象の在り方を捻じ曲げる想念の力を武器としたものッ!」

一度飛び退き、再び接近してはナイフを振るうノエル。
俺は両腕の刃で、その尽くを捌いていく。

振り下ろされればそれを防ぎ、突き出されれば受け流して鳩尾を狙う。
しかしノエルは突き出された掌底を、まるで地面を滑るようなバックステップで素早く躱す。そして再びスケートでもするかのように滑らかな踏み込みで接近し、俺にナイフを振るった。

剣戟を鳴らして幾度も交差する手刀と凶刃。ナイフの刃先がぶつかるだけで広がるヒリヒリした感触は、それが当たればただでは済まない事を示していた。

「人々の認識、想念から生まれた呪いだとッ!?」
「このナイフは切り裂きジャックが使っていたとされている物でしてね。人々がそう信じた時、このナイフには呪いが宿ったんですよ……」

そう言ってノエルは、戦っている響の方をちらりと見て、その口元に冷たい笑みを浮かべた。

「“狙った女性は必ず殺す”のが、切り裂きジャックという殺人鬼でしたからね……」
「ッ!?させるかッ!!」

拳を固く握り、眼前のノエルへと素早く突き出す。
しかし、ノエルはそれを素早く躱して俺の懐に入り込もうとする。

「ハアッ!ヤッ!」
「そんな野蛮な攻撃が、僕に当たるとでも思ってるんですか?」

次の瞬間、目の前からノエルの姿が消える。

この場合まず真っ先に警戒するべきは……。

「そこかッ!」
「ッ!?」

重心を一気に下に落とすと、左足を軸に背後へ反転。足払いを仕掛ける。
予想は的中。ノエルが狙っていたのは、俺の背後だった。

同時に、RN式を装着した俺の攻撃を躱し、一瞬で背後へと回り込んだスピードの正体も見えた。
尻もちをついたノエルの足裏に、緑色の小さな魔法陣が展開されていたのだ。

「その速さの正体は姉さんがロンドンでやり合ったファラと同じ、風属性の錬金術か……」
「ッ……タネがバレてしまいましたか……。ですが、それが何だと言うのですッ!」

俺の方へと向けられる、ノエルの掌。
緑の魔法陣が現れた直後、そこから竜巻が放たれる。

「ぐぅッ!!」

キャロルほどの威力ではないが、人間1人吹き飛ばすには充分な風圧が俺を襲う。

だが、その攻撃は既に見切っている。
両脚のアンカーを展開し、踏ん張る事で耐える。
それと同時に、俺はアームドギアを取り出し、構えた。

「イクタチモード……」

RN-01『イクユミヤ』。その特徴は、核となった聖遺物の特性により発現した、3種類のアームドギアにより臨機応変な戦法を取れる事だ。

取り出したのは近接戦闘特化型の『イクタチ』。赤い刀の形状をしたアームドギアだ。
基本的には2本で使うものだが、今こそ訓練中に見つけたあの技の使い時ッ!

俺は2本の刀を並列に繋げ、1本の刀にする。
姉さんの『風輪火斬』は、剣を直列に繋げた双刃刀に火炎を灯し、回転させながら放つ技だ。
回転の勢いに火炎による火力、更に両足のバーニアでの加速も併せ、威力とスピードを兼ね備えた大技で、俺も憧れていた。技名もすごくかっこいいし。

だから、俺もイクタチで似たような技が使えないかと訓練の合間に研究した。
より俺向きに、俺なりのやり方で。姉さんとも打ち合いながら。

そして先日、遂に完成した。
見せてやろう、鍛錬の成果を!

並列に繋いだイクタチを握り、踏み込むために両脚の位置を整える。

斬るべきは今もごうごうと耳朶を打ち、俺を吹き飛ばさんと押し寄せる竜巻。

その向こう側に、竜巻を発生させている魔法陣。

そして、切り裂きジャックのナイフを構えたノエル。

ノエルを取り押さえるためには、この竜巻を魔法陣ごと切り伏せるしかない。

チャンスは一瞬。失敗すれば竜巻に吹き飛ばされ、響も危ない。

仕損じるものか、必ず討ち砕く。

両脚を整えた後は、握った刀を左下に構える。逆袈裟の構えだ。
刀にエネルギーを溜めながら両目を閉じ、呼吸を整え集中する。

研ぎ澄まされた感覚が、風の向こうの気配を感じ取る。

充填されたエネルギーが電光となり、バチバチと音を立てて迸った。

その刃、雷纏いて、いざ参らん。風を斬り裂けッ!

「刃雷風裂ッ!!」

地面に突き立てたアンカーを外し、同時に逆袈裟斬りで刃を振り上げる。

稲妻を纏った双刃は電光石火の一閃となり、吹き荒れる暴風を魔法陣ごと、一太刀で斬り伏せた。

「な……ッ!?」

霧散する魔法陣の向こうで、驚愕するノエル。

マリアさんとガリィの戦闘から、奴らはこの状況からでも防御の術を持っている事は把握している。ならば……!

振り上げたアームドギアを、そのまま振り下ろすッ!

「おおおおおおッ!!」

防御されなくとも、直前にアームドギアを手放せばフェイントできる。
そこから拳で一発、それで決める──

そう思っていたのも束の間だった。

俺のアームドギアを受け止めたのは、予想していた魔法陣による防御ではなく……

「はあああああッ!!」

ノエルの雄叫びと共に長剣のような形状へと形を変えた、切り裂きジャックのナイフだった。

「な、何ッ!?」
「僕とした事が……まさか、この段階でこれを使わされるなんて……」

アームドギアと鍔迫り合う長剣。フランベルジェのようだがそれともまた違う、捩れた形状の刃を持った赤と黒の直剣。

こんなもの、明らかに切り裂きジャックとは無関係だろう!?
それとも、これも哲学何某とかいう呪いの力なのか……?

いや……この刃、何処かで見た覚えがあるぞ?

確か……エルフナインが持ってきたドヴェルグ=ダインの遺産!ダインスレイフの刃の欠片にそっくりじゃないか!?

「どうやら気付いてしまったみたいだね……」
「その刃は切り裂きジャックのナイフじゃなかったのか!?何故ダインスレイフが!?」
「トリックですよ。まあ、裏技と言うべきかもしれませんがねッ!」

鍔迫り合いはどちらも互角。
ノエルの長剣に弾かれ、俺は後ずさる。

「あなたのギアは、ここで破壊させてもらいますよ。ぜやあああッ!!」

隙を見せたな、と言わんばかりに長剣を振り下ろすノエル。

だが……武器の形が変わったことで、隙を生んだのはあちらの方だった。

「お前……ナイフの腕は悪くないが、剣術は素人だな」
「なに……?」

剣の重さに任せて力任せに振り下ろすだけの戦い方。そんなものを剣術とは言わない。
そして、剣を扱う者は剣を避け、刃を防ぐ術にも長けているものだ。

ノエルが振り下ろした長剣を素早く躱し、今度は俺が奴の懐に入る。

「ッ!しまッ──」
「うおおおおおッ!!」
「ご……ッ!?」

左頬に突き刺さる、渾身の右ストレート。
ノエルの身体は大きくバランスを崩し、仰向けに宙を舞って地面を転がった。

「がは……ッ!」
「許すと思うな……。俺は響を守ると誓った!響を脅かすと云うのなら、相手が何であれ絶対に許さないッ!」

そうだ。もう二度と手放すものか。
この手は絶対に、彼女の手を取りこぼさない。

何があっても、必ず守る──

「あはははははッ!」
「あ──うわああああああああああッ!!」

その時、耳をつんざくような悲鳴が鼓膜に突き刺さった。

「響!?」

咄嗟に振り返るとそこには……

舞い散る水飛沫と、いつから居たのか柱の陰で嗤うガリィ。

笑いながら頭上を見上げる赤毛のオートスコアラー。

破壊されたビルの天井。
そして……

「ァ……、ァ………………」

赤毛のオートスコアラーが放つ結晶状の武器にコンバーターを貫かれ、ギアを砕かれて落下する響の姿があった……。

「響……?」

嘘……だろ……!?

「響ッ!」

未来の悲痛な声が響く。

砕かれたとはいえ、ギアの効果なのかゆっくりと落下してくる響。

俺はノエルと戦闘中だった事を放り捨て、落下してくる響を救出するため走りだす。

地面につく前に受け止めると、響の全身を覆っていた光が消え、辛うじて残っていたインナーも消滅する。

そして破損したペンダントが、カランと音を立てて転がった。

「あ……響ッ!響ッ!響ッ!いや……ッ!響ぃぃぃッ!!」

未来の悲痛な叫びが、戦いで壊れた廃墟に反響する。

「響ッ!しっかりしろ!響ッ!春谷さん、響が──」
「よ……も……ずを……」

背筋にゾワリと悪寒が走る。ノエルの方からだ。
響を庇うように抱えたまま、俺は背後を振り返る。

そこには、先程の長剣を杖代わりにして、ゆらりと立ち上がるノエルの姿があった。

俯いているから、顔は見えない。
だが……先程までとは、まとう雰囲気が違っていた。

「よくも僕に傷を負わせたな、風鳴翔ぉぉぉぉぉッ!!!!!!」

怒号。

それは先程までの丁寧な言葉遣いではなく、ただただ怒りに任せた絶叫だった。

瞳孔をかっ開き、その表情からは笑みが失せ、鬼気迫る表情で俺を真っ直ぐに睨み付ける。

あまりの豹変ぶりに、オートスコアラー達でさえ驚いているようだった。

「ちょっとノエルちゃん、キャラ変わりすぎじゃないです……?」
「怖いゾ……あいつ、なんか怖いゾ~!?」

ノエルが握る長剣が放つ、禍々しいオーラが増していく。

ヤバい、何かヤバいッ!!

「未来!!響を連れて離れろッ!!」
「えっ!?」
「早く!!逃げろッ!!」

未来に響を預け、落ちていたペンダントを握らせる。

次の瞬間、ノエルは怒りに任せて長剣を振るった。
横一文字に。ただ、空を斬った。

すると発生したのは、斬撃だった。
範囲は広く、余裕でこの廃ビルの全体へと及ぶほどの大きさだ。

アームドギアを『イクユミヤモード』にして構えたのは、斬撃が届くギリギリのタイミングだった。
防御は間に合ったものの、思わず膝を着く。それほどの威力が、その一撃にはあった。

「ぐ……ッ!」
「翔くんッ!」
「ッ!翔様ッ!!」
「行けッ!!未来、春谷さん!響を……頼むッ!!」






俺が言い切った瞬間、1階の柱と壁を全て破壊された廃ビルは崩壊した。

最後に俺の目に映ったのは、春谷さんに連れられビルの外へと脱出していく未来。

そして、俺の方へと手を伸ばしている、気絶した筈の響の姿だった。 
 

 
後書き
次回、第15話『間奏─学士の来日─』

お楽しみに。 
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