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SAO(シールドアート・オンライン)

作者:ニモ船長
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第三話 (×血みどろの 〇ち実ドロの)LA争い

 
前書き
 
キリト「なぁ、この作品SAOの二次創作なのに俺達なんでこんなに出番遅いの?」

アスナ「その様子じゃ、他に仲のいい子とかいないでしょ君」



キリト「会話のドッジボール」
  

 
 

 「ほーう、キリトってあんなカワイー顔してたんだなぁ」


 アインクラッド第三層、ボス部屋での事だ。
 前話に引き続き、ハルキとグラントは攻略組の隊列の最後尾に混ざり込む様にして潜入していた。そしてその大部屋の中央にポップした大樹の様な姿のフロアボス、『ネリウス・ジ・イビルトレント』に向かって我先にと切り込んでいった黒いコートの少年を、グラントは目を細めて見やっていた。
 ベータ版SAO最強プレイヤーとして、彼は「キリト」というプレイヤーの噂を当時のあちこちの街で耳にしていた。何でもフィールドボス、フロアボス問わずレイドバトルの類で戦闘の最後の最後にLA……ラストアタックボーナスを掻っ攫っていくダークヒーロースタイルのハンサムガイだと聞いていたのだが……あのはじまりの街での、茅場晶彦によるアバターリアル化の影響を彼も受けたのだろう、その素顔は割りかし幼い風貌の持ち主であった。


 「おいこらグラント! よそ見すんじゃねぇ!!」

 「あ、悪い悪い」


 そんな背後にいるハルキの唐突な怒声もどこ吹く風、適当に返事をすると、目の前で自分に向かって蔓を振るってくるフロアボスの取り巻き、『フルーツ・ネペンツ』に盾を掲げる。
 今回二人は攻略組に名乗りを挙げに来たわけではなく、攻略組のプレイヤー達の持つレベルや装備、そして技量を測る事を第一目的としていたので、攻略会議にも参加していなければ、ボスの特徴や注意点などは何一つ知らされていない。よって不用意にフロアボスに突撃するよりかは、周りにポップする雑魚敵を倒すサポート役に徹しようという算段であったのだ。


 (それにしても、この男は……)


 フロアボス戦開始直前にグラント自身の言葉で聞いた、彼がベータテスターであるという事実が、ハルキの頭の中でもぞもぞと蠢いていた。
 いや、別段ハルキにはグラントを非難したり責めたりするつもりはない。何というか、彼の場合宝箱の一件にしてもとても他のプレイヤーの面倒を見ている暇なんてなかっただろうし。
 だが……ハルキの中で、ベータテスターがもう少し一般プレイヤーの事を気に掛けてくれていれば、という思いは確かに存在していたのだった。
 少なくともそうすれば、あの子は助かったかもしれないのに。いや、それはきっと甘えだ。分かってはいるけれど。


 「おいおい、お主だって心ここにあらずって感じだぞ?」

 「何をっ……おわっ!?」


 今度はグラントがハルキには軽口をたたく。思わず言い返そうとしたハルキだったが、その時ちょうどネペントの攻撃が彼の頭を跳ねようとしている事に気づき、慌てて飛んできた蔓を打ち払う。


 「あっぶね、キリないぞこいつら……」

 「まあそりゃフロアボスの雑魚敵だし無限にポップするでしょ。
 こっち今三体受け持ってるぞ、まぁメッチャ楽しいから良いけど」

 「こんのガードホリックめ……たぁっ!!」


 今現在、ハルキとグラントは背中合わせで戦っている。恐らく倒した数で言えば圧倒的にハルキの方が多い(というかグラントは端からモンスターを倒す気などない)のだが、それも二体以上に囲まれないように一対一のうちに手早く敵を倒しているからである。対してグラントは初めから一度に三体に囲まれ集中砲火を浴びながらも、それを平然と盾で受け切り受け流している。
 だがその均衡も直後の一念発起したハルキの奮戦によって崩れた。目の前のネペントを目にも留まらぬ速さで斬り上げ、そのままムーンサルトの要領で宙返りして後方に飛ぶ。そしてグラントの目の前、彼を囲む三体のネペントの背後に降り立つや否や、手にした剣を左右に振り払う。もちろんゲーム内だからこそできる動きだ。……リアルでも出来るとか言わないでね?


 「グッジョブ。さすが超人ソードマン」

 「何かむかつくなそれ……まあ、それはともかくだ」


 今日も絶好調のグラントに苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら、ハルキは自身のウィンドウを手早く操作すると、アイテムストレージの中に入っていたそれを実体化させた。


 「えっと? これ、何?」

 「いいから持っとけって。大真面目にまずい事態になった時のためだ。ほんとは俺が使いたかったんだけどな」


 ハルキによって半ば強引にグラントの空いた右手に押し込まれたそれは、第三層のモンスターからドロップする素材で作られる短剣、「ブルースティレット」だった。まあ、使用を強制されないのならこれくらい持っててもいいか……と、グラントは不承不承それを受け取り、やがてハルキから飛ばされてきたトレードを承諾した。


 「って、俺が使いたかったって、ハルくん短剣も使えたりするんですかね?」


 少し考えてその結論に至って、グラントが恐る恐るハルキに尋ね、そのソードスキル無しプレイヤーが不敵に口角を上げた、その瞬間だった。


 「全員、後退――――ぐあぁぁぁっっ!!」


 ただならぬ雰囲気に、二人はその悲鳴の出処……ボス部屋の中心に目を向けて、サッと顔色を変えた。
 フロアボスのイビルトレントが全く予備動作なしに、その身体から紫色の霧の様なものを周囲に噴出させていた。そしてそれに包まれたプレイヤーが唐突に動きを止め、次の瞬間には壊れたゼンマイ玩具のように動揺し出したのだ。


 「あれって……毒攻撃か?」

 「うむ、恐らくはね……でも、あんな攻撃ベータテストのときには無かったぞ……!?」


 いや、本当はちゃんと迷宮区攻略会議の時点で言ってたんだけどね?キリトさん達が情報を集めて、攻略組の皆に伝えてたんだけどね?知らないの君たちだけね?
 なにはともあれ、そう珍しく焦った表情で返答するグラントを一瞬見やり、そしてハルキは小さく息を吐く。


 「……あのさ、グラント」

 「ん? ハルくんどしたの?」


 グラントは振り返ったが、フロアボスの方を向きながら俯いているハルキの表情はよく見えなかった。


 「もしあんたがあの洞窟で閉じ込められていなかったら、あるいはもし、それ以外にもあんまりバカやらかさないでさ……第一層攻略の時点でもうあの攻略組に入れるくらいに強くなってたら。
 その時は俺達みたいな一般プレイヤーを、もうちょっとでも助けてくれたかな?」


 そう、それがハルキのわだかまりの正体だった。
 目の前のこの落武者男が、どういう人間なのか。それは順当にこれから知り合ううちに少しずつ見出していく筈のものだったというのに。「ベータテスター」というその言葉は、ハルキからその機会を奪い去ってしまいそうで。彼を仲間として受け入れるチャンスを失わせてしまいそうで。
 いや、そもそもベータテスター達全員をよく思わないこと自体おかしな話ではあるのだ。中にはビギナーのために援助を積極的に行っている者がいることもハルキには分かっていた。情けない話だがそれはもう、純粋に意地の問題だったのだ。
 だからこそ、直後のグラントの返事は、ハルキにとってはとても嬉しいものだった。


 「え? いやそりゃそうでしょ。置き去りになんてしたら絶対に後悔するだろ」


 ……本当に、いるんだ。こういうベータテスターだっているんだって。信じていいんだ。
 置き去りにしたプレイヤーの事を考えて、悔やむベータテスターは、ちゃんといるんだ。
 それはハルキにとっては本当の意味で、救いだった。


 「え、ちょっとハルくん? 大丈夫? 体調悪い……って」


 ハルキのいつもと違う雰囲気に違和感を覚えたグラントだったが、直後に攻略組からさらなる悲鳴が上がったのを聞き、もう一度ボス部屋の中央を見る。
 どうやら毒の霧を浴びてしまい慌てていた十数名のプレイヤーによる前衛が、直後にイビルトレントによって放たれた範囲攻撃に巻き込まれて半壊してしまっているようだった。そして残念ながらヘイトが向いてしまっているのだろう、倒れているプレイヤーのうちの一人……腰に細剣の鞘を差した亜麻色の髪の女性プレイヤーに向かって、フロアボスはゆっくりと歩いている。


 「へへ……そりゃ、嬉しいね。それだけでも、聞けて良かった」


 横からの声に、再びグラントはハルキの方を向く。もう彼に先ほどまでの暗さは感じられなかった。
 その代わりに感じるのは、隣にいてもひしひし感じる程の、凄まじい闘志。


 「……ありがとな、グラント!!」


 そして次の瞬間には、ハルキはフロアボス目掛けて弾丸のように駆け出していた。


 「アスナ!! 今すぐ避けろ――――って、え?」


 おそらくここまでのボス戦においてもっとも与ダメージ量の多いプレイヤーである「ビーター」ことキリトさんの横を、ハルキは目視出来ない程の速さで駆け抜ける。そしてキリトが呼びかけたその狙われた女性プレイヤー、アスナの前に躍り出て。
 フロアボスから繰り出された鞭のようにしなる枝を自身の片手直剣で斬り落とし、そしてその惰性を利用して動けないアスナを抱えて横にジャンプした。


 「す……すげえ……!!」
 「誰だよ今の!」


 ハルキの見せた一連の鮮やかな救出劇に攻略組全体がどよめいた。それこそまるでキリトがソードスキルを駆使して行うようなその場に適した挙動を、ハルさんは自身の能力のみでやってのけてしまったのだから無理もない。
 だが当の本人はというとそんな外野の事は全く気にしておらず、抱えていたアスナを床に下ろすと、


 「よっ。危ないところだったな」

 「ど、どうもありがとう……あなたは?」


 さすがSAO本編メインヒロイン。言うべきことが分かってるぅ。頼むからハルくん、アスナさんをキリトさんから奪わないでね?


 「俺はハルキ。剣が好きな、ただのゲーム初心者だぜ!!」


 うわー、くっさー。と、周りの皆は思った。残念ながら本人は気付いていないけど。でもこれで、ハルくんがアスナさんを取っちゃうことはなくなったな……と思ったのだが。



 「で……でも、ハルキさん……? あなたは……!!」







 直後。
 そんな甘々なシーンにたっぷり時間を掛けさせてくれる程、ここのフロアボスは甘くはなかった様だった。特定モーションがあったわけではなかったが、攻撃モーションもしてこないあたり先程と同じ、毒の霧をまき散らそうとしている事が見て取れる。


 (まずい……!!)


 ハルキはアスナの口から放たれた最後の言葉に気を取られてその瞬間、反応が遅れてしまった。こういう事多いなハルくん。才能はマジでワールドクラスなのに全国大会出場止まりなのはそういうとこだぞ。
 だが、今のハルキには。



 「おうおうおう、無策で突っ込んじゃだめだろーよ?」



 推定最狂の、盾使いがいるのだ。


 「ぐ、グラント!?」

 そう、やっとのことで前線に追いついた落武者男グラントが、二人の前に立ちはだかっていた。その表情は晴れやか、自信満々である。


 「アスナ、無事か!? ……えっと、君たちは誰だ? ハルキさん? と……?」


 そこにようやくキリトさんが駆け付け、そして状況を把握すべく乱入してきた二人に問いただす。それに対して先程寒い返答をしてしまったハルキに代わって、グラントが答える。


 「俺はグラント。なあに、ただのガードホリッカーさ、キリトさんよ?

 ……『ポイズンガード』」


 そして、ボスの毒の霧発生に合わせて、正式サービス開始以来グラント初の、「盾ソードスキル」を発動させた。




 「なっ……!?」

 「毒状態に、ならない……!」


 まるでテレビショッピングの様に驚いてくれたモブ攻略組のお二人、ご協力ありがとう。っていうかみんな盾スキルそんなに上げてないの? いいのそれ?
 因みに今、グラントが使った「ポイズンガード」というソードスキル、盾スキルの中ではマジで他のゲームで言う所のスライム相当な基本スキルである。ここまで知名度低いの、可笑しくね?


 「……習得してる人、いたのか」


 だが実際はというと、キリトさんでさえビックリの案件だった。「自身から半径10メートル以内に位置する自分を含めたプレイヤーの毒耐性を上昇させる」というこのソードスキル、特定の状態異常(つまり毒のみ)にしか適用されないことからベータ時代から殆ど重要視されなかったというのに。


 「ほら! ハルくんチャンスだぜ!! LA貰っちゃえぇぇぇ!!」


 そして次のこのグラントの言葉によって、攻略組は一斉に活気づいた。毒の霧は連続して発動してこない事はこれまでの二回で分かっているのだ。もう恐れるものはない、そう確信したプレイヤー達がフロアボスに殺到したのだ。
 ただでさえアインクラッドを踏破せんとする精鋭の攻撃でその体力を半分近くまで減らしていたエビルトレントは、その後一分と経たぬ間に残りバーひとつまでヒットポイントを削られた。そしてそのなけなしの体力もものの数秒でみるみる減少し。


 「範囲攻撃来るぞ!総員、回避!!」


 さすがのフロアボスも死にたくはないようで、最後の抵抗と言わんばかりに範囲攻撃を繰り出してきた。またこちらも命が大事な攻略組の大半はこれを一旦避けるため、一斉に後ろに飛びのいたのだが、そのタイミングで逆にボスの攻撃を避けながら前に飛び出したプレイヤーが四人ほどいた。


 「今回も俺がLA頂くぜ!」
 「今度は負けないわよ、キリト君!!」
 「LAってなんだかわからねぇけど、とどめは俺が刺す!!!」
 「みんな盛り上がってるところ残念だけど、LAは俺のものだぜ!!!!」


 はい、上からキリトさん、アスナさん、ハルくん、グラント。上二人はともかく、ハルくんやっぱりLA知らなかったね。そしてグラント、お前さんはどうやってとどめを刺すつもりだい。
 だがここでエビルトレントはさらに、自身の上端……大樹の枝先に沢山生っていた攻撃判定のある実を弾幕状に落としてきたのだ。


 「う、うわっ!?」
 「きゃあっ!?」


 ここで予想外の攻撃に思わず横に飛びのいてしまったのがアスナさんとハルキ。残念ながら二人はLA争いからは脱落である。キリトさんはいつものことながら持ち前の反射神経で実を最低限かわしながら速度を落とさず疾走していたのだが、まーたやらかしてるのがグラントさん。盾を頭上に掲げて実を防ぎ、飛び出たドロドロの中身で全身を真っ赤に染めながら、流石ガードホリッカー、滅茶苦茶気持ち悪い笑顔を浮かべている。もう軽くトラウマものだぞ。
 だがそこまでしても二人のステータスビルドの違いによってか、ボスにはキリトさんの方が先に到達するようだった。このままじゃLAとられちゃう! どうするグラント! どうするんだ!!


 「させるかああぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

 「なっ……うおぉぉっっ!?」


 ……またやってしまいました。いや今度のはちょっとまずかった。みんなドン引きだよ、今日ホント絶好調だね、どーした。
 事もあろうにこの落武者男、ちょうど下段突進技「レイジスパイク」を発動させてボスに肉薄するキリトさんに向かって、盾をブン投げたのである。そしてその盾は上手い事ボスとキリトさんの剣の切っ先に割り込んで、そのソードスキルを失敗……ファンブルさせる事に成功してしまったのである。
 この時、真の意味でボス部屋が凍り付いた。未だかつて、仲間の攻撃を妨害するプレイヤーがいただろうか。LA争いって、そうやって争うもんだっけ。


 「はーっはっはっは、残念だったなキリトぉ!? LAは俺がいただ……く……」


 とにかく、こうなってしまってはもうグラントの一人勝ちである。スキルをキャンセルされその場で尻餅をついて転んだキリトさんにもはや敵役が言うようなセリフを吐き、彼の前に転がっていた盾を拾い上げ余裕綽々でボスに接近して。


 「……あり?」


 がんがん。ごんごん。


 「……おっかしいなぁ、なんでこいつ消滅しないんだ? ラグでも起きたか?」


 がんがんがん。ごんごんごん。


 「んー、まいったなあ。じゃあしょうがない、ハルくんから貰ったこれで……終わり!」


 すかっ。


 「…………」
 「グラントさん、一応言っておくけど」


 ぎくり、とその声に背筋を震わせて、グラントは振り返る。


 「盾でモンスター殴ったって、ダメージ入らないぜ。 あと短剣は……残念」


 ずががっ。
 起き上がったキリトさんと追いついたアスナさんが落ち着いてボスにソードスキルを叩き込み、果たして第三層フロアボス攻略はここに終結しましたとさ。ちゃんちゃん。



 「……え?」

 
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