探偵オペラ ミルキィホームズ ~プリズム・メイズ~
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秘密
迷都ストックホルム。
ヨハンネス教会の裏手、警察署もほど近い、レゲリングス通り。
近くにはフムレ公園、王立図書館、ストリンドベリ博物館などがあり、地下鉄の最寄り駅はロードマンスガータン。
ともかくもそんな一画に、その探偵事務所はあるのだった。
「ふん、ふふふ、ふん♪」
誰かがシャワーを浴びている。彼女は蛇口をひねって湯を止めーー、ふと、さっきまで水音で気づかなかった、ドアの外の物音に気が付いた。
ーーこんなに朝早くに、客か? まさか。
慎重にM1877・ライトニングを構え、ドアを少しだけ開ける。そこにいたのはーー
「・・・ネロ・ユズリザキ」
「・・・あれ?」
のんきそうな顔をした少女がアメを口にしたまま、机の上にあった授業のテキストーー昨日置き忘れて帰ったらしいーーを手に持ったまま、動きを止めている。
「--誰だっけ。どこかで会ったことある気がするんだけど・・・」
「ウィルバーだよ」
「嘘! ウィルは女の人じゃないよ」
「ちょっと待ちなさい」
バス・ルームに引っ込んで、いつもの通りの格好をしたウィルが出てきた。
ソファに座って教科書を読んでいたネロが、拍手する。
「おぉ~。すごい、変装だ」
「どっちが?」
黒猫のワトスンが尋ねる。
「さっきのが、変装でしょ。そしてこっちが本物。」
「・・・変装で裸の胸が大きくなったりするのかい。」
「なるかもしれないじゃん。トイズだよ、トイズ」
適当なことを言うネロ。
そう言う間にも、昨日の残りのクッキーを一枚、口に放り込んだ。
「・・・迂闊だった。鍵は掛けておいたはずなんだけど・・・」
「電子ロックでしょ。トイズで外したよ」
「・・・そうか」
がくりと肩を落としているウィルバー。
「ウィルって、ここで寝泊りしていたんだね。全然知らなかった」
「・・・うん。新米探偵っていうのは、運転資金に乏しいものさ」
開業して三年だ。
(・・・訊かないのか? なんで男の格好をしているか、って)
ウィルは不思議に思うが、敢えて訊かれたいことでもないので、そのままにしておく。
「譲崎君、学校は?」
「これからだよ。ここから1キロも離れてないんだから、すぐに着くし」
言いながら、ちら、とウィルの顔を見上げるネロ。
くす・・・、とウィルは小さく笑った。
「やっぱり訊きたいんだね。この格好のわけ」
「!! そ、そんなことないって。誰だってコスプレ趣味のひとつやふたつ・・・」
「趣味かよ」
ワトスンが毒づく。
「ぼくにはウィルバーという兄がいた。警察官をしていたんだけどある日、音信不通になった。--誰も行き先を知らない。ある組織の調査にかかわっていたらしいということしか、分からなかった」
「・・・」
肩をすくめる、ウィルバー。
「探偵助手さんには、このくらい知っておいてもらえばいいかな」
「べ、別に僕が聞きたいなんて言ってないからな! ウィルが勝手に喋ったんだ」
「はいはい。」
わめくネロをほうっておいて、キッチンのほうへ向かうウィル。
火の上にフライパンを置いて、卵をふたつ、冷蔵庫から掴み取る。あとはベーコンと・・・。
「食べていくだろ? もう朝ごはんを食べてきたなんて言わせない」
「名推理じゃん。あ、卵はスクランブル・エッグにしてよ。砂糖も入れてね」
「注文の多いお嬢さんだな」
猫のワトスンが苦笑した。
後書き
読んでくださった方、サンキューです!
ここいらでオリジナル人物をまとめておきますと、
①ウィルバー・キヅキ、②花梨・ナンシー、③黒猫のワトスン
迷都ストックホルムでミルキィの四人と出会った、探偵と、メイドと、飼い猫。
次回はようやくミルキィホームズがもう一人登場です。
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