| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

歪んだ世界の中で

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十九話 初詣その八

「それでもね。その為に動くことはね」
「そうしないと最悪の事態に対処できませんから」
「それは決して悪いことではないから」
「じゃあそうした時にはね」
 そうした話もだ。新年のたいこ橋の上でしてそのうえで。
 四人でまずは神社の中心に向かいそこでだった。
 まずはお賽銭を払いお願いをした。四人でそれをしてから。
 千春は希望に顔を向けて彼に尋ねた。その尋ねたこととは。
「何をお願いしたの?」
「わかってるんじゃないかな」
「千春とのことだよね」
「うん、そうだよ」
 その通りだとだ。希望は千春に笑顔を向けて答えた。今の彼にとって千春は幸せの源だ。だからそのことを願わない筈がなかったのだ。
 それでだ。彼は願ったというのだ。
「ずっとね。千春ちゃんと一緒に楽しく過ごせる様にってね」
「そうお願いしたんだ」
「そうだよ。それで千春ちゃんは」
「同じだよ」
 千春も答える。そうだと。
「千春もだよ」
「そうなんだ。千春ちゃんもなんだ」
「そうだよ。千春も希望とずっと一緒にいられる様にって」
「お願いしたんだ」
「幸せに過ごせる様にって」
 住吉の中でもだ。千春はにこにことしていた。
 周りは人でごった返している。その中で話すのである。
「そうお願いしたんだよ」
「僕達一緒になんだ」
「そうだね。同じお願いをしたんだね」
「嬉しいよ、本当に」
 希望は今この瞬間に幸せを噛み締めた。
「こんな初詣はじめてだよ」
「いつも僕と一緒だったんですよ」
 ここで真人が言ってきた。
「お正月も。けれど」
「今みたいなことはお願いしなかったの」
「はい、遠井君も僕も」
 真人は少し寂しい顔になった。その時のことを思い出して。
「僕は今は北野さんとのことをお願いしたのですが」
「私もだけどね」
 その鈴が気恥ずかしそうに言ってきた。彼女もまた。
「友井君のことお願いしたよ」
「そうなんだ」
「こんなことお願いできませんでした」
 真人もだ。そうだったというのだ。
「ただ。今年一年も無事でいたい」
「そうお願いしただけなんだ」
 真人と希望が話す。
「二人だけでは。お互いの傷を舐め合うだけで」
「とてもそうはできなかったんだ」
「ですが今は違います」
「千春ちゃんとのことをお願い出来る様になったんだ」
 ただ閉じ篭っている様なお願いではなくだ。そこから進めたというのだ。
「僕はそのことがとても嬉しいんだ」
「僕もです」
 希望も真人もだった。笑顔で話す。
「それだけ変わったってことかな」
「そう思いますが」
「いい感じに変わったんだね」
 千春は希望と真人の話を聞いて笑顔になった。
「そうだね。それじゃあ」
「うん、千春ちゃんとのことをお願いできたんだ」
「そうなりました。僕は北野さんとのことを」
 だが、だった。ここでだ。
 希望と真人はにこりとなってお互いを見合いそうしてだ。こうも話すのだった。
「勿論ね。友井君とのこともね」
「僕もですよ」
「これからもずっと。友達として」
「一緒にいられる様にと」
 お願いしたというのだ。二人の絆はそれぞれの恋人のそれと同じく強く固いものだった。それこそが二人の絆に他ならなかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧