Fate/WizarDragonknight
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うまい! うまい! うまい!
「うまい!」
ハルトは、そんな声を聞きながら、皿洗いをしていた。
「うまい!」
一口一口に対して、そんな感想がキッチンまで聞こえてくる。
堪らなくなったハルトは、キッチンからフロアに顔を覗かせる。
可奈美が苦笑しながら見つめている、その相手。少し時代を逆行したような学ランを着用している青年は、全く瞬きをしないまま、机に置いてある定食を口にしている。
「うまい!」
嬉しい感想を述べながらの彼を眺めながら、ハルトは可奈美に耳打ちした。
「ねえ。結局、あの人何者なの?」
今朝、シフトのために昨日ぶりに帰ってきた。その間、可奈美とココアが美炎たちに町を案内していた。
しばらくして、可奈美達もまた、外から帰ってきた。
憔悴した表情のココアと、ボロボロの可奈美、美炎、清香。そしてコヒメ。
最後に。
この、はきはきした表情の青年。
「さっきも軽く言ったけど、聖杯戦争……セイバーのサーヴァントだよ」
「サーヴァント……」
その単語を聞いただけで、ハルトの顔が曇る。
だが、可奈美は弁明するように手を動かす。
「で、でも! マスターは美炎ちゃんみたいだし……きっと、私達と同じ、戦わない選択だってできるはずだよ!」
「信用していいのか?」
ハルトは頭を抑えながら呟いた。
聖杯戦争。
これまで出会ってきた、他の参加者たち。その大半は、自らの願いのために積極的に殺し合いに参加する者ばかりだった。
愛のため、欲望のため。果ては、子供じみた夢のため。
この青年が、彼らと同類ではないとどうして断言できるだろう。
「そうでなくても、そもそも二日連続で身寄りのない人が増えるって、一体どうなってるんだこのご時世は……」
一方、相変わらず「うまい! うまい!」と一口ごとの感想を述べる青年。
ハルトは、青年の隣のテーブル席で気絶している美炎たちを見つめた。
美炎と清香はそれぞれ机に突っ伏しており、それぞれ「疲れたよ~」「助かってよかった……」と声を上げている。
一方、コヒメは青年を見つめてながら、ハルトが先ほど出したオレンジジュースを飲んでいる。
「コヒメちゃん、あの人は……?」
ハルトが話しかけると、コヒメはストローに付けていた口を離し、ハルトへ目線を向けた。
彼女の人間離れした金と銅色の目が、ハルトの姿を捉え……その、ハルトの姿が別の者に見えてしまう。
「分からない。でも、悪い人じゃないと思う」
「だといいけど……」
ハルトは、業を煮やして、青年……セイバーの向かい席に腰を落とす。
「セイバー。ちょっといい?」
「うむ! うまい!」
肯定しているのか無視しているのか分からない彼の返答に、ハルトは滝汗を流す。
彼の横でどんどん積みあがっていく皿を見ると、果たしてこの支払いは誰がするのだろうかと否が応でも心配してしまう。
「アンタは、何か願いでもあるのか?」
「うむ! 誰でも願いはあるな! 君にはあるのか!? 青年!?」
「俺はないけど。それより、この質問は結構大事なんだよ!」
ハルトの声が大きくなっていく。
だが、セイバーは構うことなく、箸を進める。
また一口ずつ口に入れるたびに発せられる「うまい!」という感想に、ハルトは口をきっと結ぶ。
「それで? 願いはあるの? ないの?」
だが、一切瞬きをしないセイバーは、じっとハルトを見つめる。
「それは先に、君が言うべきではないのか!?」
「……」
セイバーの一言に、ハルトは押し黙った。
セイバーは続ける。
「うむ! 君はどうやら、私がこの聖杯戦争に参加するかどういかを危惧しているようだ!」
「ずいぶんと直球で言うんだね」
ハルトが言い放つ。
だが、セイバーは構わず続ける。
「安心したまえ! 君が私の敵にならない限り、私もまた君の敵にはならん!」
「……そりゃそうでしょうね」
ハルトは投げやりに答えた。
「俺が一番危惧しているのは、アンタが……」
「うまい!」
「話聞いてよ!」
だが、止まらずに食を進めるセイバーに、ハルトは項垂れた。
「それより、君もどうだ!? これ、中々うまいぞ!」
「そりゃあ俺が作ったものだからな! それより……」
「君も食べるか!?」
「だからこっちの話を聞けって……むぐっ!」
さらに、もう一度話に戻ろうとするハルトへ、セイバーは卵焼きを押しこんだ。思わずごっくんと飲み込んだハルトは咳き込む。
「い、いきなり何するんだ!」
「気が立っているとのは良くないぞ!」
「誰のせいでこうなってるとお思いですか!?」
ハルトが机を強く叩いた。
すると、セイバーは「はっはっは!」と笑い、
「うむ! やはり食事はいい! さあ、君も!」
「俺はいいってか俺今お仕事中!」
ハルトはツッコミを入れながら、ぐったりと肩の力を抜く。
「……ねえ。ハルトさん。別に今問いたださなくてもいいんじゃない?」
見かねた可奈美が、ハルトの肩を叩いた。
「まずは美炎ちゃんにも、聖杯戦争の説明はしなくちゃいけないし。そもそも、このサーヴァントのマスターは美炎ちゃんなんだから」
「……そうだね」
ハルトは頷いて、席を立つ。
相変わらず瞬きさえしないセイバーは、じっとハルトを見て。
「悩んでいるな! 青年!」
「アンタのせいだよ!」
ホールをココアとチノに交代し、ハルトと可奈美は、来客たちをハルトの部屋に案内した。
「どうして私の部屋じゃダメなの?」
「今の可奈美ちゃんの部屋を人様に見せたくないからだよ!」
さっきから叫んでばっかりになっている気がする。
ハルトはそう思いながら、自らの部屋のドアを開けた。
「何? 可奈美、相変わらず片付けできないの?」
クスクスと笑う美炎。
かあっと顔を真っ赤にした可奈美は、
「ち、違うよ! 何度も片付けやってるよ! ただ……その、片付けている内に剣術の動画を見たくなって……」
「その部分が剣術じゃなくて恋愛漫画とかだったら普通の可愛い女の子っぽいんだけどなあ」
「ちょっと!」
可奈美がハルトに掴みかかる。腕を強く振られながらも、ハルトは左手で電気を付けた。
「あっはは! そうだよね! 可奈美の剣術大好きは、本当にすごいもんね!」
「ああ、ようやく理解者が現れた……!」
美炎が同意してくれたので、ハルトは感激を覚える。
これまでハルトが可奈美の部屋のことを語っても、誰も信じてくれなかった。可奈美自身が誰も中に入れたがらないのもあって、ココアやチノもその惨状を知ることもなかった。
「本当、可奈美ちゃんの片付けのできなさはビックリするよ……あ、適当にくつろいで」
「まあ、そんなに広くないけどね」と、ハルトは自虐気味に言った。
もともとラビットハウスに備え付けられている机と、その向かいに置いてあるベッド。その足元に少しずつ置いてある大道芸の道具と、旅をしていた時のリュックに詰め込んだ着替えだけが、数少ない私物だった。
「あの……松菜さんが衛藤さんの部屋の内情を知っていることに誰も疑問を持たないんですか?」
部屋の入口で、清香が尋ねた。
だが、ハルトはけろっとした表情で答えた。
「だって、しょっちゅうハルトさんには片付け手伝ってもらってるし」
「この前完全に綺麗にしたのに、数日で元通りなのには参ったよ」
ハルトは頭をかきながら言った。
「うむ! 仲良きことは良きことかな!」
いつの間にか部屋の中へ先回りしていたセイバーが、窓際で宣言する。
一方、部屋の入り口で清香が俯きながら顔を赤くしているが、構わずハルトは続ける。
「さて……そもそもお店じゃ話せないのは、ココアちゃんやチノちゃんを巻き込めないから。でも、美炎ちゃんには絶対に聞かせなくちゃいけないこと。清香ちゃんとコヒメちゃんは……部外者だけど、まあ刀使だから、何とかなるかもしれないけど」
「え?」
清香が目を白黒させた。
「もしかして、これ聞いたら危ないことなんじゃないですか?」
「あー……まあ、そうかな?」
「嫌です嫌です!」
清香がコヒメに抱き着きながら訴える。
だが、狭いラビットハウスの部屋で清香がコヒメを連れて逃げるスペースなどない。セイバーが清香の壁となり、結局逃げることもできなくなっていた。
「あ~……まあ、諦めて」
「諦めたくないです!」
だが、ハルトは続けた。
「いいよね? 可奈美ちゃん……」
「うん。大丈夫だよ。美炎ちゃんは強いから」
ハルトの目線が自動的にコヒメへ移る。
物珍しそうにハルトの大道芸用具につんつんと触る、人外の少女。外見を気に擦ればただの好奇心旺盛な少女にしか見えない彼女を気にしながら、ハルトはセイバーへ目線を移した。
「……アンタから説明してもいいんだけど?」
「うむ! だが、初対面の私の言葉より、彼女たちと見知った顔の君の方が信じやすいだろう!」
「俺もアンタのマスターとは昨日初めて会ったんだけどなあ……まあいいや」
ハルトはそして、説明を始めた。
聖杯戦争。
そして、見滝原に来てからの戦いを。
「可奈美……」
説明を全て終え、最初に零れた言葉は、美炎の唖然とした声だった。
「この町に来て、ずっとそんな戦いを続けてたの……?」
「うん」
いつの間にか部屋の隅で、腕を組んでいた可奈美は頷いた。
「たった一つの願いをかけた戦い。私も、ハルトさんも……その、参加者だよ」
「クリスマスのムー大陸の騒ぎは、私達も覚えてるよ。調査隊で、各地の怪物を倒したりもしてたし。でも、それも聖杯戦争が原因だったなんて……」
「その前のアマゾンだって、大きなニュースになっていましたよ。それに、この前の見滝原ドームの破壊だって、ネットニュースの一面になってましたし」
美炎と清香がそれぞれ呟く。
ハルトは頷き、
「美炎ちゃんの右手にある、その令呪。それが、君とセイバーを繋げているんだ」
「……」
ハルトのその言葉に、美炎は令呪とセイバーを見比べる。
ハルトは続けた。
「それが、聖杯戦争の参加者の証。そして、サーヴァントへの絶対命令権。使用可能回数は三回だけど、君はもう一回使ってるから残り二回だね」
「どうしてほのちゃんなんですか?」
その震える声は、清香からだった。
彼女は、コヒメを抱き寄せながらハルトへ訴える。
「この町に来たのは、わたしも一緒です! それなのに、どうしてほのちゃんだけ……?」
「俺にも分からないけど……」
ハルトは、可奈美と顔を見合わせる。
可奈美も、分からないと首を振って見せた。
「結局、条件も何も、俺たちには分からないんだ。魔力……多分、所謂オカルト的な魔力だけでなく、可奈美ちゃんみたいな異能の力を持っていたり、元々人間とは違う人が持っていたり、多少普通の人間より魔力が多い人だったり……」
ふとここで、ハルトは自らの言葉に疑問を抱いた。
蒼い髪の少女、そして凶悪な宇宙人。
人外の彼らがマスターになったのなら、美炎ではなくコヒメがマスターになりそうなものだな、と考えてしまう。
「それに、それは願いにも起因する!」
やはり大きな声で宣言したのは、セイバー。
「マスターはあの時、そこの少女を助けたいと冀った! 魔力と願いの反応で、令呪が生まれたと同時にそれを使って私を召喚したのだ!」
「それって……私と同じ」
可奈美が呟いた。
セイバーは、さらに続ける。
「詰まるところ、マスターの願いはその少女……コヒメ少女と言ったかな? 彼女を助けることだろう。その願いが、おそらく私を呼んだのだろう」
「聖杯が、コヒメちゃんを助けたい願いを認めたわけね……それじゃあ、次。アンタの番だよ」
ハルトは、ため息をつきながらセイバーを見る。
「サーヴァント、セイバー! 炎柱、煉獄杏寿郎だ!」
ただ名乗った。
それだけなのに、なぜか彼の雰囲気に圧倒された。
「……願いは?」
「誰一人として死なさん! 以上だ!」
後書き
響「さて! 今日も人助け! 誰かいないかな……?」
響「いないなあ。まあ、誰もいないのはいいことだよね」
響「ん?」
旅人「あ、どうも」
響「おおッ! なんか、バイクに跨った、いかにも旅人って感じの人が公園に!」
旅人「いかにもというより、旅人なんだけど」
響「ええッ!? この現代社会に旅人っているんだ! ……って、ハルトさんも旅人だったんだっけ?」
旅人「それより、ここは良い所ですね。穏やかで空気が澄んでる。都会の真ん中とは思えない」
響「そりゃあまあ、皆大好きな憩いな公園ですから」
バイク「あれれ? もしかして、公園に住んでるの?」
響「そうだよ! この公園のテントに間借りして住んでてバイクが喋ったあああああッ!?」
バイク「どうも」
旅人「気にしないで。それより、この季節って寒くない?」
響「寒いですけど……あ、それより時間だ! 今回のアニメ、どうぞ!」
___一人きりで 眠れない 夜に落ちても 闇の中に 瞳とじて 星の輝きに耳を澄ましてる___
響「キノの旅!」
旅人「2003年4月から7月と2017年の10月から12月に放送されたアニメだよ」
響「2003年……2003年!? 2期まで随分と間が空いたんだね!」
バイク「違う違う。これはリメイク。制作も声優も一新されて作り直したんだ」
旅人「最も、放送した話は、人気投票から選ばれているから、一部同じ話もあるけどね。あと、2005年には劇場版も公開してるよ」
響「すごい……根強い人気ッ!」
旅人「ボクとこのモロラド、エルメスが様々な国を訪れる冒険譚。どんな国でも、滞在は三日だけだって決めているんだ」
響「国?」
旅人「町のこと。今回の見滝原は、今日で三日目。また別のところに行くよ」
バイク「それじゃ、そろそろ行こうか」
旅人「そうだね。それじゃあ、お姉さん。またね」走り去る
響「か、かっこいい……! わたしもッ!」
コウスケ「行くとか言うなよ」
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