魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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G編
第100話:絶対に離さないし、絶対に離れない
前書き
どうも、黒井です。
今回で漸く颯人と奏の戦いは決着です。
「ハァァァァァッ!」
「デヤァァァァッ!」
颯人と奏の戦いは徐々に佳境に向かいつつあった。
序盤、多彩な魔法やスタイルチェンジで奏を翻弄していた颯人だったが、戦っている内に奏が颯人の多彩な動きに順応し始めてから天秤が奏に傾き始めた。
そもそもの話、奏は颯人の手の内をよく知っている。何処で仕掛けてくるか、何をしてくるかを奏は熟知していた。伊達に何時も颯人に手品による悪戯で弄ばれてはいない。
「こんにゃろ!?」
〈コネクト、プリーズ〉
フェイントや小手先の技が通用しなくなて来た奏相手に、颯人は焦りを感じながら次の手を打つ。本来は遠くの物を取り出したりするのに使うコネクトの魔法を、奏の死角から攻撃するのに使用した。魔法陣に突っ込んだウィザーソードガンを持つ颯人の手が、奏の完全に見えていない場所から飛び出す。
「甘いんだよ!」
しかし奏はそれにも対抗してみせた。自分の死角を分かっている彼女は、颯人が突いてくるだろう方向を読み彼が魔法陣に手を突っ込んだと同時にそちらに向けてアームドギアを振るった。これは決まったと思った攻撃をあっさり弾かれた颯人は、それでもめげずに攻撃を続行。攻撃を弾かれたり躱される度に別の方向に魔法陣を展開し様々な方向から奏を攻撃するが、奏はその全てに対抗してしまった。
「ちっ、やるな奏?」
「伊達に毎回颯人におちょくられてないんでね」
「はっ! 言うじゃねえか。だがその割には、何処の馬の骨ともわからねえ奴の口車にあっさり乗せられてるなぁ?」
「それは!…………それ、は……」
途端に奏から勢いが失せた。気が抜けたかのように茫洋とした顔になり、明後日の方を見て思案に耽る。
「アタシは……颯人を助ける為に、颯人と戦う? 何で? 戦うしかないから? 本当に? 他に方法は? 颯人を助ける為なのに、アタシが颯人を苦しめてる?」
突然自問自答を始め、ブツブツと呟く奏の姿に颯人は徐々にだが彼女に掛けられた魔法が綻び始めているのを感じた。
颯人を助ける為という名目で奏を颯人にぶつけるように仕向けたようだが、それが裏目に出始めた証拠だ。
「苦しめたくない……颯人を苦しめたくない!? でもこうしてる間にも颯人が壊れていく? あぁ……あぁそうだ、悩んでる場合じゃなかった。早く颯人を、颯人を倒して助けなきゃ!?」
このまま自問自答の末に自力で洗脳を解いてくれないかと期待した颯人だったが、それは希望的観測が過ぎた。自分を取り戻してくれるかと思ったが、洗脳の方が強くて再び戦意を取り戻してしまったらしい。
アームドギアを構える奏の様子には、先程までの余裕がなかった。まるで何かに追い詰められたように、焦りを浮かべ必死の形相で颯人の事を見ている。
予想以上に奏を洗脳した魔法使いは魔力も魔法も強いらしい。颯人は舌打ちせずにはいられなかった。
「チッ……見てろよクソ野郎。奏は絶対取り返して見せるからな」
「颯人ぉぉぉぉぉっ!!」
意気込みを新たにする颯人に対し、奏が再び攻撃を開始する。
振り回されるアームドギアは雷の様な苛烈さを持っており、一撃でも喰らえば変身している颯人もただでは済まないことは明白だ。
颯人は防御に専念し、必死に奏の攻撃を喰らわないようにする。しかし激昂して容赦が一切なくなっているからか、今の彼女の攻撃を完全に防ぐことも回避することも完全には出来ず何発もの攻撃が彼の体を掠めていく。鎧は徐々に傷だらけになり、蓄積してきたダメージの所為か彼自身の動きも鈍くなってきた。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
だんだんと傷だらけになっていく颯人の姿に、奏の心が悲鳴を上げているのか悲痛な顔で叫びながら攻撃してくる。まるで自分の身を削りながら攻撃しているかのようだ。
その様子に颯人も堪らず心を痛めた。
「奏…………お前、そこまで――――」
思わず颯人が動きを止めてしまった、その瞬間奏の攻撃が颯人に襲い掛かる。
「らぁっ!!」
「しま、ぐぅっ?!」
鋭い刺突が颯人の胸の装甲に直撃し、彼の体を大きく吹き飛ばす。車に跳ね飛ばされたかのような有様に、それを成した張本人である奏が声を上げる。
「颯人っ!?」
悲鳴のような奏の声を受けつつ、颯人は地面に激突する。全身を苛む激痛に、颯人は仮面の奥で顔を顰めながら尚も立ち上がる。
「ぐ、いつつ……何だよ奏? こうしたかったんだろ?」
「え、あ……」
「こうしてでも俺を止めて戦いから遠ざけたかった……それがお前の望みだったんだろ? 違うか?」
「そ、そうだよ……アタシは、力尽くで……颯人を……止め、たくて……」
「なら、こんな事で迷ってんじゃねえよ!? お前の俺に対する愛を、もっと俺にぶつけて見せろ!!」
「あ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
挑発とも取れる颯人の言葉に、奏が悲鳴を上げながら攻撃を再開した。
先程吹き飛ばされた時にウィザーソードガンはどこかに飛んで行ってしまった為、今の彼は無防備だ。嵐の様な奏の攻撃を、颯人は無手で何とかやり過ごしていく。
――さて、俺の体が持つかどうか……――
これは一種の賭けだ。奏の颯人に対する想いを揺さぶり心に衝撃を与える為には、ただ奏を攻撃したのでは不可能。奏に掛けられた、洗脳かそれに近い魔法を跳ね除けるレベルで奏の颯人に対する想いを爆発させなくてはならない。
つまり、ここからが奏を元に戻す為の本当の戦いの始まりという訳だ。今颯人に求められるのは只管奏の攻撃を耐え、彼女の心が限界まで颯人への想いを膨らませるのを待つ事だった。
正直、彼自身も辛い。奏の攻撃に耐える事が、ではない。自分が奏の攻撃で傷つくことで、奏が悲鳴を上げる事が、である。
本当なら今すぐにでも奏に攻撃を止めさせたい。変身を解き、素顔を晒して、辛そうに顔を歪める奏を抱きしめて安心させてやりたい。
しかし、それは駄目だ。それでは意味がない。奏を本当に助けたいと思うのなら、今颯人に求められるのは耐える事だった。
何故なら、颯人と同じように奏もまた耐えているのだ。例え魔法により想いを歪められても、根元にある彼女の颯人に向ける愛は変わらない。その愛が、間違った事をしている自分を必死に止めようとしている最中なのだ。それは彼女の叫びや辛そうな顔が物語っていた。
ここが踏ん張りどころである。
「とは言え、ははっ。キッツいなぁ~」
ボヤキながらも耐え続け、遂には満足に動くこともできなくなってしまった。
立つだけでやっとな様子の颯人を前に、奏はアームドギアの先端を向ける。
「颯人……もう勝負ありだ。降参して、魔法の力を捨ててくれ。例え颯人が魔法使いを辞めたって、アタシはずっと颯人の傍に居るから……」
最後通告を突きつける奏。恐らく颯人が拒否すれば、奏はトドメの一撃を放ってくるだろう。
だからこそ、颯人は首を横に振った。
「悪いな。いくら奏の頼みでもそれだけは絶対に聞く訳にはいかねえや」
「あ、そ…………それじゃあ――!」
体を引き絞り、突撃の体勢を取る奏。もう颯人が限界だと知って、余計な技に頼らぬ純粋な一撃で仕留めようというのだろう。
その様子に颯人が仮面の奥でニヤリと笑みを浮かべた。
「これで、終わらせる。…………愛してるよ、颯人」
その言葉を合図に、一気に突撃する奏。今までで一番の速度を持つその一撃は、確実に今の颯人を瀕死にさせる事が可能だろう。
目前に迫る必殺の一撃。変身していれば辛うじて命だけは助かるだろうそれを前にして――――――
颯人は変身を解いた。
「――――――え?」
傍から見れば視認する事すら困難な一撃の中で、奏は自身の槍の一撃が颯人の胸へと吸い込まれるように突き進む様子をスローモーションで見ていた。
戦闘不能レベルで収まる瀕死に追い込めるのは、颯人が変身していればの話だ。生身でこんな一撃を喰らえば、ミンチになってしまいかねない。
今から攻撃を中断しようにも、既に放たれた矢の如き一撃は止めようがない。この攻撃はそれだけの速度を持っていた。
そして肝心の颯人はと言うと、自身を殺しうる一撃を前に目を瞑り静かに佇んでいた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
奏の絶叫が響く中、槍は颯人に向かって一直線に突き進み――――――寸でのところでギリギリ颯人を掠めるように攻撃がそれ、颯人ではなく颯人の背後の地面を抉り取った。
あと一歩で颯人がミンチになるというところで、奏が何とか攻撃の軌道をずらして外したのだ。
「はぁっ!? はぁっ!? はぁっ!?」
あと一歩で自分が颯人を殺すかもしれなかった事実に、奏は疲労とは別物の汗を大量に流す。
最悪の事態を招く寸前だったことで自分を恐れる奏を前に、颯人がゆっくりと目を開けた。
「…………信じてたぜ、奏」
「は、颯人――!?」
「お前は絶対に、俺を殺さない。本気でヤバいって時には、自力で踏みとどまってくれるってな」
自信たっぷりの笑みでそう告げる颯人を前に、奏は力無くアームドギアを手放すと未だ震える手を颯人に伸ばした。
恐る恐る奏は颯人の体に触れる。特にあと一歩で風穴どころか胴体が真っ二つに引き千切れそうだった胸板は念入りに触った。胸から伝わる颯人の体温と、心臓の鼓動が彼の生存を奏に実感させる。
その事実に奏は両目から涙を零し、次の瞬間彼の胸倉を掴んで押し倒した。
「この馬鹿ッ!?」
「うぉっと!?」
何かアクションがあるだろうと思っていた颯人だが、散々奏の攻撃に耐え続けた体は彼のいう事を聞かず奏の勢いに耐える事が出来ずそのまま押し倒された。受け身は取ったので後頭部を地面にぶつける事は避けれたが、奏の体重に押し潰され彼の口から意図せず潰れたカエルの様な声が飛び出る。
「ぐぇっ!? いてて……」
押し倒された衝撃で背中を打ち、痛みに顔を顰める颯人の上で奏は今度は彼の胸倉を掴んで引っ張り上げた。
「馬鹿野郎ッ!? 颯人お前、自分が何したか分かってるのか!?」
「あん?」
「あと一歩で死ぬかもしれなかったんだぞ!? 今度は前の時と違う!? 耐えるとか耐えないとかの問題じゃないんだ!? アタシが攻撃逸らしてなかったら、お前今頃――!?」
止め処なく涙を流しながら颯人の無謀な行動に怒りを露にする奏だったが、対する颯人は何も反論しない。
一頻り颯人の危険な行動に対し、怒りの言葉を吐き出し続けた奏だったがその勢いも次第に衰えていく。
そして危険なことをした颯人への怒りが落ち着いてきたら、今度は彼への罪悪感が前面に出てきた。
「ゴメン……ゴメン、颯人――!? アタシ、何て事……」
颯人に対しては勿論、翼にもとんでもない事をしてしまった。謝って許されるようなものではないことは分かっているし、魔法で洗脳されていたことを言い訳にするつもりもない。
ただただ、颯人達に迷惑をかけてしまったことが奏は申し訳なく、何より自分が情けなくて許せなかった。
颯人の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らす奏。そんな彼女を颯人はそっと抱きしめる。
「気にすんな……っつっても奏は聞かないだろうな」
「当たり前だ!? アタシが……アタシが弱かったから、あんな言葉に踊らされて、自分を見失って……。あと一歩でアタシは、自分で颯人を――――!?」
罪悪感で心が壊れそうになっている奏の顔を、颯人は両手で包むようにして上げさせ額を突き合わせた。
「いいか奏? 俺は気にするなとか、そう言う在り来たりな事は言わねぇ。そんなこと言っても無駄だって分かってるからな」
そんな陳腐な慰めで、今の奏を癒す事はできない。それは彼女と付き合いの長い、颯人自身がよく分かっている。
だからこそ、颯人は別の言葉で奏を元気づける事を選択した。
「ただこれだけは覚えておけ。俺は絶対に奏の前からは居なくならねぇ!」
これっきりだ。颯人が原因で奏が泣くのは、これで最後。もう絶対に颯人は奏の前から居なくならないし、奏の手を離すこともしない。正真正銘、自分が奏にとっての希望になると誓った。
「俺は奏が好きだ! ただの好きじゃねえ、愛してる! 誰にも渡さねえし、離れもしねえ! いいか? 何度でも言ってやる。俺は奏を愛してる。だから絶対離れねぇ!」
「は、颯人――!」
「だから、俺を信じろ! どこの誰とも知れねえ言葉に惑わされんな。誰が何と言おうと、俺はもう奏を置いてどこかに行ったりしねぇ!」
迷いなく告げられる颯人の言葉に、奏は罪悪感も何もかもを洗い流された。今彼女の心にあるのは、颯人に対する愛しさと安心感。彼が傍にいてくれるという事実による、胸の温かさを感じていた。
「…………信じて、良いんだよな?」
「当たり前だろ。誰に向かって言ってんだ? 俺は奇跡を起こす男の息子だ。それにな、俺は奏の歌があれば何時でも全開なんだよ。この二つが合わされば、それくらい訳ねぇっての」
自信たっぷりの颯人の言葉に、奏も思わず笑みを浮かべた。まだ目からは涙が流れているが、先程までの陰鬱とした気持ちはどこかへ消え失せていた。
奏の笑みに、颯人も安心して頬を緩めた。
「……ま、それでもまだ奏は心配だろうからな。だから奏が絶対安心できるとっておきの呪いを用意してやるぜ」
「呪い? なんだそれ?」
「それはこの件が終わってからのお楽しみ」
「何だよそれ、気になるだろ!」
「だからだよ。意地でもこの件終わらせて帰ろうって気になるだろ?」
颯人は全てを語らず、思わせぶりな事だけを告げて立ち上がる。もうさっきまでの事はどこへやら、奏もすっかり何時もの調子を取り戻し、好奇心を煽るだけ煽って終わらせた颯人に唇を尖らせた。
「……これ終わったら絶対教えろよ?」
「勿論。約束だ」
立ち上がった颯人は奏に手を差し出して、彼女が立つのを手助けした。迷わずその手を取り立ち上がった奏は、その勢いを利用して颯人に顔を近づけると彼の唇を素早く奪った。
「んっ……」
「ッ!」
突然の奏からのキスに、一瞬固まる颯人。その隙に奏は唇を離し、彼のそれと触れ合った唇を悪戯が成功した時の様な笑みを浮かべながら舐めた。
「信じてるからな、颯人。さ、行こう!」
「……へっ、ったくよぉ。あぁ、急ぐぞ! 皆が待ってる!」
今回はしてやられたと言う思いに、しかし満更でもないという笑みを浮かべつつ颯人はマシンウィンガーを取り出し奏と共に走り出すのだった。
後書き
と言う訳で第100話でした。
颯人が奏に掛けようとしている呪いは……まぁ簡単に想像できるでしょう。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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