戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~
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第12節「唄えぬ理由はどこにある?」
前書き
しんどいシーズンPart3です。
今更ながら、動かさないといけないキャラが多い……。
こうしてみると、毎回よくもこの人数を動かせてるな?既に両手じゃ足りないわ()
あと昨日、ワクチン二回目行ってきました。
今、作者は副反応で朝からグロッキーです……。インフル以来の熱とダルさ。こんな~気分は~は~じめて~(ヤケクソ)
それでは、いよいよミカちゃん登場です。ハラハラしながらお楽しみください。
ガリィ襲撃翌日の午後。響を除く装者たちは、本部の発令所に集められていた。
純のRN式アキレウスまで破壊された今、残る戦力は響と翔の2人だけ。
だが、昨日の戦いで響がシンフォギアを纏えなかった事が、大きな波紋を呼んでいた。
「了子さん、立花は何故唄えなくなってしまったのですか?」
「そうね。あなた達にも無関係とは言えないから、説明しておくわ」
了子はスクリーンに、昨日の響の映像を映し出す。
唄おうとするも胸に聖詠が浮かばず、咳き込む響の姿に、装者たちは怪訝な表情を浮かべる。
「シンフォギア・システムは、適合者が戦意や願い、祈りといった強い想いの波動をコアとなる聖遺物の欠片に共振・共鳴させる事で、想いの送り主の胸にコマンドワードを反響させる事で起動するの」
「つまり……えーっと……どういう事デス?」
「他者への感情の高まりを起動条件に、胸に起動コードを送るのよ」
「分かりやすく言うなら……愛、だな。他人を想う気持ちがないと、シンフォギアは力を貸してくれないって事だ」
「さっすがツェルトくん!そういう事よ♪」
「なるほど!愛を持たないならず者には、力を貸してくれないって事デスね!」
「……ちょっと寒気がしたわね」
首を傾げていた切歌は、どうやら「愛」の一言で納得したらしい。
マリアは何故か背筋がゾクッとさせていたが、理屈は何となく実感出来るようだ。
「それで、響は今どういう状態なんだ?」
「そうね……今の響ちゃんは、他者に向ける感情が高まるような目的意識が、ごっそり抜けてる状態ね。戦う意思を無くしちゃったのに加えて、シンフォギアを纏うだけの願いや祈りも見失っちゃってるのよ。つまり、歌う理由を忘れちゃってるみたいね」
「……あたしが、追い詰めちゃったのかな」
「奏……」
ボソッと呟き、俯く奏。
響がシンフォギアを纏えなくなった原因の一端を、自分に感じているようだ。
「先輩風吹かしたばっかりに、後輩を追い込んじゃうなんて、情けないな……」
「そんな事ないよ、奏」
奏が振り向くと、翼は彼女の顔を真っ直ぐに見つめる。
「奏は立花のためを思って言ったんでしょ?自分を責める必要はないと思う」
「けど……」
「遅かれ早かれ、あの子はああなっていたと思うわ。あなたのせいじゃない」
「誰かが言わなかったら、立花はもっと苦しむ事になっていたかもしれない。だから、奏が落ち込む事なんてないよ」
翼に加えて、歳上のマリアからも諭され事で、奏も納得したらしい。
「後で響に謝っとかないとな……」
「その時は、わたしも一緒に行くわ」
「そういえば、響さんは?」
「翔と純も来てないじゃねぇか」
「学校には来てた筈なんですが……」
調とツェルト、セレナが発令所を見回すが、響は来ていない。
するとクリスと弦十郎が、言いにくそうに切り出した。
「あー……響は今日、ちょっとな……」
「響くんには、メンタルのケアが必要だったからな。翔も少し頭を冷やしたいらしい」
昨日、それぞれ本人や未来を経由して事情を聞かされた2人は、複雑な面持ちで溜め息をついた。
ff
「──なるほど。だから今日の2人はよそよそしかったんだね」
「翔と立花さんが一度も喋らないなんて、よっぽどだよね……」
「なーんか距離あるなと思ってたら、夫婦喧嘩で別居中かよ」
「紅介、それ今シャレにならない」
「悪ぃ、今の忘れてくれ」
教室の角では、純といつもの4人が、翔を囲むように集まっていた。
「本当に、あんな言い方をする気はなかったんだ……。ただ、これ以上響に傷ついて欲しくなくて……」
「葛藤の末に出た言葉が、立花さんを傷つけてしまった。本当に言いたい言葉は、喉でつっかえて言えなかった。そういう事なんだよね?」
「本当に、俺はなんてことを……。響にどう謝れば……」
机に肘をつき、落ち込む翔。
恭一郎や飛鳥らは、かける言葉が浮かばず顔を見合わせる。
「今思うと、怖かったんだ……。このままだと、響は“普通の女の子”で居られなくなってしまう気がして……俺が引き戻さなきゃって、強く感じたんだ。引き戻すチャンスは今しかない、ってさ……」
「翔……下向いたままなんて、君らしくないぞ」
純はそう言って、翔の視線を上げさせる。
顔を上げた彼の視界には、いつだって余裕を崩さない親友の顔があった。
「大切だからこそ、言えなくなっちゃう言葉もあるよ。大き過ぎる想いの全てを紡ぐには、言葉じゃ足りないくらいだもの」
「言葉じゃ足りない……?」
「そう。だから人類は、想いを旋律に乗せて伝える事が出来る“歌”を生み出したんだ」
それはかつて、フィーネが語った先史文明期の歴史にも触れる言葉だった。
研究によれば、世界で初めて音楽が成立した時期は今以て定かでなく、中でも“歌”の歴史は楽器が生まれるよりも古い。一説によれば、その由来は旧石器時代にまで遡ると言われている。
そして、かつてフィーネの口から語られた統一言語とその喪失。
それらを併せると、朧気ながらに見えてくる事実がある。
『歌は統一言語を失った人類が生み出したものである』
いつの時代も不足、喪失こそが人類をより豊かに発展させるきっかけとなってきた。
統一言語は過不足なく正確に、人々に互いの意志を伝える事が出来たらしい。それが失われた時、人類はきっと混乱したはずだ。
だから歌が生まれた。そして、歌には無限の力が宿っていた。
フィーネがシンフォギアに『歌』を力とするコンセプトを付与したのは、もしかすると彼女の希望が込められていたのかもしれない。
「だから、翔も伝えてみたらいいんじゃないかな。響さんと同じように、歌を通じて、手を繋ぐ方法で」
「歌で手を繋ぐ……か」
俺に出来るだろうか?
言葉にしていないが、そんな不安を滲ませる親友に、純は背中を押すための言葉を贈る。
「翔ならきっと出来るさ。だって……君は立花さんの王子様なんだから」
(そうだった……俺が伴装者になったのは、響を守りたいからだ。響の人助けを支えたくて、俺はこの力を手に入れたんだ!)
曇りなき瞳で、淀まずかけられた言葉。
それは翔の心を、己の原点へと立ち返らせるに十分であった。
「男なら、どんな逆境も諦めない。そうだろう?」
「ああ!お陰でバッチリ目が覚めた」
「それはよかった。なら、どうするべきかは分かるよね?」
「未来さん、今、立花さんとふらわーに向かってるんだって」
「おっ、丁度いいじゃねぇか。謝るついでに、超絶美味ぇお好み焼き食って仲直りできる。完璧じゃねぇか!」
「そうと決まれば善は急げだ。翔、行ってこい!」
「グッドラック。応援してるよ」
親友達のエールを受けて、翔は席を立つ。
「皆、ありがとう。俺、行ってくる!」
教室を出ていく翔を見送る友人たち。
翔の背中が見えなくなると、紅介は冷やかすように笑う。
「『立花さんの王子様なんだから』なんてクサい言葉、よくスルッと出てくるな~」
「悲しみや苦しみも分かち合い、抱え込まずに相手へ捧げる。それが本当の王子様だからね」
「かーっ、ホンットかっこいいヤツだなお前!冷やかしたこっちがかっこ悪くなるじゃねぇか!羨ましいわ!!」
「逆に紅介はもう少し落ち着きと節度が必要なんじゃないかな……」
「んだよ恭一郎、俺は俺だろー!ありのままの俺を受け止めてくれる人が、いつか見つかるかもしれねぇだろ!」
「あはは……いつか見つかるといいね、そういう人」
未だ春の来ない熱血野郎、紅介。彼の悔しさ溢れるシャウトに苦笑しながら、純は窓の外を見つめる。今日は朝から曇り空。そろそろ雨が降ってもおかしくない。
そういえば、傘は持ってきていただろうか?
忘れてはいないはずだが、念の為自分の鞄の中を確認する純であった。
「豚玉、ミックス、タピオカあんこの生クリームたっぷり……兄さん、お腹空いてない?」
「流星、最後のそれは本当にお好み焼きなのか……?」
ff
一方その頃、都内の旧リディアン音楽院付近……通称、特別指定封鎖区域と呼ばれる区画の近くに存在する商店街。
1年前のルナアタックまでは、学生達の溜まり場として活気に満ちていたその地域は、今ではすっかり寂れている。
殆どの住民が立ち退いた中、変わらずそこで店を続けているのが、お好み焼き屋『ふらわー』のおばちゃんだ。
そして、響と未来はそのふらわーへと向かう最中であった。
「翔くんに言われた事、気にしてるの?」
「気にしてない、って言ったら嘘になるかな……」
響の心境を表しているかのような曇天。
今にも雨が降り出しそうな空は、響の表情により一層陰を落としていた。
「翔くんなりに、わたしの事を心配してくれての言葉だとは思うんだけどね……。あんな言い方されちゃうと、わたしに求められていたのはガングニールを纏って戦う力だけで、人助けがしたいっていうわたし自身の想いの方はどうでもよかったんじゃないかって……そんな風に考えちゃって」
「響……」
「ダメだよね、わたし。翔くんはそんな人じゃないって、分かってるのに……」
そう呟くと、響はまた俯いた。
「わたしね……ひょっとしたら、翔くんに甘え過ぎてたのかもしれない」
「甘え過ぎ……?」
「うん……翔くんなら、わたしの言う事は何でも受け容れてくれる。どんなに無茶な事言っても、何だかんだ言って肩をもってくれるって……」
未来はこれまでの翔を振り返る。
確かに、翔はなんかんだで響に甘い。時に厳しい事も言うが、それは常に響のためを思っての言葉だった。
そして、常に響のやりたい事を尊重し、ダメな所はダメだとハッキリ言いつつ、折衷案で上手いこと舵取りしていた。
今回のように、全面から否定したのは初めての事だ。
「だから、ショックだったんだと思う。今回も翔くんなら、わたしの味方になってくれるんじゃないかって。……奏さんやマリアさんの言ってることは、きっと間違ってないのにね……」
「響はどう思ってるの?シンフォギア、辞めたいの?」
親友の口から、改めて投げかけられた問いかけ。
突然だった昨日と違い、今日は散々悩んだ後だ。響は暫く考えて、それから口を開いた。
「辞めたいと思った事は、全然無いんだ。不思議だよね、あんなに怖い思いもしたし、痛い思いもしたのに……辛かった気持ちよりも、この手を誰かに伸ばせた時の温かい気持ちの方が、ずっと強いんだ……」
「そっか……。じゃあ、やっぱりシンフォギアを纏う事は、響にとって一番やりたい事なんだね」
「うん……」
しかし、肯定の言葉と裏腹に、響の表情は重たいままだ。
「やっぱりまだ、唄うのは怖いの?」
「う……うん。誰かを傷つけちゃうんじゃないかって思うと……ね……」
誰かを傷つけてしまうことを、立花響は極端に厭う。
その性質は1年前から全く変わっておらず、事件に巻き込まれる度、随所で発揮されてきた。
ある時は甘さだと吐き捨てられ、ある時は偽善と罵られた。
極端な潔癖思想とでも言うべきそれは、彼女の運命の転機となった3年前の事件、ライブ会場の惨劇がきっかけと言える。
他者に深く傷付けられた経験があるからこそ、彼女は他者を傷付ける事を厭う。
立花響にとっての未熟さであると同時に、彼女にとっての心の傷。否定する事は出来ない性分であった。
それを誰より理解しているからこそ、小日向未来は考える。
どうすれば、響の迷いを断ち切る事が出来るのか。
奏やマリア、そして翔が本当に伝えたかった事とは、一体何だったのかを……。
やがて未来は足を止め、再び響へと問いかけた。
「響は、初めてシンフォギアを身に纏った時のことって覚えてる?」
「どうだったかな?無我夢中だったし……」
「その時の響は……誰かを傷つけたいと思って歌を唄ったのかな……?」
「え……」
一年前、初めてガングニールを纏った覚醒の夜。
ノイズに襲われていた少女を抱え、必死で街を走り続けた時。
追い詰められ、体力は殆ど尽き、最早これまでかと諦めかけた瞬間。
胸に、歌が宿った。
あの日、あの時、あの夜に、自分は何を想ったのだろう。
立花響は考える。
(あの時……わたしが願ったのは……)
その時だった。
「ッ!?誰!?」
「あなたは……」
突然現れた赤髪の訪問者。
その両手には、触れるもの全てを切り裂かんとする巨大な鉤爪。つり上がった口角には、ギザギザとした歯が並ぶ。
火の天使の杖と名付けられた戦闘人形は、響の方をじっと見つめると、恐怖を感じるほどに無邪気な声で呟いた。
「み つ け た ゾ」
後書き
終末の四騎士って名前も、ガリィ達のフルネームも、本編ではほぼ使われなかったし、こっちで積極的に使っちゃいますね。
ガリィとの戦闘後、本部食堂にて
マリア「ハァー、しんど……」
ツェルト「お疲れ、マリィ」
マリア「遅めのランチを豪華に奮発した甲斐があったわ。LiNKER打たなくても、どうにかこうにかギアを纏えたんだもの」
ツェルト「あー……その事なんだが」
マリア「なぁに?無茶してまた心配かけさせちゃった?」
ツェルト「いや、それもあるんだが……なあマリィ、本当にランチを豪華に奮発したら、LiNKER無しでも何とか戦えたんだよな?」
マリア「まさか、冗談よ。そんな事で適合係数に変化があるわけないじゃない」
ツェルト「そうとも言いきれないぞ?」
マリア「えっ?」
ツェルト「『飯食って、映画見て、寝る』、風鳴司令がよく言ってるだろ?」
マリア「あのトンチキ理論?翔が『間に入る説明が飛ばされてるからトンチキに聞こえるだけだ』って言ってる、あの?」
ツェルト「そうだ。俺も未だに半信半疑なんだが、もしあれが事実だとするなら……」
マリア「……まさか、そんな……私がLiNKER無しで何とか戦えたのって……!?」
ツェルト「研究の余地はあると思う。ちょっと了子さんに相談しようかな?」
マリア「いやいや、そんな根拠もない話が……あるわけ……無いわよね?」
ツェルト「あるかな……いや、あるかも……?」
セレナ「マリア姉さんとツェルト義兄さん、難しい顔で何話してるのかな……?」
次回、ミカちゃん大暴れ。更にノエルも現れる。
果たして、翔は響に本心を伝えられるのか──お見逃し無く。
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