歪んだ世界の中で
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第十七話 冬の入り口その三
「そうしてくれるからね」
「千春が?」
「そう。だって夏も秋も見せてくれたから」
「千春は何もしてないよ」
だが自分ではだ。千春はこう言うのだった。
「希望にね。何もね」
「そうかな。僕はやっぱり」
「希望が気付いたんだよ」
「僕が」
「そう。希望がね」
「僕が気付いたのかな」
「そうだよ。見えていたことに気付かなかったんだよ」
「そうだったのかな」
「千春は何もしていないから。希望と一緒にいるだけだよ」
こう言ったのだった。そしてだ。
希望にだ。千春は自分からこう言ったのだった。
「それで今からプールに行くけれど」
「冬でも泳げるからね」
「いいよね。千春お水大好きだからね」
「そういえば泳ぐの本当に好きだよね」
「山にいてもね。千春はお水が好きだから」
「海よりもプールの方が好きみたいだね」
「お塩が合わないから」
海の塩、それについてはだった。
千春は少しだけ拒否する顔になってだ。こう述べたのだった。
「だからプールの方がいいの」
「プールのお水も結構塩素とかが入ってるけれどね」
消毒用のだ。だが千春はプールの水についてはこう言ったのだった。
「ううん、ここのプールのお水は違うから」
「あっ、そういうの入れてないんだ」
「そう。だから千春あのプールが好きなの」
そしてだ。泳げるというのだ。
「だからなの」
「そうだったんだ。塩素とかが入ってないから」
「昔のプールは違ってたけれどね」
「だよね。僕の子供の頃のプールも結構凄かったみたいだからね」
特に学校のプールだ。消毒用とはいってもやはりそういうものが入っていると、というのだ。
希望はこのことに思いが至ってだ。そして言うのだった。
「けれど今の。特にあのプールは」
「違うから」
「変わったんだね、プールも」
「世の中ってすぐに変わるよね」
「そうそう、本当に気付いたらね」
「瞬きをする間にね」
千春はこう表現した。その変わるまでの間について。
「凄く変わるよね」
「瞬きなんだ」
「そうだよ。瞬きの間にね」
世の中は変わる、これが千春の言葉だった。
そうした話をしてだ。二人でだった。
プールで泳いだ。冬になろうとしていてもプールで泳いだのだ。その二人を見てだ。
あの居川も田仲もだ。もう何も言えなくなっていた。そしてだ。
もう二人に話し掛ける者はクラスには誰もいなくなっていた。彼等の性格が知られてしまいその結果だ。彼等はクラスで完全に孤立してしまっていた。
希望も彼等を見ようとしない。その彼等はクラスの端で忌々しげに話していた。
「あの連中もいつも二人かよ」
「それは俺達と同じなんだけれどな」
「けれど何であいつ等あんなに充実してるんだよ」
「全然違うじゃねえかよ」
希望と千春は笑顔で話していた。クラスの真ん中にある希望の席で。彼は席替えでそこになったのだ。そしてその右隣に千春がいるのだ。
その希望を見てだ。彼等は言っているのだ。
「俺達なんかな。席もな」
「クラスの一番前だしな」
中央の一番前、最悪の場所である。
「おまけに皆声もかけてこねえ」
「何だよ、これって」
こう話してだ。忌々しげな顔でいた。
希望も千春もその彼等に全く気付かない。そしてだ。
その希望がだ。千春にこう言った。
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