歪んだ世界の中で
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第十七話 冬の入り口その二
「それって何なのかな」
「だから。雪って白粉なんだよ」
「あの化粧に使う」
「そう。それだから」
千春だけがにこにこと話していた。今は。
「だからいいんだよ」
「ううん、意味がわからないけれど」
「雪って奇麗なんだよ」
「それはわかるよ」
「じゃあね。その雪で奇麗になった千春見て」
千春は希望に言う。こう。
「だから千春冬も好きなの。雪で奇麗になれるから」
「雪でなんだ」
「雪。絶対に降るから」
冬には雪はつきものだ。特に山の多い神戸はだ。
山が白くなる。千春がそのことを言っているのは希望にもわかった。
それで今度は納得した顔で頷きだ。こう言ったのだった。
「じゃあ。雪が降ったらね」
「どうするの?」
「二人でその山見よう」
こう言ったのだ。
「冬の山は雪崩とかがあるから登るのは危ないけれどね」
「見ることはできるよね」
「うん、だからね」
「じゃあそうしよう。それで千春も見てね」
「わかってるよ。千春ちゃんもね」
「見るよ」
また言う希望だった。
「楽しみにしてるよ。雪は降る時をね」
「神戸って寒いけれど」
山から風が来る。これが六甲おろしだ。阪神タイガースの応援歌の題名にもなっている。あまりにも有名な風だ。その風が神戸の冬を作っているのだ。
「けれど冬それ自体はね」
「好きなんだね」
「春も夏も秋も好きだけれど」
「あっ、春も」
「希望はどの季節が一番好きなの?」
「今は夏かな」
その季節だとだ。希望は答えた。
「その時かな」
「どうして夏が一番好きになったの?」
「だって。千春ちゃんと会えて。それで何もかもが楽しく変わったから」
だからだとだ。千春に笑顔を向けて話した。
「だからね。今はね」
「夏なんだね」
「秋も好きになったよ」
「秋もなの?」
「だって。あの家を出て新しく生きることができたから」
それ故にだった。彼が秋も好きになったのだ。
「秋もそうなったんだ」
「じゃあ冬も」
「そうなるよね。千春ちゃんと一緒ならね」
つまりだ。千春と一緒ならだ。希望はどの季節も好きになるというのだ。
このことを言ってからだ。希望は残る一つの季節についても言った。
「春は最初からだったよ」
「好きなの?」
「梅も桜も好きだから」
花、そこからだった。
「だからね。春は最初からね」
「好きだったのね」
「そうなんだ。春っていいよね」
「うん、けれど今の希望は」
「どの季節も好きになれそうだよ」
「それがいいよ。嫌いなものが多いよりはね」
「好きなものが多い方がずっといいよね」
こうしたこともわかってきたのだ。千春と一緒にいて彼女の影響を受けて。彼はそうした考えにも至ってきているのだった。これも変化だった。
「そうだよね」
「そうだよ。好きなことが多いって幸せなことだよ」
「じゃあ僕冬もね」
そのだ。これまで寂しく寒いとだけ思っていた冬もだというのだ。
「好きになるよ」
「そうなろうね。雪も見てね」
「雪かあ。これまでは冷たいとしか思わなかったかな」
思い返すとだ。そうだった。
「けれどこれからはね」
「変わるんだね」
「変わるよ。好きになるよ」
暖かい笑顔での言葉だった。
「千春ちゃんと一緒だからなれるよ」
「千春と一緒だとなれるの?」
「見せてくれるから。冬のよさを」
だからだ。そうなるというのだ。
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