大久保の仕切り
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第二章
「つまらぬことだ」
「士族授産はですか」
「そうなのですか」
「士族を助けるより他にすることが多い」
だからだというのだ。
「そんなつまらんことに力を注ぐよりもだ」
「他の政治にですか」
「そちらに力を注ぎ」
「そうしてやっていくべきですか」
「そう思う、大久保卿にもお話しよう」
速水は言った、だが周りは。
彼が大久保に直接話すと聞いて驚いて言った。
「大久保卿に直接は」
「流石に無理では」
「それは幾ら何でも」
「無理では」
「あの人に言うこと自体が」
「国家の為だ」
速水は強い声で答えた。
「それなら言う、士族よりもだ」
「他の三民ですか」
「農工商ですか」
「そちらですか」
「そちらの方が圧倒的に多いのだ」
その数はというのだ。
「彼等がどうかだ、士族は少ない」
「四民平等といっても」
「士族の数は少ない」
「それならより多くですね」
「多くの者をどうすべきかですね」
「出来る限り多くの者を助け豊かにする」
速水の言葉には確かなものがあった、それは政治を考え国のことも民のことも真剣に想う心があった。
それ故にだ、彼は必ずと決意して大久保の前に行った、そして内務卿の席に座る彼に対して己の考えを話した。
その話が終わった時だった、これまで話を聞いていた大久保は言った。
「既に勅が出た」
「!?」
一言だった、それで速水は黙った。そして引き下がるしかなかった。
その後でだ、速水は周りに話した。
「駄目だった、その一言でだ」
「勅が出た」
「大久保卿のそれでか」
「その一言だけでか」
「言えなかった、威厳が違った」
大久保の持っているそれがというのだ。
「威圧感がな」
「それで、ですか」
「速水さんもですか」
「言えなかったですか」
「それ以上は」
「とてもな」
全く、というのだ。
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