| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五十二 潜入

「おい!」

薄暗い木立の合間を縫うように走る。
樹冠の合間から漏れる僅かな日光が多くの影を生み出している。
影を操る者の領域と言っても過言ではない森の中、飛段は苛立たしげに声を張り上げた。

「角都と俺を引き離す気か?何処まで行こうってんだ!?」


前を走るシカマルの背に怒号を浴びせる。
シカマルの術中に嵌まり、影真似の術で支配された我が身。自由の利かない足が勝手にシカマルの後を追う。
シカマルの影と繋がっている飛段の影。追い駆けるしか術はない現状に、飛段は苛立ちを募らせる。

シカマルが一瞬、流し目で背後を振り返った。飛段の怒声に、ふ、と口角を吊り上げる。
無言の肯定に、飛段は額に益々青筋を立てた。


暫し無言で走り続け、ようやっとシカマルは立ち止まる。
かと思えば、辿り着いた先でワイヤー付きのクナイを投擲し始めた。
更に起爆札付きであるソレは、周囲の木々の幹に次々と突き立てられる。

まるで蜘蛛の巣の如きその場で、獲物のように中心に佇むふたり。
ワイヤーが張り巡らされた周囲を見渡し、飛段はクッと口角を吊り上げた。

「逃がさないってか?」


無数の起爆札付きのワイヤーがシカマルと飛段の周囲を取り囲む。
逃がさないようにと固めた包囲網。
少しでも触れたらドカン、だが、それはお互い様だ。

シカマル自身も危険な状況に変わりないが、捨て身にならねば勝てない相手だと理解しているのだろう。
現に、今までシカマルは飛段に近づかないように影を使って遠距離戦で攻めてきていた。
それだけ己の能力を警戒しているという事がありありと伝わってきて、飛段は聊か得意げに嗤う。
その笑みはシカマルの影が己の影から離れてゆくのを見て、益々深まった。

「どうやらその影の術、限界のようだな」

肩で息をするシカマルを前に、飛段は瞳を細める。


「俺を逃がさねぇようにしたんだろうが…──そりゃこっちも好都合なんだよォ、バカがァッ」


瞬時に接近する。
身構えるシカマル目掛け、飛段は隠し持っていた棒を振り上げた。

先端が鋭利な黒い棒。
その刃先に付着した血に、にんまり嗤う。

驚愕の表情でシカマルが倒れる。
その頬に流れる一筋の血を見て、飛段は益々笑みを深めた。

血を舐める。
やがて、じわじわと身体が変貌してゆく。

白と黒の縞模様、否、身体の骨が浮かび上がっているかのような妙な風体に化した飛段は、そのまま己の手を棒で突き刺した。
シカマルの血よりも遥かに多い量の血が地面にボトボトと染みをつくる。
その血で陣を描いた飛段は円陣の中で眼を細めた。

「条件は整った」


【呪術・死司憑血】。対象者の血を体内に取り込むことで術者の身体と対象の身体がリンク。
自らの血で描いた陣の上で、術者が受けた傷が対象にも同様に現れる特異な呪術だ。
身体がリンクされた後は何処へ逃げようとも攻撃を回避するずべはなく、不死である飛段にしか実質使えない、必殺の威力を誇る術。


「その顔が見たかった…!恐怖で歪んだその顔がよぉッ」


歓喜の色が滲んだ声を弾ませ、飛段は円陣の中で棒の尖端を自身の胸へ向けた。
倒れたシカマルの恐怖の表情を恍惚と見下ろし。




「死ねぇえぇぇッ!!」


己の心臓目掛けて突き刺した。























雷撃が飛び交い、風が荒れ狂う。
主を失っても猶、襲い来る能面の化け物の攻撃。

それらを避けていた再不斬とカカシは、能面の化け物の不可思議な行動に眼を見張る。

カカシが心臓を穿った角都の遺体が風に煽られる。
その体へ化け物の一体が飛び掛かった。
否、飛び込んだと言ってもいい。

やがて、静かだった角都の遺体がドクドクと脈打ち始める。
能面のお面がパリン、と割れた。


「チッ」
「しまった…!」


もう一体の化け物の攻撃に注意を引かれたせいで反応が遅れた。
舌打ちする再不斬の隣で、カカシが歯噛みする。

死んだ身ではどうすることもできないという先入観。
しかしそれは何度も心臓を入れ替え、ストックし、永く生き続けてきた角都の前では覆される。


ゆらり、と角都が立ち上がる。
風遁の能面の心臓を取り込み、蘇った角都の身体に、残された能面の化け物も飛び込んでゆく。
角都の身体中から黒い繊維がぶわりと伸び、触手のように蠢いた。


「……益々、化け物染みてきたな」
「ハッ!ひじきが増えただけじゃねぇか」


身構えるカカシの隣で、再不斬が軽口を叩く。
しかし、油断なく見据えるその視線の先では、角都の背後で繊維状の触手が彼の怒りに呼応するかのように逆立っていた。

「俺の心臓を三つも…」


雷遁のお面が角都の繊維に絡まるように、彼の肩に出現する。
蠢く繊維状の触手を身体中に纏わせながら、角都は自身を久々に追い込んだ敵を睨んだ。

「久しぶりだぜ…俺を此処まで追い詰めたのはアイツ以来だ」


飛段が邪神様だと崇める金髪の子どもの姿が脳裏に過る。
幼き頃のナルトを思い浮かべながら、角都は殺気を漲らせた。


「はたけカカシ・桃地再不斬…貴様らで失った心臓の補充をするつもりだったが、」

フッ、と眼を細める。そこで言葉を切った角都を怪訝に思い、カカシは彼の視線の先を追う。
タイミング悪く、「カカシ先生──!」「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってきたチョウジといのの姿を認めて、カカシは慌てて振り返った。

「よせ…!近づくなッ」



当初、【心転身の術】で飛段を操ったものの、角都の容赦ない攻撃で、いのは気を失った。
シカマルの指示で、気絶したいのを起こしに向かったチョウジが運悪く、この状況で加勢しに此方へ向かってくる。

チョウジから、再不斬が味方だと聞いて半信半疑で駆けてきたいのが、角都の変わり様に、ぎょっとして立ち止まった。


「気が変わった。此処でまとめて蹴散らしてくれる」


再不斬は別だが、木ノ葉の忍びが集結した状況に、角都はニタリと笑みを深める。
刹那、地中から数多の触手がチョウジといのの身体に巻き付いた。

「チョウジ!いの!」

彼らに気を取られたカカシも、隙を突かれて触手に身体を巻き付かれる。
いつの間にか、【禁術・地怨虞】の餌食になっていた自身に、カカシはギリ…と歯噛みした。

地中に秘かに潜り込ませていた繊維状触手で拘束した角都が眼を細める。
一網打尽にする気だと即座に悟ったカカシが傍らの再不斬に鋭く叫んだ。

「再不斬!」


首切り包丁で自らを縛る縛めを斬ってもらおうという意味合いの込めた視線を投げる。

だが再不斬は動かない。


身じろぎできないカカシ・チョウジ・いのを見ても、肩を竦めるだけで何もしない鬼人に、角都が軽く片眉を上げた。


「どうした鬼人?大人しく換金所へ向かう気になったか。ならばまず死体になってもらおう」
「再不斬!何してる!?」


チョウジといのに気を取られたカカシと違って、角都の触手を首切り包丁で跳ね除けた再不斬は自由の身にもかかわらず、面倒くさそうに欠伸を漏らした。

形勢逆転されたこの場で、唯一動ける再不斬が角都に対して何もしないことに、いのとチョウジの顔から血の気が引く。
頼みの綱であるカカシが動けないのに、戦力となる再不斬が今になって裏切るのでは、と青褪めた二人の横で、カカシは眉を顰めた。



賞金首である再不斬には多額の懸賞金が懸けられている。
その遺体は高値で売れることから、角都としてはあまり傷をつけずに殺したい所存だ。
このまま大人しくしてくれるなら、楽に殺してやろうと角都がほくそ笑む一方、触手に捕まっているカカシ達はその拘束から逃れようと躍起になっていた。


ふと、再不斬がカカシに横目をやる。
その意味深な視線を受け、次いで近づいてきた気配に気づくと、カカシはハッ、と顔を上げた。


「こいつらと一緒に心中でもする気か?」

カカシ・いの・チョウジを拘束した【禁術・地怨虞】の触手が諦めきれずに再不斬を狙う。
それを振り払った再不斬は、角都の問いを鼻で嗤った。


「うんにゃ。寝言は寝て言えよ」
「死ねば寝言も言えんだろうさ」


角都の触手に絡まった能面がパカリ、と口を開く。
雷遁の化け物と合体した角都。

彼の肩の面から、バチバチ、と雷撃が解き放たれる。


「────死ねぇッ」


絶体絶命の危機を前に、再不斬は欠伸を噛み締めながら肩を竦めた。

「たんに俺の出番はもう必要ないかと思ったんでね」



「────【風遁・螺旋丸】!」
「────【水遁・破奔流】!」



刹那、カカシ達の前に二つの影が躍り出る。
お互いの術を合わせる合体忍術が、お面と合体している角都の攻撃を相殺した。


「「【颶風水渦の術】!!」」



水遁により水流が螺旋状に巻き込まれる。
螺旋丸の回転に巻き込まれた大量の水が、角都をも巻き込もうと襲い掛かった。
それを回避して、角都は術によって発生した水蒸気の中、眼を細める。


自身の術を相殺したらしき複合忍術の影響で、立ち込める水蒸気。
それが晴れゆくうちに、眩いばかりの金髪が角都の目に映る。

その金色に、角都は思わず眼を見開いた。



「待たせたな…遅くなってすまないってばよ」


金髪のツインテールが揺れる。
既にボロボロの姿で現れた波風ナルを見て、いのは心配そうに顔を顰めた。

けれどそれ以上に頼もしくなった幼馴染の背中に、掛ける言葉が見当たらない。
一方のカカシは修行中よりずっと成長したナルを眩しげに見やった。


ヤマトの隣で、ナルは周囲を見渡す。
【颶風水渦の術】により角都の拘束から逃れることが出来たカカシ・いの・チョウジと這わせていた目線は、桃地再不斬のところでピタリ、と止まった。

けれど、それよりも気にかかる点をカカシに訊ねる。


「……シカマルは?」
「もうひとりの敵と別の場所で応戦中だ」

開口一番にシカマルのことを問うたナルに、カカシは端的に答えた。
そしてそのまま「シカマル側にも二人ほど向かってほしい」と増援を促す。


この場には、再不斬・カカシ・いの・チョウジ、そしてヤマトとナルがいる。
対してシカマルはたったひとりで暁のひとり…それも不死者と戦っている。
戦力を分断して彼の応援に向かわせねば、シカマルひとりだと荷が重すぎる。

カカシの言葉に頷いたナルが「いのとチョウジ、行ってくれってばよ」と猪鹿蝶で連携がもっともよく取れる二人へ視線を投げた。


「でもナル…」
「シカマルが強いって、オレってばよく知ってる」


本当はナルが一番、シカマルのことを心配している。
開口一番に彼のことを訊ねたことからも、シカマルを助けに行きたいのはナル本人だろうと窺えて、いのは口ごもる。

しかしナルは、いのの発言を遮って背中を向けた。
角都に向き合う。


「だからこそオレはコイツをさっさと倒してから、シカマルのもとへ向かうってばよ」



ニッ、と笑うナルの太陽のような笑顔を目の当たりにして、いのは言葉を呑み込んだ。
ナルのこういうところにシカマルは惹かれたのだろう、と面倒くさがりながらも彼女に何かと世話を焼く幼馴染を思い浮かべ、思わず口許を緩める。


話は纏まった、と察したカカシが忍犬を口寄せする。
シカマルの匂いを辿って彼の援護へ向かったチョウジといのを視界の端で見送ったナルは、そこでようやく、先ほどからずっと気にしていた相手を見つめた。




「……よぉ。元気にしてたか、小娘」

波の国で死んだとばかりに思っていた霧隠れの鬼人──桃地再不斬。



カカシ達のもとへ増援に向かう前に、前以て綱手から再不斬のことを聞いていたとは言え、実際に自身の眼で見たナルは内心、心が震えた。

その震えはかつての波の国での鬼人への恐怖からではなく────。


「…色々聞きたいことは山積みだけど、これだけ教えてくれってばよ」


初めて出会った時よりずっと大きく成長しているナルを再不斬は無言で見遣る。
言葉の先を視線で促され、ナルは問いかけを続けた。


「白は?」
「…そういやお前は、白のお気に入りだったな…」


波の国で敵対していたにもかかわらず、ナルを無性に気にしていた白を思い出し、再不斬は懐かしげに眼を細めた。

最初は敬愛するナルトに似ているところから気になるのだろうと思っていたが、次第にナル自身の性格を好ましく思っているようだった。

きっと彼女に会ったと知れば羨ましがるのが目に見えて、くつり、と口角を上げた再不斬は、返答を待っているナルに気づくと、期待通りの答えをくれてやった。



「生きているさ。俺と同じく、な」
「…!そっか」


ナルの言葉が震える。

あの時の波の国では、幼いナルに散々恐怖を植え付けたはずだったが、言葉の端々に歓喜の色が垣間見えて、再不斬は内心苦笑を零した。
一歩間違えれば殺されかけていた恐怖よりも、自分達が生きていたことを歓喜して打ち震えるなんてどこまでも甘い奴だ。


(図体はデカくなっても、変わらないなコイツは…)



しかしながら口調とは裏腹に、このまま変わってほしくないというナルの真っすぐな性格を再不斬もまた、気に入っていた。
太陽のような存在であるナルを眩しげに見やった後、「お喋りは此処までだ」と角都へ視線を投げる。


「小娘。てめぇがどこまで強くなったのか、見せてみろ」


再不斬の挑発を受けて、ナルは一瞬目を見開いた。
波の国で初めて出会った子どもの頃のナルの幼い顔が重なって映る。

随分と逞しくなったその顔が不敵に笑った。





「ああ。あの時のオレと同じだと思うなよ、眉無しヤロー」
「その呼び名やめろ。どう見ても眉毛あるだろーが」


気にしてたのか…と笑いを堪えるカカシを斬りたくなった再不斬だった。



















ピチョン…ピチョン…と水の音がする。

まるで水族館のような空間。
根のように管が張り巡らされたその先には、水槽がぽつん、と佇んでいる。

ただ水だけが溜まっているように見える水槽を見上げ、鬼灯水月は感慨深げに眼を細めた。


「永かった…」


木ノ葉の暗部養成部門【根】。
その本拠地である地下の中でも、奥の奥。

秘密裡に保管されていた水槽を────否、その中にいる存在をやっと見つけて、水月は眼を輝かせる。

木ノ葉隠れの里に連行された再不斬の水筒に潜んでいた為、水量から子どもの姿である水月は、自身よりも遥かに大きい水槽を見つめる。
其処に映る幼き自身ではなく、透かし見るように水の中へ語りかけた。


「やっと会えたね…──兄さん」




鬼灯満月。
彼こそが今回、再不斬がわざわざ木ノ葉隠れの里へ連行された理由だった。

水月の兄である満月は元々、忍び刀七人衆の刀全てを使いこなせ、実際に何本かその刀を持っていた。
しかし忍刀目当ての【根】により満月は【根】に捕らわれてしまう。

忍刀を収集するにあたり、ついでに捕らえたというものだったが、満月自身が水月と同じく水化の術という稀有な能力を持つ上、『鬼人の再来』と称されるほどだったため、その能力を惜しいと考えたダンゾウによって今まで殺されずに済んだのだ。

もっともサイの兄のシンによく似ている満月を利用することで、サイを従順にさせようというのがダンゾウの狙いだったが。


今でこそ大蛇丸のアジトで本物のシンと出会って真実を知ったサイだが、それまではずっと満月を自身の兄だと思い込み、兄と会えることを褒美に、ダンゾウが与える任務に精を出してきたのである。
それほどシンにどことなく似ている満月だが、自分の兄がダンゾウに体よく利用されていたとは知らない水月は改めて、水槽の中を覗き込んだ。


忍刀を継承することを夢見て日々、過酷な任務を送り、全ての七刀を使いこなせるようになったのに、志半ばで【根】に囚われの身となっていた片割れに涙する。
実際、ただでさえ、この地下で囚われの身となっていた兄の相貌を更に利用されていた事実を知れば、水月は更に怒りを募らせていただろう。



「今、其処から出してあげるよ」


水槽を壊そうと水月が拳を握る。
みるみるうちにその腕が子どもらしからぬ筋肉隆々な太い腕へと化した。
腕を振り上げる。





「何者だ!?」
「其処で何してる!?」

だが、ここぞとばかりに邪魔が入る。
腕を振り上げた状態のまま、水月はうんざりと振り返った。

【根】に所属している暗部の男達が数人、水月を訝しげに見遣る。
当初は見た目十歳ほどの子どもに気を緩ませていた彼らだが、片腕だけやけに筋肉隆々という異様な姿を前にして警戒態勢に入った。


「あーらら」
「ガキ…何処から入った!?」


肩を竦める水月目掛け、殺気を放つ。
数人の暗部に囲まれて、水月は降参のポーズっぽく両腕を頭に回し…。


頭の後ろで指先を水槽に向けた。



その指先から水がピッ、と水鉄砲のように放出される。
レーザーの如き水が水槽の一点を貫通したかと思うと、ピシ…と軋む音が響いた。

やがて、水槽の割れ目が蜘蛛の巣のように一気に広がってゆく。
ハッ、と青褪めた【根】の暗部の横で、水月はニヤリと嗤った。



瞬間、水槽が割れる。


瓦解した水槽から溢れる大量の水に暗部達が気を取られる中、水月は自身の片割れを探した。
水化の術で水と同化している兄をこの場から連れ出すのが、水月の目的だ。

しかし永い間、囚われの身となっていた水と同化していた故、相当体力を消耗しているのか、なかなか人の姿に戻らない満月に、水月の顔に焦りの色が徐々に溢れる。


「貴様…!」
「何が目的か答えろ!」

一方、ダンゾウが秘密裡に隠していた水槽の中身を知らない暗部達は、水月の行動が理解出来ず、顔を顰める。
とにかくも無断で忍び込んだ不届き者を捕らえようとした彼らは、自分達の背後に忍び寄る存在に気づけなかった。






「なにをチンタラやってやがる。ソイツ連れてとっととずらかるぞ」



ハッ、と【根】の暗部が振り返る間もなく、気絶させられる。
一瞬で数人の暗部達が倒れ伏せたのを見て、水月は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。


「…べつに、ボクだけでも出来たっつーの」
「無駄口を叩くな。時間がねぇんだ」

床一面に広がる水槽の水。其処を踏み越え、面倒くさそうに水月を急かす。
投げて寄越された水筒に、液化した満月を注ぎ入れながら、水月は唇を尖らせた。


密閉された容器に閉じ込められると身動きが取れなくなるという弱点の【水化の術】だが、逆を言えば、水筒などの容器に入れば持ち運べる。
自身が木ノ葉隠れの里に潜入した際と同じ水筒に今度は兄を詰めた水月は、助けに割って入ってきた人物を悔しげに睨んだ。


「得物無し?そんな心許ない状態でよく来たね、再不斬先輩」
「首切り包丁は本体が持っている」


現在、角都と交戦中のはずの桃地再不斬は、水月の言葉に素っ気なく答える。
その言葉で目の前にいる再不斬は彼の水分身だと気づいた水月は半ば呆れたように眼を瞬かせた。

「…よくそんな真似ができたね」



再不斬は木ノ葉隠れの里に連行され、厳重に拘束されていた。
拷問・尋問部隊隊長である森乃イビキを挑発し、水筒を投げ捨てさせることで水月は自由の身となれたが、再不斬本人は自由など許されなかったはずだ。
それもチャクラを使えないよう、牢に閉じ込められ、拘束具で動きを封じられ、印を結べないように拘束されていた身で、よくもまぁ水分身なんて作れたものだ。


水月のもっともな意見に、再不斬は片眉をついと上げる。
イビキと入れ違いに己の監視役を望んで現れた、自身と同じ野心の匂いを放つ男が脳裏に過ぎった。





月光ハヤテに一瞬、拘束を解かれ、その隙に印を結ぶことでつくられた水分身の再不斬は、本体と同じ強面でふんと鼻を鳴らす。


「顔見知りがいたんでな」


ナルトのだがな、と心の中の呟きは口にはせず、若干面白くなさそうに再不斬の水分身は肩を竦めた。 
 

 
後書き
大変お待たせ致しました!
大体原作通りで申し訳ないです…とりあえずタイトルは最後の場面から。
今回、三場面同時進行で読みにくかったらすみません(汗)

次回も二場面は原作と大体同じだと思いますが、その次くらいから来ます(予告)
どうぞよろしくお願いいたします!!



ところで原作ナルトが初対面時、再不斬を眉無しヤローと呼んでたから、ナルにも呼ばせましたが…

再不斬さん、普通に眉毛ありますよね(笑)
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧