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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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衛宮切嗣という男

俺から見た衛宮切嗣という男はあまりにアンバランスだった。年齢不相応に大人びた風貌に対し、この学園の制服があまり似合っていなかったというのもある。だが、そんなことはどうでもいい。そんな不具合さは誰にだってある。俺が一番気になったのは男の目だ。初めてアイツの目を見たとき、その死に絶えた瞳に軽い恐怖を覚えた。今まで一度も見たこともないような冷たい眼。しかし、衛宮と初めてて口をきいたとき、その思いの外の声の暖かさに思わず目を擦ってしまった。
何でここまで冷えた男から、こんなにも優しい声が出せるのか?
俺には解らなかった。



夕方、今日の授業が無くなったため何時もならもう少しは活気があるこの学園も、今や無人の呈をなしていた。少なくとも、校舎には夜勤の教師を除いては誰もいない、そんな淋しい建物から一人の男が出てきた。男の顔には多少疲れが滲み出ていた。……無理もない。かれこれ6時間近く、編入手続きのため拘束されていたのだ。彼の口から溜め息が出るのも頷ける。
「大分疲れているみたいだな」
自分以外誰もいない、そう考えていた男にとって、この場で話しかけられるという事態は少なからず驚きを伴うものだった。
「君は……あぁ、一夏君か」
声の主は男だった。この学園に男性はそういない。ならば、顔は解らずとも人物は特定出来る。
「お、おう。俺の名前知ってたのか。」
「この世界で君の名を知らない人は余りいないんじゃないかな」
そう言うと、一夏は照れくさそうに笑った。
「へへ、そうかもな。でも自己紹介は必要だろ、衛宮?」
「そうだね。じゃあ、改めて。僕は衛宮切嗣」
「おう。俺は、織斑一夏。下の方で呼んでくれ」
快活にわらう一夏。それに対し、微笑むように顔を崩し応える切嗣。
「じゃあ、僕のことも切嗣でいいよ。一夏」
そこからは、男同士の気兼ね無い会話が続いた。たとえば、この学園で男の友達が欲しかったから、切嗣の下校を1時間近く待っていたり。それに対し、切嗣を大いに恐縮させてしまったり。取り繕ったり、笑ったり。そこには普通の日常があった。
「しかし、意外と切嗣って気さくなんだな」
「というと?」
「いや、最初お前を見たとき少しびびってしまってな」
「……君は割りと歯に衣着せないね」
「わ、わりぃ、わりぃ。でもさ、少し目が怖くて……」
本当にズバッと言うな……
「はは、まぁよく言われたからね。今更、気にしないよ」
「まぁ、お前がスッゴク良いやつで良かったよ」
「何でそう、歯の浮くようなセリフをポンポン言うかな……」
多分、彼は、かなりの女の子に勘違いさせて来たんじゃないだろうか。
「そう言えば、切嗣は」
一夏が何か言いかけようとしたとき、何か変な音がした。正確には切嗣の腹から……
「……そういえば最後に食事をしたのはいつだったかな」
確か、一番新しい記憶だと……
「昨日の昼か」
「え、衛宮!?冗談はよせ!流石に倒れるぞ」
はは。道理で体が軽いわけだ。最近忙しくて忘れてたな。
「と、とりあえず食堂に行くぞ!」
そして半ば引き摺られるように食堂にむかった。




衛宮切嗣の好物、と言えば何が思い浮かぶだろうか。まず、愛妻の手料理、士郎の料理。この辺りは想像に難くない。しかし、それ以外だと?まかり間違っても、贅を凝らした宮廷料理は上位に上がらない。答えは、

「切嗣って、ハンバーガーとかジャンクフードの類が好きなのか?」
「うん。割りと濃い味付けのものが好きかな」
そう言いながら切嗣はハンバーガーをほうばっている。食べているのは、何の奇もてらっていない普通のハンバーガーだが、心なしか嬉しそうに食べる切嗣と合わさって酷く美味しそうに見えた。
因みに、そんな彼を見ていた女子数十名がハンバーガーに殺到していた。
中には
「ガハっ……これが、ギャップ萌えか……」
と鼻血を出している方達もちらほら……
「……席、良いか?」
自分も箸をつけようとしていた一夏へ、後ろから声がかかった。
「箒か。いいぜ、隣こいよ」
「済まないな。近くに空いている席が無くてな」
そう言うと、切嗣にとっては初対面となる女の子が親しげに、一夏の隣に腰を降ろした。
ふと、切嗣は彼女の発言が気になった。試しに、辺りを見回してみると……
「うゎ……」
思わず声が洩れてしまった。周囲が女子で埋められていた。ここが女子校の寮だと言ってしまえばそれまでだが、この光景は異常だった。具体的には、半径10m以内の席が圧倒的な人口密度を誇っており(5人用のテーブルを10にんでry)、そこを出ると急に閑散としている。気にしたとたん、急に気が滅入ってきた。
「切嗣。紹介するぜ。こいつは篠ノ之 箒。俺の幼なじみだ」
まぁ、気付かなければそれまでで、幸か不幸か一夏はその事実を認識してない。
「篠ノ之 箒だ。私の事は箒と呼んでくれ、衛宮」
「そうか。僕は衛宮切嗣。上でも下でも好きな方で構わないよ」
そう言いおわると切嗣は徐に立ち上がった。
「僕はこの辺りで失礼するよ。疲れたのかな、少し眠気がするんだ」
「おう、またな。」
そう言い残すと逃げるように切嗣は食堂を後にした。






「Time alter-double accel! 」
食堂を出た瞬間、切嗣は倍速化の呪文を唱えた。食堂を出る間際、何人かの女子生徒が此方についてくるのを確認した。そこからの決断は早かった。逃げよう。今ならまだ、間に合う!別に、彼は女の子が嫌いなわけではない。だが、実年齢35に加え、何年もの病魔との闘いにより、切嗣からそういった気は殆ど消え去っていた。故に、下手に言い寄られると困るという事情があった。まぁ、最もかつて愛した女性を忘れられないというのが、一番の理由なのだが。
話を戻そう。今回切嗣のミッションは誰にも見付からず、「部屋」に行くこと。それを果たす上で、切嗣の魔術はうってつけだった。
……時間にして30秒。果たして切嗣は無事「部屋」の中で息を整えていた。今回切嗣が魔術を使ったのには幾つか理由がある。その一つが、これ。ストレステストである。今の切嗣がどれ程、魔術の行使に耐えられるかという実験だった。結論からいうと……
「問題ない……?」
(どういうことだ?肉体に掛かる修正力が殆ど働いていない……)
結果は予想の斜め上を行った。未だ、詳しい事は、実際に確かめなければ解らないが、体感としては、恐らく3倍速までなら肉体の損傷を伴わず行けるだろう。
(まぁいい。理由は解らないが僕には好都合だし、今日1日の成果としては十分だ)
そこまで考えると、切嗣は部屋の鍵をしめ、着替えもせずにベッドに倒れ込んだ。
(とは、言っても……流石に疲れ)
そして彼は、眠りに墜ちた。
故に彼は、気付かない。部屋の件で、一夏の頭にたん瘤が出来たことを。
そして、彼は気付かない。ハンバーガーを食べている時の彼の写真が1枚1000円から販売されていることを…… 
 

 
後書き
長い……今までで、一番長い……
疲れた〜。次回はとりあえず、1週間以内に書き上げる予定です。ではまた……バタ 
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