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貧しさがどうした

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第一章

                貧しさがどうした
 園崎実花は結婚してすぐに夫の暴力とギャンブルそれに浮気癖で別れた、それからは一人息子の保志と二人だった。
 仕事を頑張り保志を高校に行かせてだった。
「えっ、いいのかよ」
「気にしないでいいのよ」
 母は息子に笑顔で答えた、皺の多い面長の顔で目は切れ長だ。黒髪を後ろで団子にしてそのうえで束ねている。背は一六四程で質素だが清潔な身なりだ。身体はすらりとしている。見れば息子は一八〇近い長身で母に似た顔立ちで黒髪を七三分けにしている。そしてやはり質素だが清潔な身なりですらりとしている。
「その大学に行ってもね」
「けれど医学部だから」 
 それでとだ、保志は母に言った。
「学費かかるしどうせなら」
「お医者さんになるならなの」
「防衛医大も受けるし」
「若し受からなかったどうするの?」
 防衛医大にというのだ。
「その時は」
「いや、その時は」
 どうかとだ、彼はすぐに答えた。
「もう就職するよ」
「けれど大学行きたいわよね」
「そして医者になりたいよ」
 保志はその本音を述べた。
「やっぱり」
「だったらね」
「いいんだ」
「ええ、若し防衛医大に落ちたら」
 学費を支払わなくていいどころか給与が出るこの大学をというのだ。
「その時はね」
「慶応の医学部をなんだ」
「受けなさい、そしてね」
「防衛医大を落ちてそこに受かったら」
「行きなさい、学費はあるわ」
「母さん一人でなのかい?」
「大丈夫よ、お母さんちゃんと働いてるから」
 母は息子に笑顔で話した。
「それに貯金もしていたから」
「じゃあ俺他の国公立も受けるよ」
「そうするの」
「慶応は学費が高いから」
 私立でというのだ。
「そうするよ」
「だから気にしなくていいのよ」
「そうはいかないよ、母さんが辛いなら」
 それならとだ、保志は自分の向かい側に座っている母に答えた。
「俺慶応に行かないで」
「防衛医大かなの」
「うん、国公立の医学部を受けて受かったら行くから」
「気にしなくていいのに」
「気にするよ、だってうちにお金ないのは事実だから」
 こう母に言うのだった。
「母子家庭でさ」
「ちゃんと暮らしていけてるわよ」
「それでもお金ないのは事実だよ」
 それでというのだ。
「そうするから」
「本当に別にいいのに」
「そうもいかないよ」
 こう言ってだった、保志は必死に勉強して防衛医大は落ちたがある国立大学の医学部に合格した。そして。
 奨学金も手に入れそこからもだった。
 必死に勉強して医師免許も手に入れた、それから研修医を経てだった。
 ある大きな病院に勤務することになった、彼は腕も優秀だが論文も優秀であり両方で注目されてだった。
 ある有名な大学の医学部の教授に誘いを受けた。
「よかったらうちの大学に来てくれないかい?」
「大学にですか」
「そうしてくれるかな。准教授でね」
「あの、私はまだ」
「うん、三十にもなっていないね」
「それで准教授は」
 早過ぎるとだ、彼は教授に答えた。 
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