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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第10節「迷奏の序曲」

 
前書き
今回はいつもより短めです。
短くなった理由としましては、作者がウマ娘にかまけてしまったのが半分。オリジナル展開挟むにあたって色々悩んでしまったのがもう半分です。早くウオッカの勝負服を解放してスカーレットと並べたい……←

今週、来週と重めの話が続くと思われますので、糖分は番外編とかで補充していただけたらなと思います。
それでは、今回もお楽しみください。 

 
「ガリィ……」

チフォージュ・シャトーに戻ったガリィに、キャロルは睨むような視線を向けていた。
ギアを破壊出来なかった事に、少々苛立っているらしい。

「そんな顔しないでくださいよ。ロクに唄えないのと、唄っても大したことない相手だったんですからッ!あんな歌をむしり取ったところで、役に立ちませんて」
「自分が作られた目的を忘れていないのならそれでいい……だが──」

ふとキャロルは、初めて響と対峙した時の会話を思い出す。
“人助け”──その言葉が、特にキャロルの心を苛立たせた。

(全力のあいつを叩き潰さなくては意味が無い。世界が滅ぶ土壇場で、いつも奇跡を起こしてきたあいつを叩き潰さない限り、オレは──)
「次こそはあいつの歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る」
()()()()()()()()──わかってますとも。ガリィにおまかせですッ!」
「……お前に戦闘特化のミカをつける。いいな?」
「いいゾッ!」
「そっちに言ってんじゃねーよッ!」

元気よく手を挙げるミカ。次の戦いが彼女の初陣に決定した。

「なら、僕も同行させてもらっても?」
「ノエルか。何が目的だ?」

ナイフを弄びながら玉座の間にやって来たのは、キャロルと瓜二つの外見をした青年ノエル。

彼は弄んでいたナイフを光にかざしながら、丁寧な口調で応えた。

「キャロル、あなたの計画に必要なのはシンフォギア装者だけ。そうでしたよね?」
「ああ。それがどうした」
「理論的には確かかもしれませんが、なにぶん前例のない計画です。どうせなら、確実性は上げておきたいとは思いませんか?」
「それはつまり、伴装者の奴らも計画に組み込むと?」
「ええ。そのついでに、つい今しがた完成したこいつを試しておきたいのです」

そう言ってノエルは、手に握ったナイフを顎で指す。

キャロルは暫く考え込むと、静かに口を開いた。

「いいだろう。お前に任せる」
「ええ。必ず結果を出しますとも」

恭しく礼をするノエル。
腰のホルダーに挿した彼のナイフには、赤黒いオーラが宿っていた。

ff

「これ、君のガング──」
「わたしのガングニールですッ!これは、誰かを助けるために使う力──わたしが貰った、わたしのガングニールなんですッ!!」
「………………」

マリアから手渡されたガングニールを、奪い取るように掴み、握り締める。
まくし立てるような言い方になってしまった事に気づき、響は静かに謝罪する。

「……ごめんなさい」

皆を守るため、ボロボロになってまで戦ったマリア。
両目の端と口角から血を流しながら、彼女は響を真っ直ぐに見据えると、彼女の二の腕を掴みながら強く告げた。

「──そうだッ!ガングニールはお前の力だッ!だから……目を背けるなッ!」
「……目を、背けるな……」

その言葉は、響の心に重くのしかかるのだった……。



その日の夕方。

本部の甲板から、わたしは海を眺めていた。

手すりにもたれて、ぼーっと水平線を見つめながら、奏さんとマリアさんの言葉を反芻する。

『戦う理由を失ったやつに、あたしの槍を振るう資格はないよ』
『──そうだッ!ガングニールはお前の力だッ!だから……目を背けるなッ!』

(逃げてるつもりじゃない……けど……)

その時、頬にピトッと冷たい何かが当てられた。

「ひゃうぅっ!?ちべたいッ!?」
「ははは、ビックリしたか?」
「も~、おどかさないでよ~」

気がつくと、わたしの後ろには翔くんが立っていた。

いたずらっ子のように笑う翔くんから、缶ジュースを手渡される。ラベルは炭酸のオレンジジュースだった。

翔くんはわたしの隣に並ぶと、静かに切り出した。

「悩んでるんだろう?」
「……翔くんには、やっぱりお見通しなんだね」
「見れば分かるさ。未来も心配してたぞ」
「うん……」

そして、訪れる気まずい沈黙。
お互い缶ジュースを空ける事もなく、ただ波の音だけが響いている。

……翔くんになら、打ち明けられるかもしれない。
翔くんならきっと、わたしの悩みに答えてくれる筈だから。

「翔くん、わたし……どうすればいいのかな……」

キャロルちゃんに出会ってから、ずっと悩み続けて来た事を言葉にして、翔くんに伝える。

「わたしね、ガングニールの力は人助けの為のものだと思ってたんだ……。ノイズから皆を守る、わたしだけにしか出来ない人助け。その為の力だって、ずっと信じてきた」
「ああ……そうだな」
「ノイズが居なくなってからも、スペースシャトルから宇宙飛行士さん達を助けたり、火事になったマンションから街の人達を助けたり……。戦わなくても人助けが出来るんだって気付けた時は、すっごく嬉しかった。前よりももっと沢山の人達を助けられるんだって」

了子さんが、ノイズから皆を守る為に造ったシンフォギア。
それは、ノイズが居なくなったらもう使われなくなる物だと思っていた。

でも、ノイズが居なくなっても、シンフォギアを必要とする人達がいた。
そして、シンフォギアは戦うためじゃなくて、困ってる誰かの命を助ける為の力として使う事が出来る。ここ半年近くの活動で、沢山の人達を助けられた事が、わたしにとってはすごく嬉しかった。

「でも、キャロルちゃん達が現れて……せっかく戦わなくてもよくなったのに、また誰かと戦わなくちゃいけないのが嫌になって……この拳を握るのが、怖くなっちゃったんだ……」

キャロルちゃんからは、今まで戦ってきた人達とは違った空気を感じた。

了子さんの中にいたフィーネは、愛する人ともう一度言葉を交わしたくて、月を壊そうとした。

マリアさん達やナスターシャ教授は、月の落下から皆を救おうとして、結果的にわたしたちと対立してしまった。

ウェル博士は……なんだろう。自分の夢に正直過ぎたというか……もっと色んな人達と手を繋げていれば、あんな事はしなかったと思う。

皆、どうしてもそうしなくちゃいけない理由があって、誰かと戦う事を選んでしまった人達だった。

でも、キャロルちゃんはそうじゃなかった。
キャロルちゃんは出会ったばかりのわたしに、激しい敵意と怒りをぶつけてきた。

それに、最初からわたしたちと戦うつもりで準備してきていた。
それも自分から「オレと戦え」なんて言ってまで……。

翼さんやクリスちゃんならきっと、売られた喧嘩は買うって言い出してたと思う。

でも、わたしはそうじゃない。わたしには、キャロルちゃんと戦う理由なんてない。
戦う理由が無いんだから、話し合って解決できたらいいなって思う。

だけど、キャロルちゃんはそうじゃないみたいで、わたしと戦う事を望んでいる。
シンフォギアで……ガングニールの力で、誰かを傷付けたくなんてないのに……。

でも、そう言ったら奏さんに怒られた。
マリアさんからは、逃げるなって言われた。

わたしは……どうすればいいんだろう。
迷い始めると、何もわからなくなっちゃった。

どうして、わたしはシンフォギア装者をやっているんだろう?

どうして、わたしは唄えなくなったんだろう?

わたしが戦う理由って、なんだっけ?

「ねえ、翔くん……わたし、どうすればいいのかな……?」

きっと翔くんなら、この問いに答えてくれると思う。

わたしの迷いなんか笑い飛ばして、背中を押してくれる一言をくれる。

翔くんなら──って、わたしはそう思っていた。

その一言が、返って来るまでは。



「だったら、ここが潮時だと思う」
「潮時……って?」

言葉の意図が分からず、翔くんの顔を見る。

翔くんはわたしの方ではなく、明後日の方向を見つめながら、冷たい声でそう言った。


「シンフォギアを辞めるべきだ、と言ったんだ」 
 

 
後書き
そろそろ第1楽章が終わりますね。

次回は翔くん視点でお届けします。お楽しみに。 
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