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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第98話:英雄とは

 
前書き
読んでくださりありがとうございます! 

 
 颯人と奏は互いに一歩も引かなかった。

 ウィザーソードガンの銃弾が不規則な軌道を描いて飛んで行くのを、奏は回転させたアームドギアで防ぐ。

 お返しに奏がアームドギアを高速で突き出すと、颯人はそれを紙一重で回避。

 2人の攻防は正に一進一退の様相を呈していた。

「何で分かってくれないんだ颯人!? お前の為に言ってるんだぞ!!」
「んな押し売りみたいな思い遣り、微塵も嬉しくないし分かりたくもねえな!」

 奏が颯人に攻撃を仕掛ける理由はたった一つ、これ以上彼を戦わせないようにする為だった。グレムリンに誑かされ、このまま戦い続ければ颯人の命が無いと思い込まされた奏は、力尽くでも彼に戦わせない様にしようとしていた。
 グレムリンからの洗脳による行動だが、それ故に心の底から颯人を想いアームドギアを振るっていた。必死な攻撃は一撃一撃が重く、しかも相手が奏と言う事もあって颯人も手を焼かされていた。

 しかし颯人もここで引く気は毛頭なかった。彼が戦うのは奏の為なのだ。その奏が、何者かに誑かされて間違った力の使い方をさせられている。それを黙ってみていられるほど、彼は薄情な男ではない。

 何としてでも奏を取り戻す。その一心で颯人は奏の前に立ち塞がっていた。

〈ランド、プリーズ。ドッドッ、ド・ド・ド・ドンッドンッ、ドッドッドン!〉

 一瞬の隙をついて、颯人はスタイルをランドに変えた。でかい武器を使う奏には、パワータイプのこいつの方がいい。

 スタイルチェンジの際の魔法陣を使って奏を押し返し、体勢を立て直した上で攻撃を再開する。振り下ろされるアームドギアを、颯人は正面から受け止め押し返した。

「チッ!? ランドスタイルか、本当に力は強いな!」
「そういう特性なんで、ね!」

 颯人は奏のアームドギアを一気に弾き、隙だらけになった奏の腕を掴み背負い投げをお見舞いする。投げられた勢いで奏のアームドギアが手から離れ、天高くに飛んでいく。

「が、はっ?!」

 背中を強かに地面に叩き付けられ、奏の肺の中の空気が強制的に吐き出される。
 軽い呼吸困難に喘ぐ奏の姿に、仮面の奥で颯人は顔を顰めずにはいられない。仕方がないとは言え、奏と本気で戦う事になり、そして彼女を結果的にだが苦しめるのは彼にとっても辛い事だった。

 しかしこれも奏の為、彼女を元に戻す為に必要なことである。颯人は心の悲鳴に耳を塞ぎ、酸素を求めて喘ぐ奏にウィザーソードガンの切っ先を向けた。

「勝負ありだ、観念しな」
「はっ、はっ……そい、つは……どうかな?」
「ん?」

 妙に余裕を見せる奏に、颯人は違和感を抱く。そして彼はふと気付いた。奏のアームドギアが彼女の手から離れている事と、彼女の視線が一瞬自分から離れた事に。

 颯人が奏に注意を向けている間に、奏は一瞬だが視線を彼の背後――と言うか上空に向けたのだ。

 颯人はそれが意味している事に気付いた。

「クッ!?」

 奏に向けていたウィザーソードガンを引き、振り返った颯人は上空から降ってきた奏のアームドギアを寸でのところで弾いた。

 彼に背負い投げられた瞬間、奏はアームドギアを勢いで手放したのではなく態と自分から手放したのだ。
 結果、颯人に投げられた際の勢いも利用しての投擲で上空に投げられた奏のアームドギアは、颯人の意識が完全に奏に向いた頃に自重で落下してきた。奏は軽々と振り回しているが、見た目に違わぬ重量なので位置エネルギーも合わせて落下の勢いは侮れないレベルとなる。直撃すればただでは済まなかっただろう。

 幸いギリギリのところで弾く事には成功したが、それは同時に奏に無防備な姿を見せる事になる。自身に背を向けた颯人を、奏は容赦なく蹴り飛ばした。

「ぐぉっ!?」

 先程投げられたお返しと言わんばかりの蹴りを喰らい、地面に倒れる颯人。その間に奏はアームドギアを回収し、体勢を整えてしまった。

「仕切り直しだ、颯人」
「いつつ……へっ! 上等だ、奏」
「もうこれ以上、戦わせない」
「意地でもお断り。奏を守る役は、他の誰にも譲るつもりは無いんでね」
「ここまで言っても、分かってくれないんだな」
「こっちのセリフ。意地っ張りな所は大人になっても変わらねえな」

 唐突に始まった口での応酬。互いに口が回るから勝負はつかない。そんなのは子供の頃から分かっていた事だ。

 分かっているのに、やらずにはいられない。状況的に敵味方に分かれてしまったが、根っこの部分ではやはり仲が良いのだ。

 それが分かったからか、2人は唐突に笑い出した。

「ぷふ、はははははっ!」
「く、はっはっはっはっはっ!」

 もしこの場に第3者が居れば、非常に奇妙な光景に見えた事だろう。つい先程まで戦っていた2人が唐突に笑い合い始めたのだから。
 だが仮にこの場に第3者が居た場合、更に困惑するのはこの後だ。

 笑い合っていた2人は、一瞬で雰囲気を変え再びぶつかり合ったのだから。

「「愛してるんだよ、お前の事を!!」」




***




 颯人と奏が激しくぶつかり合っている頃、透とクリスはウェル博士を探してフロンティア内部に突入していた。
 道中邪魔してくるノイズやメイジを蹴散らしながら2人が施設内部に突入し進んでいると、突然クリスの動きが鈍った。

「な、何だ? ギアが、重く――――!?」

 様子がおかしくなったクリスを透が心配して傍に寄ると、物陰からウェル博士がソロモンの杖を手に姿を現した。

「フッフッフッフッ……Anti LiNKERは忘れた頃にやってくる。こんな事もあろうと、そこら中に設置してあるんですよ」

 したり顔で眼鏡を指で押し上げるウェル博士。彼の登場に、クリスは己の不調も無視して声を荒げる。

「テメェッ! ソロモンの杖を渡しやがれ!」
「はっ! 誰が渡しますか。これは僕が英雄になる為に必要な力! お前みたいな奴に渡す訳ないだろ!」

 言いながらウェル博士はノイズを召喚し、クリスと透に嗾けさせた。迫るノイズを、透がクリスに近付けまいと迎え撃つ。両手に持ったカリヴァイオリンでノイズを次々と切り伏せていった。

「テメェが英雄? はっ! 馬鹿も休み休み言うんだな! お前みたいに誰かの後ろでコソコソしてるような奴が、英雄なんて器なもんかよ!」
「何ぃ?」
「仮に英雄って言われるような奴が居るとしたらなぁ、そりゃ透みたいな奴の事だ! 透みたいに、誰かの為に見返りを求めず戦えるような奴が英雄の器だ! 最初から英雄になろうとする奴が、そんな打算的な奴が英雄になんてなれるもんか!!」
「黙れ黙れ黙れ、黙れぇぇぇぇッ!? 誰が何と言おうが、僕は英雄になるんだぁぁぁッ!!」

 クリスの発言にウェル博士は発狂したようにノイズを召喚し、その数を持ってクリスを透共々葬ろうとする。

 その時、出し抜けにウェル博士の背後にメデューサがメイジに変身した状態で姿を現した。

「全く持ってその通りだな……」
「て、テメェ、メデューサ!?」
「おや遅かったですね? 今更ご到着ですか?」

 ここに来てメデューサの登場に、クリスは思わず目を見開いた。ただでさえAnti LiNKERの影響で満足に戦えないと言うのに、この上更にメデューサまで相手にしなければならないのだ。

 これでは透の足を引っ張るだけで終わってしまう。クリスはこの状況をどう脱しようかと頭を働かせた。

 一方透は、現れたメデューサの様子に違和感を覚えた。確かに彼女は裏切り者である透に敵意を向けてはいるのだが、その敵意……と言うか害意がウェル博士にも向いているように見えたのだ。

 それもその筈で、ジェネシスは最早ウェル博士達の味方ではない。彼女らはフロンティアを奪い取り、自分達で使うつもりなのだ。その上で邪魔になるのは誰かと言ったら、それはフロンティアにアクセスできるウェル博士に他ならない。

「さ、お膳立てはしてあげました。さっさとあの2人を始末しちゃってください」

 ウェル博士はメデューサに背を向けている。彼女の害意に気付いていないのだ。

 その彼に向けて、メデューサはスクラッチネイルを振り上げる。

「あぁ、始末するともさ…………お前もな!」
「えっ!?」
「ッ!!」
〈コネクト、ナーウ〉

 無防備なウェル博士に向けて、メデューサのスクラッチネイルが振り下ろされる。完全に油断していたウェル博士はそれに気付くのが遅れ、あわやと言う所で透により救われた。コネクトの魔法でカリヴァイオリンだけをメデューサの攻撃の射線上に出し、ウェル博士が切り裂かれる事を防いだのだ。

「え、なぁ――!?」

 ウェル博士は何故透が自分を守ったのか分からなかった。彼と自分は敵同士、助ける事にメリットなどない筈なのに。

「ちぃ、何故邪魔をする!? お前達にとっても敵だろうが!」

 訳が分からないのはメデューサも同様だった。透達からしてみれば、メデューサの行動は寧ろ2人を助ける行為になる。勿論メデューサの狙いはソロモンの杖だし、ウェル博士を始末した後は消耗した透とついでに散々邪魔してくれたクリスも始末するつもりだった。
 だが今この瞬間に、ウェル博士を助ける理由はな、それがメデューサの考えであった。

 2人の困惑を、重いギアで何とかノイズの迎撃をしているクリスが鼻で笑った。

「はっ! お前らに分かる訳ねえだろ! お前らみたいに自分達の事しか考えてない奴に、透の事が理解出来る訳がねえ!!」

 透は何時だって誰かの為に戦ってきた。子供の頃はクリスの為に、大人達の暴虐と戦い続け、そして今はなし崩し的に手に入れてしまった魔法の力で誰かを守るために戦ってきた。
 それは先程の、海上での戦いが何よりも雄弁に物語っていた。透は他のメイジと間違えて自分を攻撃してくる米兵達を、例え彼らに攻撃されながらでも決して反撃する事なく守り続けたのだ。

 例え自分が傷付こうとも、誰かの為に戦い続ける事が出来る。クリスにとって、透はどんな物語に出てくる人物よりも英雄として相応しい人物であった。

 ウェル博士の始末には失敗したメデューサだが、それでも一つは成果をと一瞬の隙を突いてウェル博士の手からソロモンの杖を掠め取った。

「あぁっ!? 返せッ!!」
「ふん!」
「ギャフンっ!?」

 取られたソロモンの杖を取り返そうとするウェル博士だったが、メデューサが軽く腕を振るうとそれだけで殴り飛ばされ、壁に叩き付けられて意識を失う。
 動かなくなったウェル博士を一足先に始末しようと、メデューサがスクラッチネイルを再びウェル博士に叩き付けようとした。

 それをノイズを殲滅した透が妨害した。

「ッ!」
「ちぃ、二度までも――!?」
「悪いが、気に食わない奴でも死なれる訳にはいかないんでね!」

 透の様な気高い理由ではないが、二課としてもウェル博士は重要参考人として確保する必要がある。故に、ここでメデューサに倒される訳にはいかなかった。

 クリスがハンドガンに変形させたアームドギアでメデューサに接近しながら銃撃する。メデューサはそれを防ぎつつ、接近してきたクリスにスクラッチネイルで反撃を繰り出した。
 メデューサの攻撃をクリスが両腕で受け止める。

「今だ、透!」
〈フォール、ナーウ〉
「何ッ!?」

 クリスとメデューサがぶつかり合った瞬間、透は魔法で床に穴を開けクリス・メデューサと共に下に落ちた。ここはAnti LiNKERがあるせいでクリスが全力で戦えない。その上ここで戦っては、気を失ったウェル博士を巻き込んでしまう。それを防ぐ為、透とクリスは戦う場所を強制的に変えさせたのだ。

 これだけ広大なフロンティアなら、この下にも何かしらの空間はある筈。その読みは正しく、3人は岩肌剥き出しの洞窟の様な空間へと降り立った。

 だがそこら中に仕掛けたと言うウェル博士の言葉に間違いはなかったのか、ここにもAnti LiNKERの散布機が設置されていた。吐き出される赤い液体が、クリスのギアを重くさせる。

「チクショウ、ここにも――」

 その時、唐突に散布機が機能を停止し薬液の散布が中止された。その事にクリスは透と顔を見合わせ首を傾げる。

「中身、空になったのか?」
「?」
「余所見とは余裕だな!」
「ッ! アブねッ!?」

 2人揃って首を傾げていると、メデューサがライドスクレイパーを手に2人に攻撃してきた。危うい所でメデューサの攻撃に気付き2人は散開して回避する。

 何故突然散布機が機能を停止したのか? その答えは先程まで3人が居た場所で明らかとなる。

「…………感謝するつもりじゃありませんよ。これも戦略です。精々邪魔者同士、潰し合ってください」

 そう言ったウェル博士の手には、Anti LiNKERの散布機を操作するリモコンが握られていた。

 忌々し気に呟いたウェル博士は、痛む体を引き摺ってフロンティアの制御室へと向かうのだった。 
 

 
後書き
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