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Fate/WizarDragonknight

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エピローグ -Nexus-

「ごめん! 遅れた!」

 ハルトは息を切らせながら、駅のホームに駆け込んだ。
 見滝原中央駅。複数の電車が往来するターミナル駅であるところのそれは、来るたびにその大きさに圧倒される。何とかココアとモカの姿を見つけたハルトは、そこへ急いだ。

「ハルトさん! 遅いよ!」

 ココアが口を尖らせた。

「もうすぐでお姉ちゃん帰っちゃうところだよ!」
「ごめんね。これ作ってたら遅れちゃって……」

 ハルトは、そう言ってココアに手に持った紙袋を見せる。

「モカさん、今回はありがとうございました。色々と手伝ってもらって。これ、列車の中でどうぞ」
「ありがとう!」

 モカが礼を言って、紙袋を受け取った。

「えっと……挨拶に来るの、俺が最後?」
「そうだよ。チノちゃんも可奈美ちゃんも、もう先にラビットハウスに帰っちゃった」
「いや、その二人は帰ってきたから俺が出て来れたんだけど……真司とか」
「もう皆来たよ。コウスケさんと真司さんが、お姉ちゃんの連絡先聞いていったね」
「何やってんだかあの二人は……」

 ハルトは頭を抑えた。
 一方、モカは紙袋を胸に抱えた。

「ハル君も、ココアと仲良くしてくれてありがとう。ココアもたまには帰ってきなさい。お母さんも待ってるんだから」

 すると、少しの間ココアは茫然としていた。一瞬、彼女の目がうるうると震えたようにも見えた。
 だが、ココアはすぐに首を振った。

「だって、チノちゃんが寂しがるから」
「それ後で伝えておくからね。ココアちゃんが、チノちゃんが依存しているって言ってたって」
「えっ!? ハルトさん、それはちょっとやめて!」

 照れ隠しながらもハルトに懇願するココア。ハルトはほほ笑みながら、続けた。

「本当はココアちゃんが寂しいだけだったりして」
「何でそうやって図星当てるの!?」

 ココアが悲鳴を上げながら掴みかかる。そんな彼女を制しながら、ハルトは静かに告げた。

「モカさん。心配なのは分かりますけど、ココアちゃんはもう、立派なお姉ちゃんですよ」
「ハル君……」
「離れていても、絆がある家族って、とても素晴らしいことだと思いますよ。羨ましいくらいに」
「……ハル君?」

 やがて発射アナウンスが、モカとの別れの時間を告げた。
 ココアもモカも、ともに頭上を見上げて、それぞれ名残惜しいという顔をした。

「それじゃあ……そろそろ……」
「うん。……お姉ちゃんも、体に気を付けてね」
「ココアもね」

 そのまま、電車へ乗ろうとしたモカだが、足を止める。
 彼女はそのままハルトを手招きした。

「ハル君、ちょっといい?」
「モカさん?」

 近づいたハルトへ、モカは耳打ちした。

「ココアを守ってくれてありがとう。宝石のヒーローさん」
「……はい」



 一月も下旬になると、新年にも慣れてくる。
 そんな中、ハルトはその店の前で足を止めた。
 赤いレンガをメインにした、西洋風の建物。見滝原西の木組みの街と呼ばれる地区の入り口付近にある、傷んだ家の隣。
 その店に、ハルトは連れて来られた。

「あま……うさぎ……俺?」

 日除けテントの上に乗せられた左読みの看板を見ながら、ハルトは顔をしかめた。

「違うよハルトさん。甘兎庵(あまうさあん)、だよ! さあ、早く入ろう!」

 ココアに背中を押されながら、ハルトはその甘兎庵に入っていった。
 洋風の外観とは真逆に、和風テイストが強い店内。そこへ「いらっしゃいませ~」と応じてきたのは、大和撫子が似合う少女。
 深緑の和服が、より彼女を大人っぽく見せている。
 彼女の名を、ハルトは知っていた。

「えっと……千夜(ちや)ちゃん、だったっけ?」
「あら? ラビットハウスさんの新しいお兄さんよね? クリスマス以来かしら?」
「そうだね。松菜ハルトです」

 ハルトは会釈を返す。
 すると千夜はにっこりと笑いながら、「どうぞ」とハルトたちを席へ通す。

「はい、こちらがお品書きよ」
「ありがとう。……えっと、お品書き……!?」

 千夜月
 煌めく三宝珠
 雪原の赤宝石

「なんじゃこりゃあああ!?」

 独特すぎるメニュー名に頭を痛ませていると、ココアが千夜を呼んだ。

「今いい? 今日もういるんだよね?」
「ええ。今日からよ」
「今日?」

 ハルトの疑問に、千夜は店の奥へ手を伸ばした。

「それでは、新人のご登場!」

 千夜の合図で、店の奥から、彼女と同じデザインの着物を着た少女が現れた。
 すらりと伸びた長身、長い髪を後頭部でまとめ、(かんざし)を刺している。

「紗夜さん?」
「こんにちは。松菜さん」

 そこにいたのは、薄紫の和服に身を包んだ紗夜。名前も知らない花が無数に描かれた和服は、清楚な彼女にはよく似合っている。

 何より。

 彼女の右手には、もう包帯も令呪もない。
 トレギアが、彼女の持つ魔力を全て吸収していったのだ。よって、今の紗夜は、マスターでもなければゲートでもない。

「紗夜さん、結局ここでバイト始めたんだ」
「はい。今日から、住み込みでお世話になります」

 紗夜は静かにほほ笑んだ。

「日菜と、どうやって向き合うか……まだ分かりませんけど」
「けど?」
「少し……考えてみたいんです。これからの距離の取り方や、私なりの生き方を」
「……そっか……」

 ハルトと紗夜の間に、沈黙が流れる。
 ココアと千夜が二人の目線をキョロキョロと見比べており、二人はやがてひそひそと囁き合う。

「ねえ、千夜ちゃん千夜ちゃん、紗夜ちゃんって、もしかしてハルトさんと並々ならぬ関係?」
「ダメよココアちゃん。こういう只ならぬ気配を感じる間柄は、部外者が入ってはいけないのよ……!」
「ハイそこ誤解するのやめーい」

ハルトのツッコミに、千夜が咳払いをした。

「さあ、とうとう甘兎庵にも新人さんが入ったわ! それもあの鬼の風紀委員が! これからビシバシ鍛えていくわよ。あの風紀委員を、この私が顎で使える……なんてすばらしいの!? ああ……楽しみだわ……!」

 紗夜の後ろで、千夜が頬に触れながら喜んでいる。彼女の背景にまるで花が咲いているようにも見えてきた。

「あはは……でもよかったよ。紗夜さん、色々と」
「はい」
「……また来るね。それじゃあ、また」

 ハルトはそう言って、店から出ていく。続いて出たココアに続いて、千夜の「今度はしっかりと食べていって下さいね」という声が聞こえてきた。



「待って下さい、松菜さん」

 ラビットハウスへの帰路へ向かうハルトを、紗夜が呼び止めた。
 甘兎庵のままの服装の彼女は、陽の光の元でも美しく見える。

「どうしたの?」
「……私……」

 少し照れた顔の紗夜は、髪をかき上げる。長い髪を結んだ合間から、右耳が覗いた。

「本当にありがとうございました。松菜さんがいなかったら、私は……」
「……あの時君を助けたのは俺じゃない。それに、結局トレギアから離れたのは、紗夜さん自身でしょ?」
「それでも……松菜さんが、私を必死に守ってくれたから。だから……」

 紗夜はそう言って、右手を見下ろす。令呪の代わりに彼女の手にある指輪。ハルトが付けた、エンゲージの指輪。
 紗夜は大切そうに、それに左手を乗せた。

「もう一度、ギターを始めてみます。日菜のことを、劣等感(コンプレックス)として感じないギターを」
「……そっか」
「そうしたら……聞きに来てくれませんか?」

 ハルトは、少し驚いた。
 紗夜は、笑顔を___彼女の本当の笑顔を見るのは、初めてかもしれない___見せた。

「私が演奏をもう一度できるようになったら……貴方に聞いてほしいんです。他の誰よりも、一番最初に……」
「うん。分かった。待ってるよ」



「ハルトさん、何を話していたの?」

 待っていたココアが、両腕を後ろに組みながら尋ねた。
 ハルトはにっこりとしながら、

「紗夜さんが、またギターを始めるんだって。そのこと」
「わあっ! 紗夜ちゃん、ギター弾くんだ! びっくり!」

 ココアはそう言いながら、ハルトへ振り返りながら後ろ歩きでラビットハウスへ進んでいく。

「紗夜ちゃん、学校だと風紀委員で厳しいイメージがあったから意外だなあ……どんな曲かなあ 楽しみ!」
「その資金のためのバイトでもあるんだろうね。それより、前見ないと危ないよ」

 だが、ハルトの心配をよそに、ココアは後ろ向きで軽いステップを踏んでいく。

「大丈夫! 私だってお姉ちゃんなんだから、これぐらい簡単にできるところ見せてあげなくちゃ!」
「それを見たチノちゃんが何て言うか甚だ疑問だけどね」
「平気平気!」

 だが、そんなココアの余裕は、ラビットハウス近くの橋に差し掛かったところで崩れた。
 彼女の足が、石に躓き。

「うわっ!」
「ほら言わんこっちゃない!」

 ハルトは慌ててココアの手を摑まえる。

「全く……お姉様、もう少ししっかりしてよ」
「え、えへへ……」

 ココアは照れ隠しをしながら、頭を掻く。

「カッコ悪いところみせちゃった……」
「はいはい。今度はしっかりしてくださいねお姉様」

 ハルトはそう言って、今度はココアよりも先を行く。

「早く帰ろうよ。チノちゃんも待ってるよ」
「待って」

 突然、ココアが橋の真ん中で立ち尽くしている。
 冬終わりの青空を、じっと見上げている。

「どうしたの?」
「うん。ちょっと……」

 そう言いながら、ココアはポケットからそれを取り出した。

「何だろう? これに、呼ばれたような……」
「それは……!」

 ウルトラマンになるための、白いアイテム。エボルトラスターの名をもつそれは、ひと際の光を放つと同時に、砂のように消えていった。

「……!」
「あ」

 ハルトが目を大きく見開くのに対し、ココアの反応はごく小さなものだった。
 薄れていくエボルトラスターの粒子を見送りながら、ココアは呟く。

「どうして……私が選ばれたんだろう?」
「……さあね」

 ハルトも、静かに橋の手すりによりかかった。

「でも、何だったんだろうね? あれ」

 結局、トレギアが巻き起こした事件で、ハルトは大きな貢献はできなかった。
 スイムスイムを救うのには間に合わず、闇に囚われた紗夜を助けたのはココアだった。トレギアを倒したのも、ウルトラマンの協力がなければ不可能だった。

「……もう少し、あの人のこと、知りたかったな」
「そうだね。私も……最後の時だけしか、あの人のことが分からないんだ」

 ココアが空から目を離さずに言った。

「でも……何でかな。一つだけ、ハルトさんに伝えてほしいって……言われた気がするんだ」

 もうすぐ春になろうとする空は、まだ冷えるためか、彼女の吐く息が白い。

「俺に?」
「……『諦めるな』」

 ココアの小さな声が、ハルトの耳に残った。

「名前。何ていうのかな」

 ハルトの問いに、ココアは「そうだね」と川を見下ろす。
 そして。
 誰かに聞いたのか、それともあのウルトラマンから直接言われたのか。
 ココアの口が、いつの間にか動いていた。

「絆……ネクサス……」
「ネクサス……」

 ハルトとココアは、静かに青空を見上げ続けていた。

「ココアさん! いつまでそんなところで油を売っているんですか?」
「ハルトさん、今日当番だよね? そろそろ代われる?」

 ラビットハウスから出てきた可奈美とチノの言葉が来るまで、二人は動かなかった。



 パソコンの画面が、闇色に染まっていく。
 やがて、画面は水面のように渦を巻き、そこから黒い手が現れた。

「やあ。マスター。調子はどうだい?」

 手袋のような質感と、指先に突き出る鋭い爪。
 それがトレギアという名前の人物だと、ずいぶん前から知っている。

「……どこに行っていたの?」

 そう、少女は、トレギアに対して顔を動かすことなく尋ねた。
 彼女の手元には、粘土で作られた人形があり、今まさにその表皮を削っているところだった。
 トレギアはそれを見ると、「へえ……」と息を漏らした。

「それは何だい?」

 トレギアの質問に対し、少女は少し顔を下げる。かけた眼鏡が、光を反射して白一色に染まる。

「新作の怪獣。いいでしょ? この、とくに突き出てる顔とか」
「ふふ……中々の中二病だ」

 トレギアはそうほくそ笑みながら、少女の眼鏡、それに映る人形を見つめるのだった。



次回予告

「君は……?」
「またわたしを置いていくの?」
「サーヴァント セイバー! 召喚に応じ参上した!」
「さあ、今こそ復活の時だ!」
「中々に芸術的センスしてるじゃねえか。うん」
「オレの中に流れる血が許さないんだよ……お前のような寄生虫を野放しにすることをな!」
「助けて……助けてよ!」
「人だとか人じゃないとか、そんなもの関係ない! 私は、守りたいものを全部守る! それだけの力が、今の私にはある!」 
 

 
後書き
友奈「はい! ということで、めでたく四章終了しました!」
響「わーい!」
コウスケ「お前ら出番少ねえのに楽しそうだな」
友奈「だって」
響「私達」
友奈、響「「主役回もらえたし」」
コウスケ「ちくしょーっ! オリキャラだけどハルトと違って主役じゃねえから担当回回ってくるか分かんねえ! 圧倒的出番貧乏!」
響「でも結局トレギア倒せてないじゃん!」
友奈「これからも出てくるのかな? 手強い宿敵だね……」
コウスケ「皆まで言うな! オレたちでなんとかする! つーわけで、次回もお楽しみに!」 
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