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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第97話:明かされる名前

 
前書き
読んでくださりありがとうございます。 

 
 ナスターシャ教授に言われた通り、シンフォギアを纏い全世界に歌を届けるマリア。マリアの歌でフォニックゲインを高め、それにより機能不全を起こした月の機能を再起動させ、公転軌道に集積させる事を目的としたものだ。

 ソーサラーが見守る前でマリアは自らの歌を熱唱した。

 しかし、結果は失敗。月の遺跡は沈黙したままであった。
 その結果にマリアは崩れ落ちる。

「私の歌は……誰の命も救えないの――!? う、あ……あぁぁ――――!?」

 自らの不甲斐無さ、情けなさに、マリアは涙を流した。
 傍でそれを見ていたソーサラーは、思わず彼女から目を逸らす。

「マリア姉さん!?」

 そこへ何とセレナが駆け寄ってきた。ベッドの上で着ている服の上にカーディガンを羽織っただけという姿でマリアに駆け寄る彼女は、お世辞にも体調が良さそうには見えない。今も脂汗を流し、顔色は悪い。

「せ、セレナ!?」
「ッ!?」

 まさかのセレナの行動に、マリアの目からは涙が引っ込み、ソーサラーも狼狽えた様子を見せた。無理もない。本来彼女は絶対安静にしていなければならないのだから。

「あなた、なんて無茶を!?」
「だって……はぁ、はぁ……姉さんが、辛そうにしてるの……放っておけない」
「セレナ……」

 セレナは姉を想う一心で、辛さを押し殺してここまでやって来たのだ。自分を想う妹の気持ちに、嬉しさと情けなさでマリアは再び涙を流す。

 涙を流すマリアに抱きしめられるセレナは、ソーサラーにも目を向けた。

「君も……もう無理しないで……」
「え?」
「ずっと、そこに居たんだよね。ねぇ、もう、本当の事を教えて――」

 セレナが言葉を続けようとしたその時、ソーサラーはマリアとセレナの背後から刃を振り下ろそうとするグレムリンの姿を見た。

「ッ!!」

 咄嗟に彼はハルバードを構え、グレムリンの振り下ろした刃から2人を守る。

「え!?」
「な!?」
「くぅっ!?」

 寸でのところで2人をグレムリンの凶刃から救ったソーサラーは、ハルバードを振るいグレムリンを押し退ける。

 パワーで押され、3人から距離を取ったグレムリンを前にマリアとセレナを守るようにハルバードを構えるソーサラー。マリアはセレナを守るように彼女を抱きしめている。

「……どう言うつもりだ。これでは約束が違う!」

 ソーサラーが怒気を込めてグレムリンに問う。マリアとセレナはここで初めて彼の声を聴くが、マリアはその声に何かを感じ、セレナは確信を得た顔をした。

「え~? だって何かもう飽きちゃたしさ~」
「飽きた、だと――!?」
「B級のメロドラマみたいになってきて、面白くなくなっちゃったし。もういいかな~って。目的の物は出てきてくれた訳だしさ」
「貴様ら……やはりフロンティアを……」

 やはりジェネシスはフィーネに協力する気は微塵も無かったのだ。彼らの目的はただ一つ、フロンティアのみ。組織の拠点としてフロンティアが欲しいのか、それともフロンティアの力そのものを欲しているのかは分からないが彼らはフロンティアを手に入れる為にウェル博士に手を貸していたのだ。

「ネタ晴らしには早いぞ、グレムリン」
「え~? もういいでしょ? 最後の舞台の幕は上がっちゃったんだし」

 グレムリンの隣に、メイジに変身したメデューサが並び立つ。

「ミサちゃんは博士の方に行ってよ。僕はこっちを何とかしてから行くから」
「良いだろう。ついでに奴の持つソロモンの杖も頂戴しておこう」

 メデューサが踵を返す。その場に残ったグレムリンは、双剣を構えると再びソーサラーに斬りかかった。ソーサラーはそれをハルバードで迎え撃つ。

「くぅっ!? 貴様ッ!!」

 グレムリンの素早い攻撃を防ぎながら反撃の機会を伺うソーサラー。だがどちらかと言えばパワータイプなソーサラーはスピードタイプのグレムリンとは相性が悪い。激しい剣戟に、ソーサラーが徐々に押されていく。

 しかしソーサラーは決して引き下がらない。彼の後ろではマリアとセレナが固唾を飲んで見守っている。その2人を危険に晒さない為、2人に無様な姿を見せない為にソーサラーは己を鼓舞した。

「負ける訳にはいかない……これでッ!」
〈チェイン、ナーウ〉

 ソーサラーは四方八方から魔法の鎖を伸ばした。しかしその鎖は全てグレムリンを捉える事は無く、床や壁、天井とあらゆる平面を鎖の発生元の魔法陣と繋いだ。
 一見すると無駄に終わったソーサラーの魔法。ただ周囲に鎖を張っただけにしか見えないそれは、しかしグレムリン相手には効果覿面だった。

 不意にグレムリンの剣の片方が鎖に触れた。瞬間、鎖が蛇の様に剣に巻き付いた。

「ッ!?」

 片方の剣を腕ごと拘束されたグレムリンは、即座にその鎖を切断しようと自由な方の剣を振り上げた。迂闊にもその剣は別の鎖にぶつかり、その鎖もまた触れた瞬間弾かれた様にグレムリンの腕に巻き付いた。

「なっ!?」
「……お前相手に何の対策も練っていないと思ったか。何時かこういう日が来た時の為に、備えていた鎖の結界だ。触れれば即座に相手に巻き付き拘束する。しかも範囲は数十メートルにも及ぶ。素早さが持ち味のお前に逃げ場はない」
「くっ!?」

 これがソーサラーの秘策だった。ジェネシスと敵対する時の事を見越してソーサラーは幹部と戦う時の対策を立てていた。速度に秀でたグレムリンに対しては、その速度を殺しこちらが攻撃しやすい状況を整えてしまえばいい。

 動けないグレムリンなど怖くもなんともない。しかも彼は今、両腕を拘束されている為魔法も使えない。

 仕留めるならば、今!

「グレムリン、覚悟!」

 ここでグレムリンを仕留めるべく、ソーサラーはハルバードを振り下ろす。

 後ろからそれを見ていたマリアとセレナは勝利を確信した。

「行ける――!」
「そうだよ、姉さん。”ガルド君”が――」

「――――え? ガルド?」
「ッ!?!?」
「――――あはっ!」

 彼が勝てると思ったからか、セレナが徐に口にした1人の人物の名前。

 彼女がその名前を口にした瞬間、ソーサラーの体に緊張が走り動きが止まった。同時にグレムリンの口からは、何処か楽し気で、それでいて相手を嘲笑する様な嗤いが口から零れる。

 突然動きを止めたソーサラーに、マリアとセレナが注目していると突然彼の手からハルバードが落ちた。それと同時にグレムリンを拘束していた魔法の鎖が消える。

「え?」

 一体何がと思う間もなく、ソーサラーが胸を押さえて苦しみ始めた。

「うぐ、あ、がぁぁぁぁぁぁっ?!」
「何!? 何がッ!?」
「ガルド君ッ!?」
「セレナ、待って!?」

 苦しみその場に蹲るソーサラーにセレナが駆け寄る。自分も苦しい筈なのに、蹲ったソーサラーの背をセレナが擦った。

 セレナに介抱される中、ソーサラーの変身が解除された。仮面の下から現れたのは、マリアやセレナと程近い年齢に見える男性。その顔には酷い脂汗が浮いており、彼が受けている苦しみがどれほどなのかを伺わせた。

「何で? 一体どうしたの!?」

 セレナがソーサラー……否、ガルド・イアンを心配していると、2人の前にグレムリンが歩み寄っていた。彼はガルドの変身が解除された際に落ちた指輪の一つを拾い、しげしげと眺めながら口を開く。

「どうして? 白々しいな~。君の所為なのに」
「え? それ、どう言う……」
「止せ、それ以上言うなッ!?」

 グレムリンの言葉にセレナがただでさえ悪い顔色を蒼褪めさせた。ガルドはそれ以上グレムリンに言わせまいとするが、グレムリンはお構いなしに言葉を続けた。

「実は彼にはね、一つの呪いを掛けてあるんだ。『本名を耳にしたらダメ』て言うね」
「――――え?」

 ソーサラーがマリア達と殆どコミュニケーションを取ってこなかったのはこれが理由だった。仮面をしていれば気付かれる事は殆どないだろうが、それでも些細な事からバレるかもしれない。だからこそ彼は、マリア達との接触とコミュニケーションを必要最低限に抑えていたのだ。

 本当はマリアや、取り分けセレナともっと触れ合いたかったにも拘わらず、彼はそれを自ら禁じていたのである。

「私……私の、所為? 私が、気付いちゃったから――――!?」
「ち、違う!? セレナは、何も悪くない……」

 よりにもよって自分がガルドの足を引っ張ってしまったと言う罪悪感に、セレナが圧し潰されそうになり頭を抱える。ガルドはそれを否と言うが、グレムリンはセレナの罪悪感をさらに煽った。

「気付かなければ良かったのにねぇ~? そうすれば僕を倒せてたかもしれないのに。それに今までだってみんなが頑張ってるのに、1人だけベッドで寝てのんびりしてさ~」
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ――――」
「止めろグレムリンッ!?」
「セレナ、あなたは何も悪くない!?」

 自分を追い込むセレナを守ろうとするガルドとマリア。彼らを見下しながら、グレムリンは拾った指輪を右手中指にはめた。

「ま、もういいや。君らもう必要無いし。十分楽しませてもらったしねぇ」
〈トルネード、ナーウ〉
「ッ!? 2人とも離れろッ!」

 グレムリンが何をするつもりなのか分かったガルドは、咄嗟に2人を突き飛ばし自分から遠ざけた。直後、ガルドの周りを極彩色の風が吹きすさび彼を空中へと巻き上げていく。

「あ、そうそう。君この間この魔法で軍人さん達を逃がそうとしてたみたいだけど……折角だから全員始末しといたよ」
「グレムリン、貴様ぁ――!?」
「ガルド君、駄目ぇっ!?」

 極彩色の竜巻は天井を突き破り、彼を外へと吹き飛ばそうとする。徐々に巻き上げられていく彼に、セレナは危険を顧みず竜巻の中へ飛び込んだ。

「セレナッ!?」
「セレナ、駄目よッ!?」

 ガルドとマリアの静止も聞かず、セレナは竜巻の中へ飛び込むと巻き上げられていくガルドに抱き着いた。

「セレナ、どうして!?」
「だってもう、離れたくなかったから……やっと、やっとまた会えた――!」

 強風に巻き上げられながら、セレナはガルドの体に抱き着いた。対するガルドも、今まで堪えていた物を吐き出すようにセレナを強く抱きしめた。

「すまない、セレナ……君を守りたかったのに……」

 互いに抱きしめ合いながら、外へと吹き飛ばされていく2人。あの高さから落とされては、下が海でも助からないだろう。

「セレナ……ガルド……セレナァァァァァァッ!?」

 1人残されたマリアは、2人が吹き飛ばされていった穴に手を伸ばし叫び声を上げるしか出来なかった。




***




 一方、外では颯人と奏が激しい戦いを繰り広げていた。

「チィッ!」
〈ウォーター、プリーズ。スィー、スィー、スィー、スィー!〉

 颯人はウォータースタイルになると、リキッドの魔法で体を液状化させ奏に接近した。液状化した颯人には、奏のアームドギアによる一撃が通用しない。

「だったらぁ!」
[LAST∞METEOR]

 通常の攻撃では液状化した颯人に対処できない上に、接近されたらどうしようも無くなる。近付かせてなるものかと、奏は相手を穿つ竜巻を発生させる『LAST∞METEOR』で液状化した颯人自体を吹き飛ばした。

「んのぉっ!?」
〈コネクト、プリーズ〉

 吹き飛ばされながら颯人は自分の進行方向に魔法陣を作り出しその中に飛び込んだ。魔法陣で繋げた先は、今技を放ったばかりの奏の背後。奏の技の威力を利用して彼女の背後を取った。

「やっぱりな!」

 颯人のその行動を、奏は読んでいた。颯人を吹き飛ばした直後には、奏は既にアームドギアを構えて次の行動に向けて備えていた。

[POWER∞SHINE]

 魔法陣を通り抜け颯人が奏の背後に出た時、彼の出現に合わせて奏がアームドギアを自分の後ろに振るう。颯人が奏の背中を見たと思った時には、光の刃が視界を埋め尽くしていた。

「ッ!?」

 奏の攻撃が既に放たれていると颯人が知った時、彼は咄嗟にその場をジャンプしていた。考えるよりも先に体が動いてくれた事が幸いし、前転の要領で奏の放った一撃を紙一重で回避する事に成功する。

 そのまま前転の勢いで颯人はウィザーソードガンを奏に向けて振り下ろした。奏は、これは決まったと言うタイミングで放った一撃を回避された挙句そのまま反撃された事に目を見開く。

 奏に向けて振り下ろされる颯人の刃。それを奏はアームドギアの柄でギリギリ受け止めた。

「くぅ……はっ」
「……へっ」

 鍔迫り合いした状態で睨み合う颯人と奏。真剣勝負の真っただ中だと言うのに、至近距離で睨み合う2人の顔には何時の間にか笑みが浮かんでいた。 
 

 
後書き
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