FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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納得いかない
前書き
今週は時間的に余裕があった早めの投稿です。来週は仕事が立て込んでますので時間かかるかもですが、ご容赦ください。
シリルside
「え~?あの船に乗るの~?」
俺の背中にあるリュックの中から顔を出していたセシリーが口を尖らせながらそう言う。そりゃそうだ、だって今目の前にあるのはどう見たって貨物船なんだから。
「仕方ないでしょ」
「これから行くのは闇ギルドが支配している国だからね。普通の客船なんか、通っているはずないんだから」
「むぅ~」
これから向かう国は王政が崩れてしまったことにより治安が著しく悪化しているという話。そんな国に自ら進んで観光に行くような人間がいるわけもなく、こうやって貨物船の中に潜んで不法入国するしかないのだ。
「でもいきなり大変ね。タイミングを見計らって船に潜入しなきゃいけないなんて」
「全くだよ。しかも降りる時も見つかっちゃいけないし」
「依頼以外にも難関がたくさんあるよね」
ただの討伐依頼ならどんなに楽だっただろう。でも、これも依頼の範囲なのであれば、俺たちはそれに従って行くしかない。そもそも一度依頼を失敗しているのだから、妖精の尻尾の名に賭けて、二度目の失敗は許されない。
離れた草むらの中から次々に運ばれていく荷物。恐らく例の国に向かう輸出品なのだろう。でもよく考えると、そんなものをフィオーレから輸出することは果たして良いのだろうか?なんかささやかな疑問なんだが……
「これでラストだ」
「よし。じゃあ荷物も積み終わったし行くか」
荷物を積み終えたらしく中に入っていく男たち。彼らが入ったタイミングで、急いで俺たちも船へと向かう。
「はぁ・・・なんかもう疲れたよ」
船員に気付かれないようにと乗り込むことに成功した俺たち。細心の注意と猛ダッシュにより既に疲れているのは言うまでもない。
「だらしないわね」
「そんなんじゃまた依頼に失敗しちゃうよ~」
カバンの中にいるシャルルとセシリーにそう言われるけど、こいつらが入っていることも原因の一つだと思う。余計な荷物になっちゃってるし。
「ほら、休まないで早く奥まで行っちゃいましょ」
「大丈夫だよ、シャルル。慌てなくても周りに人もいないし」
周りに人もいないし、隠れるところはいくらでもあるような状態。それなのに、シャルルは焦っているような声で俺たちを急かしてくる。
「いや・・・慌てなきゃダメでしょ」
「なんで~・・・あ!!」
彼女がここまで急かしてくる理由がわからなき俺たちだったが、セシリーだけはわかった。それを聞こうとしたその時・・・
ガタガタ
例の国に出発のため、船が動き出した音がした。
「あぁ・・・」
「遅かった・・・」
「「??」」
それと同時にわかりやすく大きなタメ息をつく二人。その意味がわからずウェンディと顔を見合わせていると、すぐにその理由がわかった。
「「うぷっ・・・」」
顔が血の気が引いていき、立っていられないほどの吐き気に襲われる。そう、船が動き出してしまったことにより、俺たちは乗り物酔いを起こしてしまったのだ。
「ほら、言わんこっちゃない」
「いつも忘れちゃうよね~・・・」
普段は乗り物にほとんど乗らないから、こういう時になってから思い出すことが多い気がする。そのまま動けずにいると、足音が近づいてくるのがわかった。
「ヤバい・・・結構近い・・・」
「シャルル・・・セシリー・・・どこか隠れられそうなところない?」
「ちょっと待ってなさい」
「すぐ運ぶから~」
リュックから出てきて俺たちを運ぼうとしてくれる二人。大丈夫、足音の大きさからここに来るまではもう少しかかると思われる。慌てずに移動できれば・・・
ドンッ
「「「「!?」」」」
そう思っていたのに、突然近づいてきていた足音の主は、一瞬のうちに俺たちの目の前まで飛んできていたのだ。
「え?」
「は?」
何が起きたのかわからない。まさか俺たちをこの薄暗い中、それなりの距離がある状態で見つけてジャンプしてきたってことなのか?
もしかしたらとんでもない奴がいたのかもしれないと思っていると、そいつはその場にしゃがみ、俺たちの顔を覗き込む。
「お前ら・・・また乗り物酔いしてんの?」
「「「「??」」」」
また?こいつは俺を知っているのかとぐるぐるする視界の中声の主を思い出そうとするが、誰だろう・・・聞き覚えはあるのにパッと浮かんでこない。
タッタッタッタッ
そうこうしている間に今度は駆け足で近づいてくる足音が二つ。その主たちは俺たちの前まで来たかと思うと、先程の彼と同様にその場にしゃがんで俺たちの顔を覗き込む。
「大丈夫?ウェンディ、シリル」
「シャルル!!セシリー!!久しぶり!!」
今度は聞き覚えのある声。一人大きな声を出していて咎められているが、何とかぐらつく視界の中顔をあげる。
「シェリア・・・」
「ラウル・・・久しぶり・・・」
赤紫色の髪の毛をビッグテールにしている少女とオレンジ色の髪を無造作に伸ばしている少年。この二人を見て安心したが、その際わずかに視界に入った人物を見て俺たちはぎょっとした。
「ティ・・・ティオス・・・」
今まで最強の敵だったと言っても過言ではない相手が目の前にいる。しかし、そいつからは一切の敵意は感じられず、俺の口から出たその名前を聞いて、シェリアと共にタメ息をついていた。
「また間違えられた」
「瓜二つだもんね」
「そりゃ本人と言えば本人だし」
かつての敵と仲良さげに話している二人を見て何が何だかわからず困惑してしまう。しかし、よく見ると目の前にいるティオスはあの時とはわずかに違っている。
髪色は金色な上に少し背丈も小さく見える。しかもさっきまで気付かなかったけど、この匂いの感じは・・・
「まさか・・・レオン・・・なの?」
「うん。そうだよ」
無表情のまま頷く青年。俺の記憶にいる彼よりも遥かに背が伸びているのを見た俺は、先程までの乗り物酔いを上回るほど、顔から血の気が引いていく。
「な・・・納得いかない・・・」
一つしか年齢が変わらないはずなのに、かたや成長期なのか大幅に背が伸び声変わりまで始まり、かたやいまだに幼馴染みの少女と共に成長しない体に悩まされているこの差。実力差以上の何かを見せつけられた俺は悔しさのあまり、奥歯を噛み締めていることしかできなかった。
「ところで二人はなんでここにいるの~?」
俺とウェンディを連れて多くの貨物が置かれているスペースへと移動した面々。これで隠れるのは容易だし、見つかっても相手を巻きやすくなっている。
「ジュラさんから依頼を受けてね」
「闇ギルドに乗っ取られた王国があるんだって」
それを聞いて思わず全員が顔を見合わせた。それってもしかして俺たちが受けた依頼と同じものなんじゃ・・・
「ねぇ、その依頼書持ってる?」
「これだよ」
ラウルから受け取った依頼書を見るシャルルとセシリー。二人は寝ている俺たちにサインを送り、同じ依頼であることを伝えてくる。
「え?この依頼ウェンディたちも受けてるの?」
「ブッキングしちゃったのか?」
メルディさんとジュラさんの間でうまくやり取りができていなかったのか、どうやらブッキングしてしまったらしい。となるとこれはどうすればいいんだろ・・・
「まぁしょうがないよね」
「今から船を降りるのはさすがに無理だし、今回は手を組んでやろうぜ」
船が出発してから相当な時間も経っている。セシリーたちに運んでもらうのも手ではあるが、それよりもこの人数で依頼を早く終わらせた方がいい。それにこのメンバーなら、チームワークにも問題はないだろうし。
「でもレオンそんなに背が伸びたら力も付いたんじゃない?」
「魔力も上がってる~?」
やることが決まったとなればしばらくは雑談タイム。この短期間で急激な成長を遂げているレオンのことについてシャルルたちが問いかける。
「いや、実は成長痛で最近まで動けてなくてさ」
「実はあたしたち、久しぶりの依頼なんだ」
どこまで成長しているのかと思ったが、どうやらこの短期間での成長はやはり一筋縄ではいかないものだったらしい。
確かに俺より少し高いくらいだったのに、今ではグレイさんたちくらいまでの背丈になっているのを見て、何も代償がない方がおかしい。それこそ納得できなくなってしまう。
「シェリアも少し背が伸びたんじゃない?」
「えへへ!!わかる?」
それを聞いたウェンディが俺と同様なリアクションをしていることに気が付いた。そりゃそうだよね、俺たちはいまだに身長も伸びていないのに、二人は確実に伸びているとなったら、悲しくてしょうがない。
「しかし、難しい依頼だと思ってたのに、こんなにメンツが揃ったら楽勝そうだな」
「そうだね。すぐフィオーレにも帰れそう」
仲良さげに話しているレオンとシェリア。その二人のやり取りの最中、俺の視界はある一点に注がれていた。
(あれ・・・なんかレオンらしくないような・・・)
いつからなのかはわからないがレオンの手に置かれているのはシェリアの手。彼はそれを振り払うこともしなければ、シェリアはその手に指を絡ませ体を寄せている。
今までの彼らではなかったような行動に違和感が拭えない。しかし、誰もそれに触れないため、俺も尋ねることはせず、ただ静かに船が止まるのを待つことにした。
後書き
いかがだったでしょうか。
レオンの急激な成長は本当はアルバレス編の前に・・・何ならシリルと一緒に起きる予定でしたがワンテンポ遅れてこのタイミングです。しかも一人だけと言うシリルにとっての悲劇。
次は現状調査になるかな?また次回もよろしくお願いします。
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