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オーバーロード ~もう一人の超越者~

作者:ALISA
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第2話 模擬戦闘(後編)

 
前書き
模擬戦闘回になります。 

 
 ナザリック地下大墳墓の第六階層には屋外と勘違いするレベルの広大なジャングルが広がっている。
 中央にはローマのコロッセオを模した円形闘技場が存在する。
 闘技場の中央に向かい合うように緑とステンドグラスの意匠をした黄金の怪物、ナバナと漆黒のローブを纏った骸骨の魔道士、アインズが対峙していた。

 YGGDRASILLとよく似た世界に転移して一週間が経過した。
 カルネ村の一件で、YGGDRASILLでのスキルや魔法は問題なく使える事は確認している。
 アインズ・ウール・ゴウンの名前を聞いたYGGDRASILLプレイヤーを探すためにモモンガは名前を変えたが、見つかったYGGDRASILLプレイヤーがナバナのように友好的では無い場合やナザリックに対して敵対意思がある場合は、撃滅する必要がある。
 アインズにとっては、PvPの予行練習も兼ねた冒険者モモンの模擬訓練としてこの場に立っていた。
 一方ナバナは夢の中で受け取った戦極ドライバーの性能テストでここに立っている。

 闘技場の客席にはアルベド、コキュートス、アウラ、マーレの姿があった。
「......ナーベラル、なぜアルベド達がいるのだ?」
「はい。アインズ様があの者と何かをする際には必ず連絡するようにとアルベド様から伝えられておりましたので」
「......そういうことか」
 アインズは右手で顔を抑えながら、軽い溜息を吐いた。
「(NPCのナバナさんに対する心象改善も早急に取り掛かる必要ありそうだな。ナバナさんいい人だからセバスとかコキュートスなら理解してくれそうなんだが......)」
「如何なされましたか?」
「なんでもない。ナーベラルはエントマを連れて客席で待機していろ」
「ですが、それでは万が一の場合に御身の盾になる事ができません」
「待機していろ。私の口から二度同じ命令を出させるな」
 不服そうにしながら、ナーベラルは頭を下げて引き下がった。

「客席はアインズさんが呼んだのかな」
「私が連絡しておきました。アナタがアインズ様と何がする時は今後も同様の事を致します」
「マジか......じゃあ今度からこっそりやるよ」
「精々無駄な努力を頑張って下さい」
 そう言うと、エントマはゆっくりと客席に向かっていく。
「意外だな。エントマはここに残るのかと思ったが」
「アインズ様がアナタに負けるなど、万に一つもあり得ません。無駄に足掻いて派手に散って頂ければ幸いです」
 こちらに近付いていたナーベラルにも憎悪の宿った目で睨みつけられ、エントマと共に客席へと向かっていった。
「あんなに毒舌強かったのか......」
 NPCが毒舌を吐く様は、ナバナにとってとても新鮮だった。
 ただ設定通りに動くだけのプログラムだったモノが自らの意思を持って言葉を話している。
 それはもうNPCとは呼ばない。
 一つの命、一つの魂。
 ナバナの中でエントマ達への考え方が変わっていた。


「御多忙の中、ありがとうございます。モモ......アインズさん」
「言いにくい様でしたら、ナバナさんは今までと同じ呼び方でも構いませんよ?」
「名を改めた相手を以前の名前で呼ぶのは失礼でしょう?今後は気を付けます」
「......そういえばナバナさんと手合わせするのはこれが初めてでしたね」
「そうですね。でもあまり期待しないで下さいね。僕は戦闘支援職のダンサーですから」
「そんな事言えば私もそうですよ。しがない魔法使いですからね」
「試合開始の合図はどの様にしますか?」
「では決闘(デュエル)ロールで行いましょう。条件は先にHPが3分の1になったプレイヤーの負け、というのはどうでしょうか?」

 決闘(デュエル)ロールとは、YGGDRASILLのPvPでよく行われる試合形式の一つだ。
 専用の羊皮紙に条件を決め、お互いのプレイヤーが承諾すると決闘空間が展開され、開始までのカウントダウンが開始される。
 カウントダウン中はお互いにダメージを与える魔法は使えず、武器の装備や身体強化等の戦闘補助魔法による強化で戦闘開始を待つ、というモノである。
 決闘空間は、例外なく決闘(デュエル)を行う現在地点を中心に半径20m圏内を投影された空間となる。
 その為、決闘空間内で破壊されたモノも決闘終了と同時に元の状態に戻る。
 決闘空間内は終了条件達成以外では如何なる手段でも脱出は出来ず、空間そのものに作用する魔法やスキルも無効となる。
 他のプレイヤーやNPCは展開された決闘空間に巻き込まれる事はなく、外部からの音声も遮断されるため、如何なる妨害行為も行えない。
 ただし、決闘空間内の状況は他のプレイヤーやNPCでも観ることはできる。


「承りました。では始めましょう」
 二人を起点に半径20mの決闘空間が展開される。
「それじゃあ遠慮なく」
 ナバナは刀のようなパーツの付いたバックル状のアイテム、戦極ドライバーを装着した。
 装着と同時に右手で持っていたオレンジロックシードを解錠する。
《オレンジ!》
 謎の男性のアナウンスが空間に響き渡り、ナバナの頭上に光の粒子が集まり、オレンジの形をした何かが出現した。
「......それは?」
 モモンガはナバナが使用した未知のアイテムに驚愕していた。
《ロックオン!》
 ナバナがロックシードを戦極ドライバーに装填して施錠した瞬間、また謎の男性のアナウンスが聞こえた後、ホラ貝調のビート音が決闘空間内に響き渡っていた
 ナバナは戦極ドライバーの刀の様なパーツーーーカッティングブレードを操作して、ロックシードの果実の模様の部分を文字通り切った。
「......変身!」
《ソイヤ!オレンジアームズ!花道、オンステージ!》
 音声の後、ナバナの頭上にあったオレンジの様な何かがナバナの頭部を覆い尽くし、その間に全身を紺色のライドウェアが覆っていく。
 そして、頭部のオレンジが四方に展開し、鎧のような形状に変化したのだった。
 最後に、果汁のようなエフェクトの衝撃波が発生し、変身が完了した。

 情報量が多過ぎてモモンガは一瞬何が起こったのか理解出来ていなかった。
 ナバナは今、まさにアーマードライダー鎧武に変身したのだった。

 ナバナは左手に握られていたオレンジの断面のような形状の片手剣、大橙丸と左腰のホルスターに装填されていた刀、無双セイバーを右手で抜刀する。
 右腰のホルスターには装着し、解錠したロックシードが他に3種類装着されている。
「(防具を纏う奇妙なアイテム......でも【インベス】の特性は確かーーー)」
「派手な演出ですね」
「自分でも驚いてますよ。でもこれで楽しくやれそうだ」
 ナバナの発言からモモンガも瞬時に鎧と武器を精製した。
「【上位魔道具精製(グレータークリエイトマジックアイテム)」
 漆黒の溝付き鎧と巨大な肉厚の大剣、モモンソード(渾身の命名)二振りを精製したモモンガもモモンソードを両手に持って剣道の二刀流のような構えを取った。
 この構えだと攻撃に対処しやすいのだと現役警察官だった【たっち・みー】は話していた。
 勿論、ゲーム時代ではただの話の小ネタとして盛り上がった程度で、システムに頼った戦闘に構えが必要になる事はなかったが、現在の状況では役に立つかもしれないと思った為、構えたまでの事だった。
 だが、構えるポーズだけでも十分ナバナに牽制できていることにアインズは気付いていなかった。
「(きっと......【たっち・みー】さんがこの場でナバナさんと対峙していたら興奮していたのかもな)」
 【たっち・みー】は無類の特撮好きだった。ナバナとも趣味が合うだろうし、なによりあのナバナの変身バンクは【たっち・みー】の琴線に触れるのだろうと思いを馳せた。

 一方でナバナはアインズの構えを見て感嘆していた。
 以前アインズと話した際、魔法使いだから剣を用いた戦闘なんてほとんど出来ないと伺っていた。
 しかし、対峙してみれば剣の構え方一つを見ても随分様になっているように見える。
「(どう見ても俺の武器だとあの大剣と張り合える気がしないな......)」

 二人の思惑が交錯する中、決闘開始のブザーが鳴り響いた。

 先に動いたのはナバナだった。
 数メートル離れた距離を一気に詰めて、無双セイバーを横薙ぎに振るう。
「(っ!......予想より動きが早い!)」
 アインズは右手の大剣を使って防ぐが、剣先の衝突でナバナの無双セイバーは刀身が折れも欠けもせず、むしろモモンソードの方が欠けて僅かに溝が出来たのか、そのまま溝を刀身が滑り、ナバナは右側の外側から跳んで大橙丸を使ってアインズの頭部に刀身を叩き付けようとする。
 だが、身体の重心を低くして身体を半回転させて左手のモモンソードをナバナに向けて振るう。
 寸前で、ナバナは大橙丸をモモンソードに叩き付けながら空中で一回転し、斬撃を躱した。

「(筋力は伯仲してるな......)」
 ナバナの予想は正確には違う。
 アインズの膨大なMPをステータス補正に割いている為、筋力が伯仲しているだけである。
 ゲーム時代、魔法の発動はコンソールをタッチするだけであり、自身のHPやMPといった値はゲージ化されて視界の左端に表示された。
 だが、現在は視界の端にそれらの表示は存在しない。
 魔法を使用する為のコンソールも出ない。
 それらがすべて、自分の感覚的に分かるようになっている。
 それは相手のHPゲージ等も見れなくなっている事から特殊なスキルや魔法で把握する以外は分からない。

「(防ぎ切れないほどの速度と連続攻撃ならどうかな)」
 立ち上がったナバナは再度距離を詰めて、斬撃を放つ。
 ナバナの攻撃は音速を超え、防ぎ辛い角度や位置からの切り込みや切り返しが多く、弾いたり受け流す事でアインズには精一杯であり、余計な事を考えられる余裕は与えない。
「(システムの恩恵無しで反応しにくい角度から攻撃しているが......効果は薄いか)」
「(質量的にはこっちが上なのに切り結んでも刃毀れすらしないなんて......これ以上速度か威力が上がると対処できないかも)」

 瞬時に判断したナバナは後方に飛んで距離を取りつつ、大橙丸を逆手に持ち変えて無双セイバーの柄部分と連結させ、無双セイバーナギナタモードに変形させようとする。
 ナギナタモードは全長と通常の二倍になる為、攻撃時のリーチが変わり、取り回しなどの扱いが難しくなる一方で、総重量も二倍になる為、一撃の威力は高くなる。

「(させるか!)」
 たかが模擬戦ではあったが、アインズは意外と熱中していた。
 故に、距離を詰めるという行動を取った。
 ナバナは無双セイバーにエネルギー弾を込めて数発発射する。
 アインズはエネルギー弾のダメージを気にせずに大剣の届くまで間合いを詰め、左手の大剣を上段から振るう。
「(ここで突撃して来てからの上段兜割!?)」
「ウォオオオオ!」
 アインズの雄叫びに似た声と共に大剣が振り下ろされた。
「南無三!!」
 ナバナは咄嗟に【戦極ドライバー】のカッティング・ブレードを三回操作した。

《ソイヤ!オレンジスパーキング!》

 展開していた鎧が頭部に再度戻り、頭を守るヘルメットのように変形させて上部からの一撃を防ぐ。
 これにはアインズも驚いたが、体重と重力による位置エネルギーと魔力を筋力に変換したステータスの恩恵による渾身の一撃で鎧もろとも砕こうとしていた。
 凄まじい衝撃が走り、地面に亀裂が走った。
 だが、しかし......鎧そのものは無傷だった。
 アインズは反対の手でもう一撃叩き込もうとすると、ナバナの頭を防御している鎧が回転し、アインズの大剣を弾いて、そのまま頭突きを与えて吹き飛ばした。
 凄まじい衝撃がアインズの胴体に入り、地面が直線状に裂ける。
 吹き飛ばされ、壁に叩き付けられたアインズの周辺に土煙が巻き起こる。
「(なんだ!?この痛みは......まさか物理ダメージ無効化スキルが無効化されているのか!?)」
 アインズは感覚を研ぎ澄ませて自身のHPを確認した。
 全体HPの4割が消失している。
 一撃でこの威力は十分致命傷と言えるレベルの攻撃だ。
 アインズは嫌な汗が流れている幻覚を見た。

 ナバナは頭上で回転していたオレンジを鎧状に再展開させ、無双セイバーの柄と大橙丸の柄を連結させてナギナタモードにし、再度アインズとの距離を詰める。
 アインズは体勢を整えて、すぐに攻撃を再開する。
 ナバナの手には腰に装着されていた展開状態のオレンジロックシードが握られていた。
《ロックオン!》
 オレンジロックシードを無双セイバーに存在するドライブランチに装填し、引き金を引いた。
《1、10、100、1000、10000ーーーオレンジチャージ!》
 オレンジロックシードからのエネルギーが無双セイバーナギナタモードの両刃に流れ、溢れ出たエネルギーが奔流となって橙色の巨大なナギナタを生成した。

「コレで決める!」
 両手を使ってナギナタを振り回し、エネルギーの刃をアインズに叩き付ける。
 その巨大なナギナタの一撃はアインズの片腕で防ぐには威力が高すぎた。
 筋力を魔力で向上させているのに全身に走る衝撃が凄まじく、気を抜けば大剣を吹き飛ばされそうになる。
「(YGGDRASILL内のイベントでも確実に上位に名を残せる程のパワーとスピード......戦闘支援が持つ火力じゃない)」
 模擬戦とはいえ、その事実を再認識することができたアインズは凄まじい衝撃に耐えながらナバナの猛攻を凌ぎ続ける。
 エネルギー波のナギナタを弾く毎に大剣が鈍い金属音を大きく響かせている。
 ナバナの横薙ぎ振り払いがアインズの大剣に触れ、右手の大剣が断末魔のような鈍い音を立てて砕け散った。
 剣は刃に対して縦の力には強いが、横の力には弱いーーーつまり剣に横から何度も殴打を繰り返せば、壊れるのは当然だった。

 だが、そのタイミングでロックシードにも限界が訪れた。
 横薙ぎの一閃がアインズの胴体に届く瞬間、無双セイバーに取り付けていたロックシードが爆発飛散し、巨大なナギナタを形成していたエネルギーが一気に霧散した。

「何っ!?」
 オレンジの展開した鎧と大橙丸が消失し、勢いよく飛んでいたナバナは地面に転がる。
 右腰のホルスターからロックシードを取り外し、すぐに解錠する。
《イチゴ!》
 転がった状態から立ち上がったナバナは、すぐに別のロックシードを戦極ドライバーに装着してカッティングブレードを操作した。
 すると、空中からイチゴが出現した。
《イチゴアームズ!シュシュっと!スパーク!》
 ナバナは空中に出現したイチゴを蹴ってアインズに叩き付け、跳ね返ってきたイチゴが頭に覆い被さり、四方に展開してイチゴアームズへと変身が完了する。

 変身完了したナバナとアインズは対峙した。
 アインズは砕け散ったモモンソードを捨て、新しく槍の武器、モモンランス(渾身の命名)を精製する。
「(鎧が変わった!?という事は武器も変わったのか!?)」

「第二ラウンド......出来ますよね?」
「ナバナさんこそ......魔法で作った剣を破壊して満足ですか?」
 売り言葉に買い言葉。
 二人の闘争心と戦闘意欲が最高に高まっていた状態で二人は再度向かい合っていた。


 模擬戦とはいえ、ナバナはロックシードを使い潰すつもりだった。
 ナバナが咄嗟に取り出したのはイチゴロックシード。これは別にパワーに優れたアームズでは無い。
 専用武器はイチゴの模様のある苦無型の武器、イチゴクナイを無尽蔵に出せるだけである。
 イチゴクナイ自体、無双セイバーよりも小型の為、一撃の威力も無双セイバーや大橙丸よりも低い。
「確かこの武器は......」
 イチゴクナイの輪っかに人差し指を通して回しながら、使い方を思い出した。
「こうだったかな」
 イチゴクナイをアインズ目掛けて投擲する。
 軌道の読みやすいイチゴクナイの投擲をアインズはモモンランスで弾き飛ばした。
 その瞬間、イチゴクナイは小型のクラッカーのように爆発する。
「成程、そういう事か」
「また厄介な武器をーーー」
 爆発そのものにそこまでの破壊力は無いが、投擲されると爆破する、というのはアインズにとっては鬱陶しいだろう。
 ナバナは無双セイバーを左腰のホルスターに格納し、イチゴクナイを両手に持った。
「シュシュっと、な!」
 イチゴクナイが放物線を描いて縦回転しながらアインズに迫る。
「ソイソイソイ」
 続けてイチゴクナイを3本投擲する。
 計5本のイチゴクナイがそれぞれ別の放物線を描きながらアインズに時間差で襲い掛かる。
「小賢しい!」
 モモンランスを振り回して迫り来るイチゴクナイを弾き飛ばすと、爆発が起こる。
 イチゴクナイが直撃しても、大したダメージにはならない。
 だが、弾き飛ばして起こった爆発でナバナの姿を見失う。
「!」
 背後に立っていたナバナはアインズに蹴りを放つ。
 魔法で精製した全身鎧が蹴りの一撃で鈍い音を立てて変形する。
「ぐっ......」
 アインズの槍の薙ぎ払いを両手に持ったイチゴクナイで受け止め、弾きながら近接格闘を叩き込む。
「小賢しさも戦略ってヤツだ」
 白兵戦に持ち込まれ、モモンガは苦虫を噛み潰す。
 モモンガは魔法使いの為、武器全般の扱いには精通していない。
 先程のように、威力を高めて一撃で倒すようなやり方しか近接戦はできない。
 その点、ナバナは元々が体術等を駆使した白兵戦スタイルの為、威力もリーチも短いイチゴクナイを持って懐に入りながら戦うというのは得意分野である。
「(この武器ーーーナバナさんの戦闘スタイルとの相性が良すぎる!)」
 大した事の無い威力の爆発は目眩しに使える。お互い大したダメージにならない為、至近距離で爆発させるといった芸当も取れる。
 イチゴクナイのリーチの短さによる取り回しの手軽さは刀や槍より体術を織り交ぜた近接戦闘と相性が良い。
「(このままでは不味い!)」
 槍を振り回して、ナバナとの距離を取ろうとするが、それも拳が届く程の距離まで詰められると意味を成さない。
 ならば、どうするか。
 アインズは精製したモモンランスをへし折る。
 ナバナはリーチを捨てて振り回し易さで同じ土俵で戦うつもりなのだろうと判断した。
「(ここまで距離を詰めているのに今更ーーー)」
 しかし、モモンランスはへし折られた瞬間に大爆発を起こし、二人を吹き飛ばした。
 魔力で精製した武器に魔力を限界まで込めた状態で破壊すると、魔力由来の爆発が発生するーーー所謂、魔具爆発である。
 この事象を利用したのだった。

「こんな力業で来るのかよ」
 大爆発の影響でナバナのHPは一気に3割持っていかれる。
 モモンガもHPを半分以上削られた。
 強引に二人の距離を取られた。
「あのままだったら確実に負けていましたからね」
 爆発の煙の中、アインズは再度モモンランスを精製し、魔力を再度込める。
 ナバナは無双セイバーを引き抜き、ドライブランチにイチゴロックシードを装填する。

《ロックオン!》
《1、10、100ーーーイチゴチャージ!》

 煙が晴れた瞬間、二人は遠距離から同時に攻撃を行った。
 アインズは魔力が籠り、黒く光った槍を槍投げの要領でナバナに向かって投げつけた。
 ナバナは無双セイバーに補充されたイチゴロックシードのエネルギーをトリガーを引いて解放した。
 目の前に巨大なイチゴのエフェクトが出現して破裂し、無数のイチゴクナイが真っ直ぐに飛んでいく。
 無数のイチゴクナイは魔力を帯びたモモンランスと衝突し、先程以上の大爆発を起こす。
 爆発に巻き込まれ、お互いのHPは全体の1/4レベルまで減少した。

《パイン!》
 土煙の中、その音声が聞こえたアインズは魔力で作った巨大な戦斧、モモンアックス(渾身の命名)を構えて、ナバナへと距離を詰める。
 土煙を割いて、お互いの姿を視認した時、ナバナの頭上にはパイナップルが出現していた。
《パインアームズ!粉砕!デストロイ!》
 その手にはパイナップル型の鎖に繋がれたハンマーが握られていた。
「またか!」
「こういうサプライズは大好きでしょう?」
 ハンマー型の武器、パインアイアンを振り回して、モモンアックスを弾く。
 ハンマーと繋がっている鎖の伸びる距離が広く、また放物線を描きながらもある程度は自由に操作できるのか、アインズとの距離が縮まらない。
 その為、戦斧を活かせずにハンマーの打撃を弾く程度しかできていなかった。
「(このハンマー、これまでの武器の中では一番威力が高いが......ナバナさんの戦闘スタイルとは地味に噛み合ってないな)」
「そろそろフィニッシュ行きますよ」
 ナバナは戦極ドライバーのカッティングブレードを操作して、エネルギーを解放する。
《ソイヤ!パインスカッシュ!》
 パインアイアンが手元に戻り、そのパインアイアンをアインズ目掛けて蹴り飛ばした。
「そんな直線的な攻撃!」
 瞬間、アインズの中で第六感が危機を感知し、モモンアックスを囮に後方へと距離を取った。
 予想通り、と言うべきか。
 パインアイアンは巨大化してモモンアックスを飲み込んだ。
 そのまま、走ってきたナバナによる地面との水平方向の強烈な飛び蹴り、無頼キックが巨大化したパインに直撃し、輪切りのパイナップルが弾けるようなエフェクトの大爆発がフィールドを包んだ。
 背後で爆発が起こり、勝ちを確信したナバナの目の前にアインズが居た事で、ナバナは瞬間的に何が起こったのかを察知し、負けを認めた。



ーーーNow Loading....ーーー


 決闘空間が解除され、二人は致命傷のままナザリック地下大墳墓6Fの闘技場内に戻った。
 戻った瞬間に、アインズはNPC達に取り囲まれ、安否を確認された。
「アインズ様!お怪我は大丈夫ですか!」
「至高の御身が致命傷など......このような事は金輪際お辞め下さい!」
 アルベドとデミウルゴスは怒りの形相でアインズに詰め寄っていた。
「やっぱりアインズ様、カッコ良かったです!」
「当然じゃない!私たちの創造主を束ねる方なんだもの」
 アウラとマーレはアインズの無事と健闘に感動しているようだった。
「流石に白兵戦になった時は肝を冷やしましたわ」
「不利な状況でも打開策を講じる......学ばせてもらいました」
 シャルティアとコキュートスも心配しているようだった。
「それで、アインズ様!あの不届き者は如何致しましょう!?御命令とあらば、即座に首を刎ねて差し上げます!」
 アルベドは怒りの形相のまま、ナバナの居る方向に顔を向けた。
 ナバナの方はというと、戦極ドライバーに装着した3つのロックシードすべてが過負荷で破損した事についてブツブツと独り言を呟いていた。
「いい加減にしろ、アルベド。ナバナは私の盟友であり、客人だ。ギルドメンバー以上に丁重に扱え。」
 ドス黒いオーラを纏ったアインズの怒声がフィールドに木霊した。
「......すまない」
 怒りが沈静化されたのか、オーラが消えていた。
「(......これで、NPC達の心象に変化があるといいんだけど......)」
 アインズは頭を抱えながら、軽く溜息を吐いた。
 
 

 
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