歪んだ世界の中で
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十七話 冬の入り口その十四
その八条鉄道に就職することがだ。彼の夢なのだ。
それ故にだ。彼は今こう真人に言うのだった。
「そこでね。働きたいからね」
「いいですね。じゃあ車掌さんになりたいのですか?」
「無理だよ、僕には。けれどね」
それでもだとだ。希望は笑って真人に話す。
「駅にはいたいね」
「いいですね。それも」
「駅の雰囲気が好きだから」
だからだというのだ。
「まあ夢だけれどね」
「夢ならです」
「夢なら?」
「努力すれば適いますよ」
優しい声でだ。真人は希望にこう告げた。
「そうされれば」
「そうだね。努力すればね」
「適いますから」
「それに例え適わなくとも」
それでもだとだ。希望も笑顔で真人に返す。
「その為の努力は絶対にね」
「はい、無駄にはなりません」
「無駄な努力はないんだね」
「そういうことです。ですから」
「努力するよ。そのこともね」
希望は笑顔で真人に話した。
「それじゃあ駅員さんになることも」
「頑張って下さいね」
「入社試験に合格しないとね。まずはね」
「そしてその為には」
「勉強するよ」
この基本的なことこそが希望の夢に必要な努力だった。そのことを話してからだ。
希望はクリスマスのことも真人と二人で話したのだった。だがここでふと彼にこんなことを言った。その言ったこととは。
「けれど。神戸じゃなくて新大阪なんだ」
「クリスマスに写真を撮る場所ですか」
「うん、そこなんだね」
「神戸も新幹線が停まりますけれどね」
「そうそう。何でそれで新大阪なのかな」
「アングルがいい場所がありまして」
それでだとだ。真人は希望に笑顔で話した。
「それでなんです」
「それで新大阪になったんだ」
「はい、そうです」
「そうだったんだ」
「神戸には残念ながらないんですよね。新大阪程いい撮影場所が」
真人は鉄道マニアとして残念なものを感じながら希望に話す。
「けれど新大阪にはありまして」
「成程ね。だから新大阪なんだ」
「京都も面白いでしょうが」
京都の話はだ。真人は自分から話した。
「今度頃合いを見て行きたいですね」
「京都ね。あそこもいいんだ」
「鉄道はロマンですが新幹線はその中でも特にです」
ロマンだとだ。真人は希望に言い切る。
「最高のロマンですよ」
「僕も鉄道自体に興味持とうかな」
「楽しいですよ。そうなれば駅員さんになった時も」
「余計に楽しいね」
「そうです。だから是非共」
「鉄道のことも勉強していくよ」
希望は満面の笑みで真人に話した。二人の絆もより深まってきていた。それは決して馴れ合いではなかった。より深い真の絆がそこにあった。
第十七話 完
2012・5・14
ページ上へ戻る