犬がキューピット
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第一章
犬がキューピット
場地佳奈の家にはシロという犬がいる、佳奈が小学校に入ったばかりの四月のまだ寒い日の下校の時に拾った白い柴犬の様な外見と大きさの犬だ。
拾われた時は生まれて数日位で目も開いていなかった、佳奈が拾って家に帰ると丁度犬が欲しかった両親はすぐに病院に連れて行き。
病気がないことを確認して性別も調べてもらって雄だったので名前をシロとした、そうしてであった。
それから一緒に暮らしだした、佳奈は中学に入る頃には黒髪をロングにしたおっとりとした顔立ちの女の子になっていた、そして。
近所に住む幼馴染みである疋田淳史黒髪をショートにしていて優し気な顔立ちで背は一七一位ですらりとした彼に好感を持つ様になった、そのことを信頼出来る友人にこっそりと打ち明けた。
「そうなんだけれど」
「じゃあ告白すればいいでしょ」
友人は佳奈にすぐにこう返した。
「好きなら」
「けれどね」
佳奈は友人にやや項垂れて答えた。
「淳史君って凄いでしょ」
「成績良くてスポーツも出来て?」
「性格もいいから」
だからだというのだ。
「私どれも普通だから」
「釣り合わないっていうのね」
「うん、だからね」
「自分の能力はいいでしょ」
友人はこう佳奈に告げた。
「大事なのは気持ちよ、それにあんた性格はいいから」
「だからなの」
「いいでしょ」
告白してもというのだ。
「自分が釣り合わないと思わないで」
「それでなの」
「勇気を出してね」
「けれど」
それは無理だと言うのだった、佳奈は淳史への想いをどうしても言えずそのうえで悩んでいた。そして。
このことを家でシロに言うとだ、丁度佳奈の部屋にいた彼は。
「ワン」
「どうしたの、シロ」
「ワンワン」
佳奈の机の方を見て鳴いていた、それを見て佳奈はシロに問うた。
「釣り合わないのなら努力して勉強出来る様になって」
「ワン」
シロは今度は佳奈に顔を向けて鳴いて応えた。
「ワンワン」
「釣り合う様になればいいのね」
「ワンッ」
「そうね、努力すればいいわね」
佳奈はそれならと頷いた、そしてだった。
机に向かった、そのうえでこの時からこれまでの倍以上勉強に励んだ。それだけでなく朝早くにだった。
シロは佳奈のベッドの傍に来て彼女の頬を舐めて起こしてだった。
「ワンワン」
「運動もなのね」
「ワンッ」
それを催促する様になった、そしてだった。
佳奈は朝早く起きてシロの散歩と共にジョギングをする様になりその後でこれだけでは足りないと思い。
サーキットトレーニングもする様になった、すると。
勉強だけでなくスポーツもよくなった、成績は淳史と同じ位になり所属しているバレー部でレギュラーになった。
すると友人はこう彼女に言った。
「釣り合わないとか言ってたけれど」
「今はなのね」
「そうなったから」
それでというのだ。
「言えば?」
「そうすればいいの」
「もうね」
こう言うのだった。
「そうすればね」
「けれど何かね」
「全く、まだ勇気が出ないの」
「これがね」
「私から言うのはこれだけよ」
やれやれという顔になってだ、友人は佳奈に言った。
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