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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘と提督とスイーツと・76

   ~伊58:ゴーヤチャンプルー?~

「てーとく、これはなんでち?」

「ん?見てわからんか?」

「見りゃわかるでち。ゴーヤチャンプルーでしょ?」

 そう、今回のチケット当選者はゴーヤこと伊58。ウチは潜水艦しか出来ない仕事が表も裏も沢山あるので同じ艦娘を複数運用する事で対応している。中でも俺の目の前にいるゴーヤはウチの鎮守府に初めて着任した潜水艦娘であり、潜水艦達の纏め役を買って出てくれている。そんな彼女の前には今、温かそうな湯気を上げるゴーヤチャンプルーが鎮座している。勿論、ご飯と味噌汁、それに漬け物と小鉢も付いてさながらゴーヤチャンプルー定食みたいな事になってるが。まぁ、時刻は正午。昼飯には丁度いい時間でもあるんだがな。

「解ってるなら聞くなよでち公」

「でち公って呼ぶなでち。確かゴーヤはフルーツたっぷりのタルトを頼んだはずでちが?」

 このゴーヤは潜水艦の中では最先任なだけに、この筋肉モリモリマッチョマンの強面親父の事をよく知っている。今みたいに半笑いでそれを堪えるために真面目な顔をしようとしている時はほぼ間違いなく、確信犯でふざけている時なのだ。

「なぁゴーヤ」

「なんでちか?」

「お前よく言ってたよな?『ゴーヤじゃないよ?苦くないよ!』ってな」

「それがどうしたでち?」

「ああやって言うって事は、少なからずお前は野菜のゴーヤを意識してたって事だ」

「ハッ!?」

「実はお前はゴーヤ弄りを言葉では拒否していたが、実は望んでいたんだ。お前は実は、無意識にゴーヤを求めていたんだよ!」

「な、なんだってー!?……って、んなわけねぇでち!」

 流石に俺との付き合いの長いでち公、ノリツッコミのキレが鋭い。

「なんだ、じゃあ食べないのか?」

「……いただくでち」

 ぶすっと不機嫌な顔のまま、でち公はいただきますと手を合わせた。




「大体、てーとくはずるいんでち。ごーや達潜水艦が人一倍食べ物を粗末にしたがらないの知ってるくせに」

「すまんすまん。つい、な」

 ぶぅぶぅ文句を垂れながらも、黙々と食べ進めていくでち公。潜水艦娘達の食べ物に対するスタンスは、前世というか、彼女達が宿している艦の記憶によるものだ。

 陸軍に比べて海軍は、食事に気を遣う。これはどこの国でもほぼ言える事で、海上生活での数少ない楽しみとストレス軽減の場が食事だからだ。中でも狭苦しい潜水艦の中に押し込められる潜水艦の乗組員は大変だ。生鮮食品なんぞほとんど積めず、せいぜい保存の利くじゃがいもや玉ねぎを積めば、残りは缶詰め等の保存食ばかり……なんてのは普通だったらしい。そんな乗組員の記憶が染み付いてるからか、戦争末期の記憶が残ってる連中の次に、食事に煩いのが潜水艦だ。好き嫌いが激しいとかグルメだとかそういう話じゃなく、出された物を残したくないと多く出されても無理して食べようとする奴が続出した。今は作る側が量を調節する事でそういう騒ぎは起きなくなったけどな。

「しかも、普通に美味しいから余計に腹立たしいでち」

「お褒めにあずかり光栄だな」

「皮肉で言ってんでち!全くもう……」

 勿論、からかうために作ったとはいえ料理に手抜きはしていない。メインのゴーヤチャンプルーは肉と豆腐を大きめにして食べ応えを出し、味噌汁も沖縄風だ。沖縄の味噌汁って濃い目のかつお出汁に玉ねぎや人参、白菜やチンゲン菜なんかの葉物野菜、それにスパムを入れて煮込んで味噌で味付けし、仕上げに卵を落として好みの固さになるまで茹でてから食べるっていうなんともボリュームのある物なんだ。実際沖縄の人ってどんぶり一杯の味噌汁をおかずに飯を食うらしいからな。今回は普通の茶碗に盛ってあるけどな。小鉢はにんじんしりしり。千切りにしたにんじんとツナを炒め合わせて、味付けして卵で綴じた沖縄料理だ。後は漬物に白飯を添えて、俺流の沖縄風定食の出来上がりって訳さ。

「ふぅ……お腹一杯でち」

「お粗末様。デザートもあるが、食べるか?」

「うぅ~、今はお腹がはち切れそうでち。後にしま~す……」

「おいコラ、でち公!……寝ちまいやがった」

 満足げに腹をさすりながら、執務室のソファで横になった途端にすぅすぅと寝息を立て始める。ま、日頃から無理させてるからな。たまにはゆっくり寝かせといてやるか。




 




「んん~……?はっ、ごーや寝てたんでちか?」

「おはよう寝坊助、飯食ってそのまま寝といて何言ってやがる」

 牛になるぞ牛に。まぁ、牛みたいなおっぱいに成長してくれるのは一向に構わんがな?(ゲス笑)

 時刻は1500、3時のおやつ時だ。狙い澄ました様な時間に起きやがる。

「ほらよ」

 タイミングよく起きちまったからな、用意しといたもんを食わせない訳にはいかんだろう。冷蔵庫から切り分けておいた『それ』を取り出し、でち公の前に置いた。

「てーとく、これは……」

「おいおい、寝惚けてんのか?お前のリクエストしたフルーツタルト……だろ?」

 それと残ったフルーツでフルーツティーも淹れたんでな、それもついでに出してやる。でち公の目は既に目の前で輝くフルーツタルトに釘付けだ。

「ふおおおおお……こっ、これっ!食べていいんでちか!?」

 これが犬ならご馳走を目の前に涎ダラダラで尻尾ちぎれそうな位振り回してる絵になるんだろうな。

「良いぞ。そもそも、食っちゃ悪いんなら目の前に置かんわ」

「じゃあ、いっただっきまーす♪」

 でち公め、フォークで上品に食べるのかと思ったらむんずと掴んでがぶりとかぶりつきやがった。

「んまあああああああああいっ!」

「おいおい、手掴みかよ」

「こういうのは勢いよくガッといって、ガブッといくのが美味しいんでち!てーとく、おかわり!」

 2口目で皿に乗せていた1ピースを平らげ、ずいっと皿を突き出してくるでち公。昼飯には食べ過ぎて苦しいと言ってたのは何処へ行ったのか。まぁ、基本的に潜水艦の連中は全体的に細身だからな。もう少し肉を付ける位で丁度いい。それに……

「ほらよ」

「ありがとでち!」

 こういう無邪気な笑顔が見られるなら、この程度の手間は悪くない。

 
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