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小説家になろう

作者:野良
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IS-H-02


「じゃあ行ってくるよ、姉さん」

「ああ、楽しんでくると良い」


 時間の流れは速いもので、俺がこの様な状態になってすでに数年経っている。

 この世界ではISは存在せず、それを使って起きていたくだらない戦争も無かった。最初の頃は戸惑う事も多かったが今ではこの状況に慣れ、今までに考えた事すらなかったこの幸せをひたすらに満喫していた。

 俺の親はどうやらいないみたいだが、姉さんが俺を支えてくれている。姉さんにはどれだけ感謝してもし足りないぐらいだ。普通に学校へ行き、家族や友達とも笑いあえる。姉がいなかったらそんな事も出来なかったかもしれない。

――俺に有ったのはあの時の――

 そんな考えをし始めた頭を振り、嫌な思考を振り払う。んー、と伸びをした後空を見上げ、これからの事を考え始める。


「さて、今日はどこへ行こうか」


 俺は、今日はどのような事があるのかを楽しみに街へと繰り出した。



 ◇



「おや? 箒じゃないか?」


 俺の前方で竹刀袋を持ち立派なポニーテールを左右に揺らしながら歩いているのは、篠ノ(しののの) (ほうき)以前いじめにあっていた所を助け、話したりしている間にそれなりに仲良くなった人物だ。


「おーい、箒ー」


 俺の呼び声に気付いたのか箒はキョロキョロと辺りを探している。


「どうしたんだ?」

「やはり一夏か、いや、これから道場の方へ向かうのでな。それよりもそっちこそどうしたんだ? 何か用事でも有るのか?」

「いや、これといって無いよ」

「そうか、ならこれから一緒に道場の方へ行かないか? 久しぶりに剣道をやって共に汗を流そうじゃないか」

「いや、久しぶりって…。3日前くらいには行ったじゃないか」


 俺は三日前にも、この箒という名の少女に徹底的にしごかれた。休憩をほとんど取らさずに素振りやら試合やらをさせ続けるのはどうよ?


「3日も来なければ腕は落ちるのだ! 大体お前はいつもいつも遊んでばかりで…」

「分かった、分かったよ」


 箒はいつも説教を始めると長くなるのだ。俺は降参とばかりに両手を挙げた。


「ムッ、分かれば良いのだ」

「だけど俺、道具は何も持ってないぞ?」

「ふむ…。そうだな…」


 箒はあごに手を当てると考え込んだ。俺は箒が思考に耽っている間にそろ~りと、ばれないように逃げ出そうとする。が、


「何をしている?」


 ギクッ! とばかりに肩を震わせ、そっと後ろを振り返ると箒がとても良い笑顔でこちらを見ていた。


「え~っと、これは、その…」


 まずい、とっさの言い分けが思いつかない。


「また、逃げ出すつもりだったのかお前は!!」


 箒は俺の首根っこをつかみずるずると、俺を引きずるように歩いていく。


「いや、もう逃げないから! 離して!」

「黙れ、今度という今度は許さん!! そのたるんだ根性一から叩きなおしてくれるわ!」

「だから、俺、今道具、何も持ってな…」

「道具なら道場に置いてある物を使えばいい!」

「ちょっと、離して、息が、苦しい。それに、置いてあるのは、俺には、合わないだろ」

「うるさい! そんなもの根性でどうにかしろ!! この手を離したらまた逃げるかもしれんから道場までこのままだ! それに、道具が合わないというのなら私の物を貸してやる」

「ええ!? それはそれでどうかと…」


 箒よ、お前は自分の使っている道具を男に使わせても平気だというのか…。今からこんな状態で大丈夫なのかと、俺はお前の将来が心配になってくるよ…。

 俺が内心、箒の将来と息が苦しくなって目がかすんできた事に思いをはせていると、道場に着いたらしく、箒も手を離してくれて息苦しさからも解放された。


「ごほっ、ごほっ…。おい箒、お前は人が息をせんと死ぬという事を知らんのか!」

「ふんっ、手を離したら逃げるかもしれんお前が悪い。ほら、道具は貸してやるからさっさと準備して来い」

「まったく…、こんな事ばかり続けるお前の将来が心配になるよ。いつか、気になる人でも出来た時にこんな調子でお前はどうするのかと…」

「安心しろ、こんな事をするのはお前に対してだけだ」


 と、言い残して箒は着替えに向かった。何に対して安心しろと言っているのかが分からんが、なんで俺に対してだけだよ! と、是非とも突っ込みを入れてやりたい。


「まあ良いか。今日はとくに用事も無かったし」


 俺も剣道の準備を行うために渡された道具を持って着替えに向かった。



 ◇



「つ、つかれた~」


 あれから数時間、みっちりと剣道の練習を付き合わされた俺は疲労困憊の為両手足を広げて道場に寝転がっていた。


「ふんっ、鍛錬が足りないからそうなるんだ。これに懲りたら毎日欠かさず鍛錬をすることだな」


 それは確かに、あのときと比べると子供になっているために体力や筋力は比べ物にならないほどに落ち込んだが、これでも毎日あちこちを動き回ったりしているおかげで子供にしてはそれなりに体力は有る方なんだぞ? なのになぜ、俺が疲労困憊の状態なのにお前はその程度しか疲れが見えんのだ?


「そ、それで、だな…。一夏、私がお前を鍛えてやるからこれから毎日…」

「それは断固拒否する」


 箒が俺を剣道という名を借りた地獄に叩き落とそうとする事にはきっぱりと拒否の言葉を伝える。

 てか、今さらこんなきつい事を毎日なんて続けられんわ!!

 俺が箒の言葉に重ねるように拒否の言葉を告げると、箒は顔を真っ赤にしていかにも怒っていますというような顔に変化した。

 やばい。


「~~、ええい、勝手にしろ! この貧弱者めが!!」


 ひゅんひゅんと、竹刀が俺めがけて飛んでくる。もちろんのこと疲労困憊で動く事を拒絶していた俺がそれをよける事等出来るはずもなく…、

 パシンッ―、と良い音が道場に響いた。


「ッー、ッー」


 俺が痛みでゴロゴロ転がっていると、


「勝手にしろ! 一夏の馬鹿!!」


 と、俺が悶えることになった元凶は捨て台詞を残しこの場を去って行った。

 ゴロゴロ転がる事数分、痛みも引いてきた事なので帰る支度をするために立ち上がり、着替えへと向かった。



 ◇



「はぁ~」


 俺は帰り道で溜息を吐いていた。なぜ箒があれほどの怒りを見せたのかが分からなかったからだ。ほんの少し前まで普通に話をしていたと思うと急に怒り出した。これまでにも何度か有った事なので、箒には怒り癖があるんじゃないかと考えてしまう。

 まあ、そのうち機嫌をなおすだろうと判断を下し家路へと向かう速度を速める。借りた道具を返しに行かないといけないが、それは明日になっても大丈夫だろう。ついでに久しぶりに束さんとも話し合う事にしよう。

 束さんとは、箒の姉の篠ノ(しののの) (たばね)の事である。この束さん、頭の中はどうなっているのかと疑問に思うほどの天才である。こちらの世界では見た事もない技術をポンポンと出してくるのだ。ましてや、その技術力の高さは前の世界においても見た事も無いような技術もたまに出てくるほどに高いのである。ほんとどうなっているのか…。

 この束さんとは仲良くしている間柄だ。前の技術を持っている俺もたまにどのようなものを作るかで話し合ったりもしている。無論、IS等の兵器を除いた物をだ。最初の頃は歯牙にもかけられていなかったが離し掛けている間に興味をもたれ、すっかり意気投合したのだ。


「ふむ、今日はさっさと帰って明日に備えるか。」


 俺は、明日どのような事を話し合うべきかを考えながら家路を急いだ。



 ◇



「一夏、今日は束の所に行くんじゃなかったのか?」

「ああ、もう少ししてから出る予定だよ」

「そうか、なら私は先に出るから戸締りはしっかりして行けよ?」

「分かったよ」


 今日は姉さんも箒の家に行くことになっていたらしい。束さんと何らかの話があるらしいのだ。最初は姉さんと一緒に行くつもりだったが、少し準備に手間取っているので遅れることになった。


「ふむ、これで準備は良いな」


 先日箒から借りた剣道の道具を準備し、忘れ物がない事を確認した後に俺も家を出た。



 ピンポーンと呼び鈴を鳴らしたが返答がない。おかしいな? と思いつつもう一度呼び鈴を鳴らしたが、やはり返答は無かった。

 今日来る事は知らせてあったし、姉さんも先に来ているはずだから誰かいると思っていたのだが、仕方ないから出直すかと考え踵を返した所で返事が返ってきた。


「おや~? いっくんだったのか~。ごめんね~? 少しちーちゃんとの話に夢中になっちゃっててね~。鍵は開けとくから入って私の部屋で休んでて」

「わかりました。でも、姉さんと何の話をしていたんですか?」

「いっくんも興味あるの? う~ん、話しても良いけどそれだと後の楽しみが減っちゃうしな~」


 束さんは何らかの考えを持っているようだ。姉さんもその話に加わっていると考えていいのかな? それなら俺も楽しみは後に取っておこう。


「それなら今度で良いですよ。後の楽しみって言ってる事は何か有るんですよね?」

「そうだね、それは楽しみにしてもらってても良いと思うよ?」

「じゃあそれまで楽しみにしていますよ。それと、家入らせてもらいます」


 おじゃまします、と俺は篠ノ之さんの家入らせてもらった。



 ◇



「やあやあいっくん、まったかね?」

「姉さんは一緒じゃないんですか?」

「酷いよいっくん、久しぶりに会った私よりも先にいつも一緒のちーちゃんの方を気に掛けるなんて」


 束さんはよよよ、とわざとらしく泣き崩れるふりをした。


「そんなわざとらしくしなくてもなんとも思いませんよ?」

「やっぱり酷い!?」

「で? 姉さんはどうしたんですか? 先に来ていたと思うんですが」


 そう聞くと、束さんはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに勢いよく顔を上げた。


「ちーちゃんには今ちょっとした仕事を頼んであるんだよ」

「仕事ですか?」

「そうだよ~」

「一応聞いておきますけど何の仕事ですか?」

「ふっふっふっ、それは秘密なんだな~。ま、もう少ししたら分かると思うからもうちょっと待ってね」

「そうですか。それって最初に行ってた事と関係あります?」

「関係っていうか、そのものって言った方が正しいかな?」

「じゃあ、それまで待たせてもらいますよ。あ、それとこれ昨日箒から借りたものです。」

「ふふふ、ぜひ楽しみにしておきたまえ。いっくんには楽しんでもらえると思うよ。ああ、これは箒ちゃんには私から返しておくよ。」

「頼みます」


 俺は箒から借りた物を渡すと、暇をつぶすためにパソコンを立ち上げ作業に没頭していった。



 あれから、数十分俺と束さんは俺の考えた作品に対してあーだこーだと意見を言い合っていたが、ふいに束さんが顔を上げた。


「そろそろ時間だね~」

「なんの時間ですか?」

「見てればわかるよ~」


 そう言うと束さんはテレビを付け、チャンネルを操作して番組を探していく。


「あったあった、良いタイミングみたいだね」

「さて、いったい何が始まるのか…」


 テレビの画面に映っていたのは多くのミサイルが発射された事、それが外部による何者かの手による事だと説明する人、それと――


――人が機械を身に纏い空を飛び、武器を持ち目標を破壊する。――

――この世界に存在しないはずの以前の世界の兵器に酷似した兵器――


 そんなモノが存在していた。

 俺の思考は一瞬でそれの事で埋め尽くされた。

 なぜこんな物があるのか、なぜこんな物がミサイルを破壊しているのか、なぜなぜ、とそれの事しか考えられなかった。

 その時、束さんの声が聞こえてきた。俺の思考は急速に引き戻され、今持っている疑問を全て束さんにぶつけた。


「あれは何ですか! なんであんな事をしているんですか! 何でそれを貴方が知っていたんですか! 何で―」

「ちょっといっくん落ち着きなよ、何があったのかは知らないけど何でそんなに興奮しているのさ?」

「そんな事はどうでもいいです。あれについて知っている事を全て話してください」

「わかったよ~、あれはね――」



 ◇



 俺は束さんから全てを聞いた。

 それは以前から作られてあった事。

 それはこれ以前にも世界に知られていた事。

 それを作ったのが束さんであった事。

 それは以前は世界に理解されていなかった事。

 それを俺が以前にも知りえたかもしれなかった事。

 それを世界から隠すのはすでに手遅れである事。

 ISという名の兵器と中身という名の歯車が誕生したという事。





 全てを聞き終えた俺は愕然となった。

 これがこの世界に産み落とされ世界に浸透していく。そんな事がある可能性を微塵も考えなかった事に対して後悔の念しかなかった。

 考えてみればありえない話ではなかったのだ。俺の目の前にいる天才はこの世界より何世代も前の情報を持つ俺の技術に拮抗し、時には追い越してもいたではないか。


「ハハッ」


 これからどうするべきか。

 にちじょうはもどらない。

 せかいはあれていく。

 ここもああなるのか。


「そうじゃない」


 そうだ俺は今度は守るべきなのだ、世界を敵に回してでも俺の日常を守るために。

 その為には必要なのだ。兵器が、それを使用する技量が、それらを作り上げる部品が、それらを俺が手に入れるための時間が。


「箒さん」

「何? いっくん」

「お願いがあります――」


 目の前にはあれを作り上げ実用可能な状態にまで持って行った天才がいる。彼女の力を借りれば多少の時間の短縮が可能だと判断した俺は、彼女の力を借りるために動いた。

 この世界に俺としての兵器をくみ上げるために。

 全ては俺の世界(にちじょう)の為に。 
 

 
後書き
思いついた時に描き続けているから中々進まない。

箒や束の話方ってこんな感じでいいのかな? 
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