我が剣は愛する者の為に
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腐敗した街
太史慈が旅に同行する事になった。
彼女の真名は荊州南陽を出発する時に、教えて貰った。
俺達も自分の真名を教え合い、旅を再開させる。
孫堅が天の御使いの評判を上手い事流してくれたおかげで、街に訪れたら街の人などに声をかけられるようになった。
孫堅には手紙を書いてもらうのともう一つ、お願いしていた事がこれだ。
天の御使いの事について良い評判を流してほしい、とお願いした。
これに孫堅は快く同意してくれた。
彼女曰く、実際に村を救ってくれたのだからそれについての評判を流せばいい、と言ってくれた。
孫堅という存在はこの国では結構大きいものらしく、すぐにその評判は広がっていった。
最近では、大きな街などに立ち寄ると、その街の州牧などに招待される事も多くなった。
その時は断るが、良い傾向である事に間違いはないだろう。
俺達は涼州に向けて旅を続けていた。
太陽が真上に来るお昼時。
結構な距離を歩いていたので、休憩を取る事になった。
前の街で帰っておいた食料を皆で食べつつ、腰を下ろして休憩する。
休憩中にもかかわらず、俺と一刀はお約束の修行を続けていた。
服装は汚れてボロボロにならないように、街で適当に買った服で修行しているのは言わずもがな。
「ほらほら。
剣速が落ちてきているぞ。
今日はもうお終いか?」
手に持っている木刀を肩に置いて、少し離れている一刀にそう言葉を投げかける。
対する一刀は肩で息をするくらい、疲弊していた。
まぁ、何十回と俺の木刀を受けつつ、移動しながら打ち合っている。
今の一刀からすればよくやっている方だ。
しかし、俺の言葉を聞いて力を振り絞ったのか、崩れかけていた構えを元に戻す。
「まだまだぁ!!
本番はこれからだ!!」
残っている力で地面を蹴り、俺に接近する。
予想以上の根性を見せつけられて、思わず笑みがこぼれた。
一刀は確実に成長している。
このままいけば、五虎将にも匹敵する力を得る事ができるかもしれない。
そうなるには後五年は軽くかかるが。
それでも、今の一刀ならそこら辺の賊には負けないだろう。
疲弊しているのは間違いないので、一刀は一番負担がかからない突きで俺の胸に向かって突き出す。
それを俺は下から上に向かって木刀を振るう。
その突きには思っていた以上に力が籠っていなかった。
突きを弾かれた一刀は前に踏み込んでいた足を、弾かれた反動を利用して後ろに踏み込む。
そのまま半回転して、勢いを殺す事なく後ろに踏み込んだ足で踏ん張り、前へと進む。
そして、俺の胴に向かって打ち込んでくる。
「これで、どうだぁぁぁ!!」
おそらく、俺が弾く事を予想していたのだろう。
だから突き自体に力を込めずに、弾いた反動を利用する為に、準備していたのだろう。
「日々成長している。
嬉しい限りだ。」
そう言いながら、俺は空いている右手で上に振り上げた木刀を掴み、俺の胴に打ち込んでくる一刀の木刀を防ぐ。
そのまま、刃を滑らせ、根元から一刀の木刀を上に完全に弾く。
真上に弾いた木刀はそのまま落ちていき、俺の右手に収まる。
最後に左手で持っている木刀で軽く一刀の頭を叩く。
「今日の修行は終わりだ。
さぁ、着替えて飯にするぞ。」
右手で持っている木刀を一刀に渡してそう言う。
悔しそうな顔をしながら、一刀は頷いた。
他の皆は、少し離れたところで俺達の修行を見ながら食事をとっていた。
「ふむ、見事ですな。」
近づいてくる俺に星はそう言葉を投げかける。
豪鬼から食事を受け取り、皆の輪に入る。
「一刀の奴、どんどん強くなっていく。
そろそろ、あいつ専用の刀を準備しないとな。」
「一刀さんの刀を?」
俺の言葉を聞いて、月火は俺の腰にある刀に視線を向ける。
月火と豪鬼は最初は俺の刀を物珍しそうに見ていた。
「あいつは俺の同じ様な剣が一番扱いやすいらしい。
この旅が落ち着いたら、俺の刀を基盤にした刀を作って貰わないとな。」
と、フランチェスカの制服に着替えた一刀もやってきて、豪鬼から食事を受け取り食べ始める。
これからの事や雑談などをしながら食事を終えた。
「お父さん、そろそろご飯が無くなってきてるよ。」
食料を詰める鞄の中身を確認しながら美奈はそう言う。
美奈は子供だがしっかりしている。
現にこうやって、食料が無くなってきていたらちゃんと教えてくれる。
「美奈、ありがとう。」
「えへへへ。」
豪鬼のごつごつした手で頭を撫でられて、嬉しそうな顔をする。
「美奈ちゃんってしっかりしているよな。」
「一刀殿の言葉に同意ですな。」
「あんなに小さいのに、これはいいお嫁さんになるわね。」
一刀と星と月火は豪鬼親子を優しく見つめながら、率直に思った事を口にする。
それを聞いた美奈は小さい胸を張りながら言う。
「お父さんは不器用だから、洗濯も料理もできないの。
村の人に迷惑をかけていたから、私が何とかしないとって思って。」
美奈の言葉を聞いた俺達は一斉に豪鬼に視線を向ける。
こんな子供に色々と苦労させる親に冷ややかな視線を送る。
それに気がついた豪鬼は慌てたように言う。
「ま、待ってくれ!
確かに儂は不器用だが、美奈に全部任せまいと色々と手伝ってだな・・・・」
「洗濯を手伝うって言って、服をぐちゃぐちゃにしたり。」
「うっ!」
グサリ、と美奈の剣のように鋭い言葉が豪鬼の胸に深く突き刺さる。
「今度は料理を手伝うって言って、材料を滅茶苦茶に切ったり、力加減を誤ってまな板を斬ったり、最後には焼き加減を間違えて料理を真っ黒にしたり。」
「ぐはっ!!」
一つ一つ駄目出しを喰らうたびに、豪鬼の胸に言葉という剣が突き刺さる。
しかも、それが弱愛している娘からというのがさらに効いている。
「だから、こんな駄目駄目なお父さんを支えないと、と思いました。」
その言葉が駄目押しだったのか、豪鬼はorzのポーズになっていた。
相当凹んでいるみたいだ。
やれやれ、とため息を吐きながら俺は美奈に問い掛ける。
「でも、美奈はそんなお父さんが好きだろう?」
「うん、大好き!!」
太陽のような笑顔を俺に向けて美奈は元気よく言った。
それを聞いた豪鬼は嬉しそうな顔をしながら、立ち直った。
鞄から地図を取り出して、一番近い街を確認する。
「今日はここで夜を明かす。
準備していくぞ。」
準備と言っても、それほどする事はなく俺達は近くの街に向かって歩く。
ちなみに美奈は長距離による移動はつらいので、馬に乗せている。
美奈も馬が気にいっているので、問題はない。
地図を見た限り、それほど遠くはなかった。
「何だよ、これ・・・」
街に着いた一刀がその街の光景を見て、思わず呟いた。
それは俺達も同じだった。
現在、村の入り口に俺達は立っている。
しかし、入り口から見た街はまるで戦に巻き込まれたかのように、家がボロボロで街の人も道に倒れたり、近くのボロ屋にもたれかかっていた。
そして、街の中央にはこの街の風景には明らかに浮いている城。
遠目から見ても分かるが、戦に巻き込まれたようには見えないくらい壊された跡がない。
果たしてこんな状況の街を街と言えるのだろうか?
「とにかく、この街がどうなっているのか調べる必要があるな。」
俺の言葉に皆は同意するかのように頷く。
「豪鬼。」
「分かっております。
美奈、私から絶対に離れるなよ。」
「う、うん。」
この街が異常である事は一目見ただけで分かった。
何が起こるか分からない。
豪鬼は美奈を左手でしっかりと抱きながら、右手は斧を掴んでいる。
美奈もこの異常な光景に怯えている。
「人の気配はする。
戦争に巻き込まれたのか?」
俺がそう口にした時だった。
曲がり角から、槍を持った二人の兵士が現れた。
思わず俺は近くの家に隠れる。
それに反応して皆も近くの家などに隠れて様子を窺った。
俺と同じ家に星も入ってくる。
「どうして隠れるのですか?」
俺の行動に疑問に思ったのだろう。
「街は戦に巻き込まれたかのように、ボロボロ、それに人もだ。
なのに、城はほとんど無傷。
それにあの兵士もだ。
何かがある。
それらを判断する為にも、普段の兵士の行動を観察する必要がある。」
俺の説明を聞いて納得したのか、近づいてくる兵士に注意を向ける。
息を潜めながら、兵士の言葉や行動を観察する。
「おい、まただぜ。」
一人の兵士が倒れている人に向かって言う。
「けっ、汚い野郎たちだ。
おら、どけ!」
差して通行の邪魔でもないのに、兵士は持っている槍で倒れている人の腹を殴りつける。
それを受けて、倒れている人はゆっくりと眼を開ける。
「た、助けて下さい。
もう、立てる力も・・・」
「うるせぇ。
ゴミのようなお前が城に仕える俺様に話しかけるんじゃねぇ!!」
そう言って、再度槍で殴りつける。
もう一人の兵士も、近くに倒れている人に向かって同じ様な事をしていた。
それを見ただけで充分だった。
俺達は事前に打ち合わせでもしたかのように、家から一斉に飛び出した。
ちなみに豪鬼は美奈がいるので、出てきていない。
「あぁ?
何だテメェらは!」
突然、現れた俺達に少し動揺しながらも、槍を向けて言う。
しかし、すぐに俺達の存在に気がついた。
「お前達、旅の者だな。
それにいい女を連れているじゃねぇか。」
まるで品定めをするかのように星と月火を、上から下に舐めるように見る。
それを不快に思った二人はそれぞれの得物を抜く。
「貴様ら外道に語る言葉などない。」
「けっ!」
唾を倒れている人に向かって吐く。
「おい、生意気な女には躾が必要だな。」
「ああ、その通りだな。」
もう一人の兵士も下衆のような笑みを浮かべて、槍を構える。
どうやら、腕に覚えがあるようだ。
「男には用はねぇ。
金目の物を奪って、女は夜の酒にでも使うかぁ!!」
そう言って、槍を俺と一刀に向けて、接近してくる。
三人は構えるがそれよりも早く俺が二人に接近した。
両手を氣で強化して、二人が持っている槍を掴む。
「「なっ!?」」
俺の速さが全く見えなかったのだろう。
振り払おうとするが、掴んでいる槍はビクともしない。
「お前達には容赦しないぞ。」
左脚を強化して左にいる兵士の顎を思いっきり打ち上げる。
真上に二メートルくらい跳び、それを見て唖然としているもう片方の兵士の胸ぐらを掴む。
落下してくる兵士に胸ぐらを掴んだ兵士を、上から叩きつける。
下敷きになった兵士から、骨が折れる音がしたが気にしない。
依然と胸ぐらを掴んだまま、兵士を水平まで持ち上げる。
「た、助け」
何か言おうとしたが、その前に俺が胸ぐらを離す。
素早く両手で握り拳を作り、兵士の胸に向かって全力で突き出す。
ボキボキ!!、と肋骨などの骨が折れ、そのまま真後ろに吹き飛ぶ。
地面を転がりながら、十メートルくらい転がってようやく止まった。
「縁。」
一刀が俺に話しかけようとした時だった。
「そこの人達。
少しよろしいですか?」
横から声をかけられた。
俺達は身構えるが、声をかけた者は慌てたように言う。
「そ、そう身構えないでください!
私は貴方達の敵ではありません!」
「証拠がない。
この街の現状を少しは見たんだ。
自分が敵ではない事を証明する事はできるか?」
「いいえ。」
俺の質問に陰に隠れているそいつは即答した。
そして、ゆっくりと影から姿を現す。
身なりの整った男だ。
特徴はこれと言ってなく、どこにでもいる平凡そうな男だ。
「証明する事はできませんが、私は・・いえ、私達はあの城に住んでいる県令を憎んでいます。」
「私達?」
男の言葉に引っ掛かる事があったのか、月火は首を軽く傾げる。
「此処では話を聞かれてしまいます。
どうぞ、汚いですが奥で話をします。」
「どうしますか?
罠の可能性もありますが。」
「星の言っている事も分かる。
だが、この男は嘘を言っているように見えない。
例え罠でも、その罠ごと潰せばいい。」
俺の言葉を聞いた星は少し驚いていたが、すぐに笑みを浮かべる。
「そうですな。
では、頼りにしていますよ。」
俺の言葉を聞いて、一刀は豪鬼を呼びに行く。
集まった俺達はその謎の男について行くのだった。
後書き
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