Fate/WizarDragonknight
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魔槍ルーラ
積み上げられた箱を突き飛ばし、ウィザードが転がり込む。
その先に飛び込むスイムスイム。
地面を水のように泳ぐ彼女には、水の形態のウィザードといえど手出しができない。
一方、地上のウィザードへ、スイムスイムの攻撃は続く。
ウィザードの脇から脇へ、何度も行き交うアヴェンジャーのサーヴァント。彼女が通過するたびに、ウィザードの体から火花が散る。
「だったら……」
『ルパッチマジックタッチ ゴー ルパッチマジックタッチ ゴー』
ウィザードはベルトを待機状態にしながら、指輪を手に取る。
だが、スイムスイムの攻撃は止まらない。彼女のナイフがあろうことかウィザードの右手を掠め、指輪を落としてしまった。
「しまった……! リキッドが……!」
液状化により、状況の停滞という目論見が破れた。回収などという時間をスイムスイムが与えてくれるはずもなく、徐々にウィザードの足が指輪から離れていく。
「だったら……!」
ウィザードは、銀の銃剣を縦に構える。刀身にスイムスイムの刃が走る。
華奢な腕とは思えない衝撃が走ると同時に、ウィザードは彼女の腕を掴む。
「やっぱり、カウンターなら捕まえられる!」
「……!」
唇を噛んだスイムスイムの体が、液体となる。ウィザードの腕をすり抜け、そのまま離れていく。
「そんなっ……!」
ウィザードが口走るよりも素早く、スイムスイムの反撃が炸裂する。
「やっぱり同じ液体じゃないとダメだな……」
ウィザードは、落としたリキッドを回収しようと向かう。だが、スイムスイムの素早い連撃に、思うように動くことができない。
「だったら……こっちだ!」
『チョーイイネ ブリザード サイコー』
発生した魔法は、氷。それは、すべてを水のように行き交うスイムスイムの体を氷結に閉ざしていく。
リキッドの指輪もまた氷の底に沈められてしまったが、今はこのまま攻める方がいいだろう。
「……っ!」
スイムスイムの顔に、焦りが生じる。だが、もう遅い。
『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
「終わらせる……! 君とのこの戦いも!」
ウィザードは、待機状態となったソードガンへ、容赦なく指輪を読み込ませた。
『ウォーター スラッシュストライク』
青い魔力が、ウィザーソードガンを迸る。
そのまま、ウィザードは刃を振り上げた。
あくまで重傷。それだけを負わせて、彼女を戦闘不能にする。それを狙ったもの。
だが。
『タンマウォッチ!』
その声と同時に、時が止まった。
(動けない……!)
それは、ウィザードだけではなかった。
スイムスイムも。外の街も、空を飛ぶ鳥たちも、まるで絵画になったかのように動かない。
ただ一つの例外。それは、テクテクとウィザードとスイムスイムの間に歩いてきた人形のような存在だけだった。
(モノクマ……!)
ウィザードの面の下は、口さえ動かない。
捉えた視界で、白と黒に二分されたクマの人形型のそれを睨んだ。
『やあ。ハルト君。エンジェルの時はご苦労様。ああ、これはランサーにも言わなきゃね』
(何しに来た……!?)
『うぷぷ。あ、そっか。タイムロックしているから、僕以外は喋れないんだ。あははは』
白黒のクマ、モノクマは、その体を大きく歪めて笑い出す。
『うぷぷ。この勝負、やっぱりフェアじゃないよね』
(フェア……!?)
モノクマは、彫像と化したスイムスイムの手からナイフを取り上げる。
『今、アヴェンジャーは武器がないからね? 前回の部外者との戦いで、大切な武器を無くしちゃったからね。だから、参加者との対戦の時は、ちゃんと武器を提供しま~す!』
(何を……)
時が止められた中では、ウィザードは何も言うことも出来ない。
そのままモノクマは、顎に手を当ててスイムスイムを見上げる。
『うーん……このまま美人少女をオブジェにしてもいいけど、やっぱりサーヴァントは戦わなくちゃいけないからね。うーん、やっぱりボク、仕事熱心で感心できるねえ!』
(ふざけるな……!)
『オールシーズンバッジ 夏』
モノクマは、どこからか取り出したバッジを氷に取り付ける。すると、彼女の体にだけ、季節が変わる。
冬から夏へ。氷など瞬時に溶かしてしまうそれは、スイムスイムの捕獲をあっさりと融解した。
『もう一丁。無くし物取り寄せ機』
次にモノクマが取り出したのは、モノクマよりも大きな機械。土台にはメガホンをさかさまに置いたような筒が設置されているシンプルな造形。その土台に付属しているコードを、モノクマはスイムスイムの頭に接続した。
『さあ、アヴェンジャー。君の大好きな武器のこと、頭に思い浮かべて』
(一体、何を……?)
だが、静止した時間の中で、ウィザードに出来ることなどない。
やがて、モノクマの出した装置より、それは姿を現した。
銀でできた長槍。シンプルな柄と刃だが、その特殊な形状は、この世界に類を見ない。
『タイムロック解除!』
モノクマがそう宣言すると同時に、体が自由を取り戻す。
ウィザーソードガンに宿った魔力は、ウィザードの集中消失によって途切れており、前のめりになる。スイムスイムもまた、凍り付いた姿勢からの突如の解放で、思わず倒れた。
そのなか、モノクマは何事もなかったかのようにスイムスイムへ長槍を渡す。
『はい、アヴェンジャー。君の大事な大事な武器だよ?』
だが、スイムスイムに反応はない。
ただ、茫然とその長槍を見下ろしていた。
「モノクマ……! お前、一体何を……」
『うぷぷ。だって、アヴェンジャーはこんなチンケなナイフで戦っているんだよ? 可哀そうじゃない?』
モノクマは、頭上でスイムスイムのナイフを乗せ、弾ませながら言う。
『こんな願いのために健気な女の子に、ハンデを背負わせるのは、運営としてはねえ?』
「ルーラ……」
だが、肝心のスイムスイムは、ウィザードとモノクマの声に耳を貸さない。
「ルーラ……」
自らの世界に没頭したスイムスイムは、長槍に頬ずりする。
何度も何度も。頬を赤らめて、あたかも再開した母親に甘える子供のように。
「ルーラ……ルーラ……よかった」
やがてスイムスイムは、そう言って両手の長槍をウィザードへ向けた。
「私はこれで、お姫様になる」
「お姫様って……それが君の願い?」
その問に、彼女は頷いた。
「だから……やっつける」
スイムスイムの敵意に、ウィザードは警戒を向ける。
その時。
「ハルト!」
その声は、鏡から。
突如として、窓から現れた赤い仮面が、ウィザードとスイムスイムの間に飛んできた。
赤い鉄仮面。それが自らのサーヴァント、ライダーであり、城戸真司の変身した姿であることをウィザードは知っている。
「真司!? どうしてここに!?」
「日菜ちゃんに頼まれて来た。お前は?」
「紗夜さんに付けていたユニコーンが知らせてくれたんだ」
龍騎は、ウィザードの隣に並ぶ。
スイムスイムは、手に戻った得物で、ウィザードと龍騎の二人を順に指す。
「二対一……」
「なあ、ハルト」
「うん。言わなくても何となくわかる」
ハルトの言葉にうなずく。
「男が女の子一人を相手にするって、すっごくやり辛いね」
「ああ」
だが、抵抗を感じるこちらとは逆に、水を得た魚同然のスイムスイムは、容赦なく攻め立ててくる。
連撃、斬撃。攻撃に次ぐ攻撃は、ウィザードと龍騎を防戦一方に追い込んでいく。
「ほう……」
その戦いを、トレギアは静かに見守っていた。
ライダーのマスターとサーヴァント。彼らが、アヴェンジャーのサーヴァントと戦っている。
無論、彼らは自らの視線に気付いていない。大きな見滝原ドームの倉庫。その上のフロアの踊り場から、静かにトレギアは眺めていた。
「さて。どうしてくれようか……?」
トレギアは、顎に手を当てた。
だが、その思考時間は長くはない。思考よりも先に、体が移動を選んだ。
飛び退くと同時に、トレギアがいた足場を、黒い光線が破壊する。粉々になったコンクリートを見つめ、その発生源___頭上を見上げた。
「やあ。随分な挨拶じゃないか。キャスター」
漆黒の魔女。
黒い翼を肩、腰から生やす銀髪の女性が、トレギアに手のひらを向けていた。
そしてもう一人。黒い長髪が特徴の少女。少女という人種に似合わぬ拳銃を構える、キャスターのマスター、暁美ほむら。
「フェイカー。貴方を……排除する……」
彼女の目が、殺意に染まる。
「おやおや。キャスターペアがお揃いで。ライブでも見に来たのかな?」
「……」
トレギアへの返答は、ほむらの銃声だった。
トレギアは焦ることなく、素手で銃弾をキャッチする。鉛玉が、静かにトレギアの足元に零れ落ちた。
クールが似合う彼女の目は、怒りに燃えていた。
「まどかを利用した貴方は、許さない」
「へえ……安心してくれ。もう彼女には興味ないよ。鹿目まどかがもつあの因果律には確かに惹かれるものがあったが、こうしてマスターの体を手に入れた以上、もうどうでもいい」
トレギアは「ククク」と肩を震わせ、
「それに、今日は少し忙しくてね。君の相手は、別で用意してあげるよ」
そう言って、トレギアは指をパチンと鳴らす。
すると、例によって、トレギアの足元より闇が地表へ落ちていく。
闇が固まって出来上がったそれは、怪物の姿。
ただの異形の化け物ではない。手、足、胴体。その全てが、様々な怪物の体のパーツから構成されている。
ほむらやキャスターには知る由もない。以前見滝原公園でウィザードたちが戦った怪物たちもまた、その怪物の体を構成していることに。
ウィザードが戦ったブロブが右足に。
赤のヒューマノイドに敗れたネズミは右腕に。
ビーストを苦しめたムンクは腹部に。
ミラーワールドで龍騎と激突した岩石生物は左腕に。
可奈美と同等の速度を誇る狼男は頭部に。
そのほか、無数の怪物たちの体のパーツが、その怪物の全てを作り上げていた。
「何なの……あれは?」
ほむらはその姿に戦慄している。
なかなかの表情に、トレギアは唇をなめた。
「君たちの相手は、コイツがしてくれるよ。まあ、精々生き残ってくれたら、私が相手することも少しは考えてあげるよ」
合成された怪物は吠え、ほむらへその右手の鉤爪を振るった。
キャスターは両腕を交差し、ほむらの前に高速移動。黒い魔法陣を展開し、その攻撃を防御する。
だが怪物は、即座にキャスターへの対策に出る。
その肩より放たれる、無数の花粉。桃色のそれを見た途端、キャスターは目を見開く。
「これは……!?」
「キャスター!」
ほむらの悲鳴が聞こえるがもう遅い。
可燃性の高い花粉は、その場で爆発。
二人の黒の姿は、爆炎の中に消えていった。
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