SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第二章 ~罪と罰~
その七
「ん?」
「どうしました? 兄さん」
それには答えず、携帯電話を取り出し、ディスプレイを見る。表示されているのは芙蓉家の電話番号だ。この時間なら稟だろうか?
「もしもし」
『もしもし、柳か?』
やはり稟だ。
「ああ、というかどうしたんだ?」
『悪い。ちょっと相談があるんだが、今大丈夫か?』
「時間だけの話か? それとも……」
『良ければ直接会って話したい』
「ん、分かった」
場所を決めて電話を切り、菫に詫びる。
「すまないが今日は一人でやってくれ」
「それは構いませんけど……稟さんですか?」
「ああ。どうやらかなり深刻みたいだ」
「そうですか」
時刻は九時半過ぎ。友人とはいえ呼び出すには少し遅い時間だ。それだけ深刻なのだろう。
「それじゃ、ちょいと行ってくる」
「はい」
そう言って柳哉は待ち合わせ場所の緑公園へ向かった。
* * * * * *
「そりゃっ」
近くから聞こえた掛け声に気づいて顔を上げると、何かが顔面に向かって飛んできた。慌ててそれをキャッチする。
「あっぶないな」
親衛隊との鬼ごっこである程度慣れているとはいえ、顔面に向けて何かが飛んでくればやはり驚く。
「こんばんは。それは差し入れみたいなものだ」
と、先程キャッチしたものを見る。紙パック入りのジュースだ。柳哉の手にも同じものがある。
「ありがたくいただくよ」
「おう、それで少し頭を落ち着けろ」
「気づいてたのか」
「そりゃな。お前の周りだけ、夜だってのにそれ以上に暗かったからな」
そんなに暗かっただろうか? まあ今の状態では仕方ないのかもしれない。柳哉がジュースを投げてきたのもそんな空気を変えるためなのだろう。
「んで? こんな時間に呼び出してどうしたんだ?」
聞きながら柵に座り、パックにストローを刺す。稟もそれに倣う。ちなみに稟はブランコに座っている。
「……いきなりだな」
「言えた義理か?」
確かに。少し苦笑いをして、稟は事情を話し始めた。
* * * * * *
「愛しています、だから私を好きにならないでください、か……」
「どう思う?」
んー、と考える柳哉。色々と推測を巡らせてみる。
「それだけじゃ何とも言えないな。判断材料が足りない」
「……」
「でもまあ、おそらく……」
「?」
「八年前の件が絡んでるのは確かだろうな」
というかそれ以外考えられないし、思いつかない、と柳哉は言う。
「楓には気にするなって言ってるんだぞ」
「いや無理だろう。気にしないわけがない」
「いや、でも……」
「考えてみろ。もしお前と楓の立場が逆だったとして、楓に“私は気にしていないですから稟くんも気にしないでください”って言われて“分かった、気にしない”って言えるか?」
「! それは……」
「ま、言えるわけないな」
「……」
内心で胸を撫で下ろす。もしここで稟が“言える”と答えたなら、稟との付き合い方を根本的に変えなければならなくなるところだった。
「なあ稟」
「……何だ?」
「桜からある程度まで聞いちゃあいるが……結局どういう経緯でそうなったんだ?」
「……正直、あんまり気持ちのいい話じゃないぞ?」
「俺が自分の意思で聞くんだ。気分が悪くなったとしてもそれはあくまでも俺の自己責任だ」
その言葉を聞き、稟は話し始める。八年前の事件の内容とその後の出来事を。
* * * * * *
「……なるほどね」
「……笑わないのか?」
「どこに笑う要素があった?」
呆れる要素ならいくつかあったが。稟はどうやら“子供の浅知恵”あるいは“馬鹿な事をした”と思っているようだ。
「その時はそれが最善だと思ったんだろう? それに、過去の事に関してなら誰にでも最善策が言えるもんだ。自分が関わってない事をああだこうだ言うつもりもない」
絶対に正しい対処法などというものは存在しない。例えば“1+1=2”という数式でさえ絶対に正しいわけではない。世の中には“1+1=2”という数式が成立しない世界が確かに存在している。日常生活の中では触れる機会が無いだけの話なのだ。
「しかし、お前は本当、相変わらずだよな」
「どういうことだ?」
「相変わらず馬鹿だってことさ。しかも底抜けのお人好しときてる」
「いや馬鹿って……」
「褒めてるんだよ」
全く褒められている気がしない。
「ま、どうにか糸口は掴めた」
「本当か!?」
「ああ、とはいえまだ確証があるわけじゃない。言ってしまえば俺の妄想でしかない」
ほぼ確定だとは思うが。
「だからこそ、だ」
桜と亜沙先輩にも聞きに行く、と言った柳哉に渋い顔をする稟。
「わざわざあの二人に聞かなくても……」
「お前の言いたいことは分かる。二人に迷惑掛けたくない、とか特に桜には辛い記憶を思い出させたくない、とかそんなところだろ?」
図星を指されたのだろう。黙り込み、ストローに口をつける。
「稟、お前はあの二人のこと、好きか?」
「!?」
不意打ちを食らって思いっきり吹き出す稟。
「おまっ……何を……」
文句を言おうとするが、柳哉の真剣な表情を見て口をつぐむ。
「異性として、じゃなく人として好きかどうかを聞いてる」
「……そりゃあ好きに決まってる」
「そうだな。同様に二人もお前のことが好きなわけだ。そして」
「そして?」
「好きな人の力になりたい、と思うのはおかしなことか?」
別におかしくなどない。むしろそれが普通だろう。実行するかしないかは別として。
「でも、迷惑じゃないのか?」
「確かにな。うざい、とか面倒くさい、とか思う時だってあるだろう」
「なら「でもな」……」
「まあ、しょうがないか、っていう風にも思える」
――友達とか仲間とかっていうのは、そういうものだろう?――
「!」
そう言った柳哉の顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。
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