それから 本町絢と水島基は 結末
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11-⑻
私は、大学最後の正月を迎えていた。元旦は、いつものように、両親と初詣に行く予定だけど、お父さんが
「今年は、正月の間に、もとし君がこれないかな」と、私に、言ってきた。
「うーん なんでー 呼ぶのー」
「どうしてって言うわけではないが なんか、ワシだけ、まだ、会ってないのもなぁー と思ってな みんなの話から、好青年だってのは、わかるがな 絢は、会わすのが嫌なのか」
「そんなことは無いわよ でもね モトシにウチをどうするんだとか、そういう話はよしてよ まだ、結婚の約束もしていないし、そんな話もしてないから」
「わかっているが、親としては、そこが気になるだろー 今度は、沖縄まで、追いかけていくんだから」
「いいの! ウチはモトシのお嫁さんになるの決めているんだけど・・ 彼は、まだ、仕事決まったとこだし、自分の納得できる仕事につけるかどうかわからないから、又、変える可能性もあるから、ウチにそのこと、まだ、言えないんだと思う だから、もう少し待って お願い ウチは、モトシを信じているの」
「あなた 絢がここまで、言うんだから、待ってあげてよ」と、お母さんが言ってくれた。
「そー言うなよ ワシだって、会いたいのは、当然だろう 絢の沖縄行きも支援したんだから 紳 どう思う?」
「おやじが言うのは、当然のことだと思う。言う権利もあると思う。だけど、彼にも選ぶ権利もある。それは、彼が絢に対して、何も強制するようなことを言っていない。だから、まだ、責任はないんだ。彼は、真面目に絢のことを考えているからこそ、自分が責任を負えるようになるまで、絢に結婚を申し込まないと思う。だからどうでしょう そのことは、話題にしないで、会うというのは」
「よし わかった 絢とのことは、出さない それなら、良いだろう 絢」
「うん モトシに聞いてみる」
「なんか 又、紳に言い含められたみたいだな」と、お父さんは、お母さんに向かって言っていた。
- - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - -
3日にモトシは我が家に来ることになった。
「うん まだ、早いけど、一度は会っておいた方が良いかな 行くよ」って言ってくれた。
私は、振袖じゃあないけど、小紋の着物で、玄関先でモトシが来るのを待っていた。
「あや ここで、待っていてくれたのか」
「うん 真っ直ぐ 来れた?」
「ああ 直ぐに、わかったよ さぶかったけどな」と、コートを脱いだ
「ごめんね 上がって お父さんも待っている」
強い味方のお兄ちゃんは、仕事で出て行ってしまった。もう、私は、ドキドキしながら、モトシを案内した。
「もとし君 寒かったでしょう 座ってちようだい」と、お母さんが招いた。うちには、炬燵はなくて、ガスの温風ヒーターとホットカーペットだけなんだ。
「初めまして 水島基と申します 絢さんと、お付き合いさせていただいてます」と座卓の横で、お父さんに挨拶をしていた。
「初めまして 絢の父です まぁ 気楽にしてください みんなから、君のことは聞いているので、初めてとは思えないのだが イメージ通りだな まぁ、一杯 ビールで良いのかな」
「はぁ いただきます」 お父さんが継いだ
「あー 膝をくずしてください 今日は、気楽に飲もうと思ってな」
「あなた モトシ君に大野の里芋いただいたの お母さんの地元なんですって」
「そうか お母さん 大野の人なのか あそこの里芋は、ねっとりとうまいんだよな」
お母さん、台所に行っちゃって、私、その場に居たんだけど、ヒヤヒヤで・・。
「この子を小学校の頃から、面倒見てもらって、君には感謝しているんだ 礼を言います」
「いえ 僕のほうこそ 絢さんが居てくれたから、頑張れたんです 今でも・・」
「そう言ってもらえると、嬉しいが、この子は変わった。小さい頃は引っ込み思案でな 大学もワシは反対したが、行って良かったと思う 明るくなってな、どこに出しても、恥ずかしくない娘になった。君が居てくれたからだと思ってる」
「お父さん もう その話は」と、私、これ以上は危ないと思って、止めた。すると
「僕は、県の職員にはなれましたが、自分がやりたいことが出来るのか、まだ、解りません。場合によっては、別の場所でってことも、頭にあります。もちろん、絢さんとは、離れたくありません。でも、まだ、それを言って良いのかと思っています。自分で責任もって、将来もパートナーになってくれと、言い切りたいので、申し訳ないですが、待ってもらってます」
あぁー、言っちゃった。ウチにも、そんなこと、はっきり言ってくれてないのに・・。
「そうか そう言ってもらえて、ワシは安心出来た。君は、真面目だし、絢が魅かれるものを持っているのが、わかった気がする 藤沢さんが、はっきり自分の考えを言うので、ゆっくり飲みたいと言っていたのも解る気がする 今日は、ゆっくりして、海の話を聞かせてくれ」
私、どうなることやら、と思っていたけど、ほっとした。ありがとう、モトシ、ちゃんと言ってくれて、ウチ、うれしい。
その後、モトシはサンゴの話から始まって、どうして、サンゴの調査研究が必要なのかを説明していた。最後に、水産業界とか日本の食生活につながることだから、と言って居た。お父さんは、黙って聞いていたが、言葉が出なかったみたいだった。
「もとし君 あっちでは、どこか、借りるの?」と、お母さんが聞いていた。
「ええ 多分 3月の中頃なんですよ 赴任先が決まるのが それからになりますが、せわしいですよね それまで、決められないんですよ」
「それは、大変よね まぁ、何とかなるんでしょうけど お母さんも心配よね」
「ええ 一人暮らしの自炊は初めてですから それも」
「そんなのは、絢が作りに行くよ なぁ 絢 我々の将来を考えてくれているんだぞ」と、お父さんが、思いがけないことを言ってきた。
「お父さん 酔っぱらってるの」私、なんか、恥ずかしかった。でも、モトシのことわかってくれたんだと、嬉しかった。
モトシが帰る時、
「モトシ 明日 あそこの神社に、一緒に、お礼に行きたい お願い」と、私は、おねだりした。
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