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幻想甲虫録

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奥義、魂魄流六道断絶楼命断

弟のルリッドにフュージョングレイブを決めたヘルクス。地に降りるとこんなことを問う。


ヘルクス「よく行列ができるラーメン屋……新メニュー『灼熱血の池ヴォルケイノラーメン』……またこんなくだらんことで暴れてたのか?」

ルリッド「くだらんだと!?やかましい!!新メニューをすぐ食べようとしてなぜ悪いか!?そもそも奴ら()は吾輩に対する焦らしプレイが趣味としか思えんのだ!!これが暴れずになどいられるか!!」


さっきの仕返しと言わんばかりにまたアンタエウスインパクトを繰り出そうとした。
だがヘルクスは涼しい顔をしながらかわし、ルリッドに大きな隙ができたところを横から挟み込む。


ヘルクス「…………」


無言でルリッドをゆりかごのように優しく左右に揺らす。するとどうだろう、ルリッドのまぶたが次第に重くなってきた。


ルリッド「こざかしい真似を…………2度もそんな催眠術に………かかるものか………わ……吾輩は…………ダメ………だ………意識が…………薄らい………で…………い……く……………………」


やがてルリッドのまぶたは完全に閉じ、完全に眠ってしまった。
眠ったのを確認したヘルクスは優しく地面に放し、彼から距離を少し遠くに置く。


妖夢「……あっ(察し)」

ソウトウ「終わったな、あれは……」


距離を少し遠くに置いたヘルクスは眠ったルリッドに突進していた。


ヘルクス「『エンペラーズララバイ』!!」

ルリッド「!?!?!?!?!?」


そして強力な絞め技を食らわせた。襲いかかる激痛と同時に目を覚ますルリッド。


ソウトウ「『2度もそんな催眠術にかかるか』と言ってたのにまたかかってしまったな」

妖夢「ですがソウトウさん、あれはかなりダメージが大きいですよ!今のうちに!」

ソウトウ「うむ!」


ソウトウもソウゴたちのようにまばゆい閃光に包まれ、巨大化。話を聞いたヘルクスもすぐにルリッドから離れた。
ルリッドがソウトウの突進に気づいた時にはもう遅かった。ナゲ技を放とうとしていたのだ。


ソウトウ「弾く!」


小さいながらもルリッドを怪力で上空へ弾き飛ばす。それを追うソウトウ。


ルリッド(あいつ…昔兄者が使ってた『ローリングドライバー』を放つつもりか…!)

ヘルクス(ローリングドライバーか………かつての私もあんなのを使っていたな。懐かしい技だ)


そのナゲ技はディアボロもメンガタに対して使っていた。だが。



バサッ



ヘルクス「な!?」

ソウトウ「何!?」

ルリッド「吾輩よりチビなくせに怪力で吹き飛ばしたことだけは褒めてやろう!!」


宙を舞うルリッドが羽を広げたではないか。追いかけてくるソウトウをかわし、そのまま背後へ。


妖夢「嘘……ソウトウさんのナゲ技が破られた!?」

ルリッド「ソウトウ!!兄者を倒すのは今日は諦める!その代わり貴様が吾輩と勝負しろ!!」

ソウトウ「兄を倒せないことに対する私への八つ当たりか………」

妖夢「ちょっと、ソウトウさん!?まさかこの勝負受けるとか言うつもりじゃないでしょうね!?やめてください!バラバラにされちゃいますよ!」


どうやら妖夢も2匹のチンピラ甲虫(メンガタとサビー)が殺されたという記事を読んでいたようだ。彼らを殺した犯人はディアボロであることはまだ知らないものの、もしかするとルリッドも殺しをするのではないかと不安だったのだ。
だがヘルクスは弟がまた暴れているという話はよく聞くが、殺しに関わっているという話は今まで聞いたことがない。彼が知っている弟といえば短気、好戦的、そしてさっきのように行列のできる店で待てないといったものだ。


妖夢「ヘルクスさん!」

ヘルクス「落ち着け妖夢。ソウトウもまた強者の雰囲気を漂わせている。ルリッドには負ける未来しかないが、バトルジャンキーな性格からして引き受けるだろう」

妖夢「……というと?」

ヘルクス「あれを見ればわかる」


空を見上げる1人と1匹。見ると、ヘルクスの予想通りソウトウが提案に乗ったのかルリッドと空中戦を繰り広げていた。
彼らは持っていないが、まるでハサミ技『エアロキャプチャー』のような激しさだ。


ソウトウ「穿つ!『ヒャクレツケン』!!」

ルリッド「落ちろ!!『トマホーク』!!」


互いにダゲキ技を発動させる。その攻撃は妖夢の目に映らないほどの速度だった。


ソウトウ「アァタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!!」

ルリッド「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!!!」


目にも止まらぬ速度で連続打撃を繰り出すソウトウ、同じぐらいの速度で前方を中心に連続打撃を放つルリッド。


ソウトウ「ホォアタァ!!!!」

ルリッド「ボラーレ・ヴィーア(飛んで行きな)!!!!」



バギイイイイイイイイン



妖夢「ううっ!?」

ヘルクス「…………」


すさまじい連続打撃が放たれる中、互いに最後の一撃の威力を比べるかのように大顎と角をぶつけ合った。
互いに出したダゲキ技、ヒャクレツケンとトマホーク。決まったと同時に片方が空から落ちてきた。


妖夢「一体どっちが……!」

ヘルクス「妖夢、離れろ!」


地に落ちた巨大な物体。それはヘルクスがよく知っている青黒い甲虫。
リッキーブルーのルリッドだった。


ソウトウ「汝のトマホークより私の高速打撃の方が上だったようだな」

ルリッド「グ……グフッ………」


そう、威力が高かったのはソウトウのヒャクレツケン。実を言うとルリッド、あまりにも速すぎてだんだんついてこれなくなり、疲弊したところで最大の一撃を食らったのだった。
地に降りたソウトウを見て、ルリッドは彼と妖夢とヘルクスを睨みつける。


ヘルクス「あの程度の速さについてこれんとは未熟者め。ムシキングを夢見るソウゴ、あと最強を目指す鎧丸とチルノの方が可能性があるぞ」

ルリッド「黙れぇ!!ソウゴの見る夢なぞ……ムシキングなぞくだらん……むしろ興味もない………!鎧丸もいつも兄者に挑まれ、それに家臣もろともオズワルドにやられたくせに何ができるというのだ………!!」


血走った目をしながら立ち上がると、ソウトウだけに目をつけた。


ルリッド「吾輩は強くなることが目的……だからこいつを……ソウトウを倒す………むしろ倒さなければならない………!」

妖夢「この虫さん、諦め悪いですね……」

ソウトウ「ふむ………ならルリッドよ、汝に試練を課す……『我が大顎()の奥義』に耐えてみよ」

ルリッド「大顎()の奥義………!?」


ソウトウが持つ左右非対称の大顎。ルリッドはソウトウが何を言っているのかさっぱりわからなかった。
すると戦いの最中だというのになぜかソウトウが目を閉じ、瞑想し始めた。


ソウトウ「天、人、従、畜、餓、地……汝に安らぎを与えん―――――」


瞑想しながら呟くソウトウ。やがて大顎が鋭い刃のようにきらめき。





ソウトウ「―――――奥義『魂魄流六道断絶楼迷断』」


瞬間移動したかのように大顎でルリッドを斬り裂いた。
一体何が起こったというのだ。悲鳴をあげる間もなく斬られたルリッドは考えられず、まるで未知との遭遇を体験したような気分だった。
斬られたのは1回だけではない。立て続けに2回、3回、4回、5回と瞬間移動のごとく連続で斬りつけられた。


ルリッド「ま…待て……これは……ハサミ技じゃ―――――」


ハサミ技じゃなくてキリサキ技だろう。そう言おうとしたルリッドだが、口封じするかのように背後からソウトウが大回転しながら襲ってきた。



ザシュッ



ルリッド「ナガァ!?」

ソウトウ「斬ッッッ!!!!」



ズシャアアアアアッ



とどめの一撃が決まり、ルリッドの巨体が崩れ落ちるように倒れた。


ソウトウ「………我が大顎()に斬れないものはない」

ルリッド「………うぐ……くそ……吾輩はまた負けるのか………しかもこんなチビごときに…………」

妖夢「や、やった………ソウトウさんが……勝った………!」


倒れたルリッドを見た妖夢は震えていた。


妖夢「よ……よかったぁ!よかったですぅ、ソウトウさぁん!!もしあなたがバラバラにされてたらと思うと……私………私………!!」

ソウトウ「おいおい泣くんじゃない。恥ずかしいだろ」


勝ったことと生きていたことの嬉しさで駆けつけ、抱きつくと同時に泣きじゃくった。
それを見たヘルクスは表情が緩んだ。だがすぐにルリッドを見て睨みつけると、すぐに彼の前に無言で立ちはだかる。


ヘルクス「……………」

ルリッド「兄者……吾輩は……さっきの負けを認めとらんぞ………貴様らを超えるためにも……技屋に大金を払ってでも………絶対………うぐ………」

ヘルクス「……………」

ルリッド「何とか言ってくれ兄者………ソウトウ、次に会った時は今度こそ貴様を………」


おぼつかない足取りで立ち上がり、千鳥足でヘルクスたちの前から立ち去るルリッドであった。


ヘルクス「……………(あのまま帰りがけにディアボロに殺されなければいいが………)」










そのルリッドだが、帰り道、ソウトウに負けた腹いせで小石を角で弾いていた。


ルリッド「技屋さえ……シグルドさえいれば吾輩は……!」



ズポッ



ルリッドは気づいていないが、彼が通ったのは団子屋の前。今ザミーゴがかき氷を食べている場所。
強く弾かれた小石が運悪くザミーゴが食べているかき氷に埋まってしまった。


ザミーゴ「………おい」


氷カップを横に置き、小石を飛ばしたであろうルリッドを凍てつくような目で睨みつけるザミーゴ。


ルリッド「な、何だ?」

ザミーゴ「………俺のかき氷台無しにしたのお前かァァァァァァァ!!!」


ザミーゴの咆哮にルリッドは恐怖のあまり後ずさった。
しかしそれだけではない。ザミーゴが羽を広げたかと思うと、後方に空高く舞い上がった。高速できりもみ回転しながらルリッドに突撃するが、ルリッドはあり得ないものを見た。
きりもみ回転しているザミーゴがどういうわけか冷気と氷に包まれていたのだ。


ザミーゴ「カチコチに凍らせてやる!!『ブリザードシェル』!!」

ルリッド「うわらば!!」


その威力は砲弾並だった。ルリッドはかなり遠くまで吹き飛ばされた。
そればかりでは飽き足りないのか、吹き飛ばされたルリッドの前まで高速で飛ぶザミーゴ。ルリッドを動けないように前からガッチリと挟んだ。


ルリッド「ま、待て!待ってくれ……!吾輩……貴様に何か恨まれるようなことしたか!?」

ザミーゴ「俺のかき氷に石入れたお前が悪いんだからな。じっくりと弱らせてやるよ」


鎧丸のスーパートルネードスローと同じく羽を広げ、竜巻のごとく回転しながら空中へ飛び上がる。
だがそのナゲ技は何かが違う。ルリッドは不審に思ったが、その瞬間またあり得ないものを目の当たりにするとは思ってもみなかった。


ルリッド(どういうことだ!?今の時期、冬じゃないだろ!?)


なんと彼らの周りが吹雪と極寒に包まれていた。


ルリッド「∬∝§*※仝〒◎Ω℃¥£¶≒■±¢々Σ!?」


吹雪の中、平気なザミーゴとは対照的にルリッドは極寒のあまり舌が回らない。同時にルリッドの目から光がどんどん失われていく。


ザミーゴ「氷の力、思い知れ……!『ノーストルネードスロー』!!」


極寒で弱ったのを見計らい、上空へ放り投げたザミーゴであった。










その頃、ルリッドによって川に投げ飛ばされた藍とケイジロウはというと。


藍「ゴボボボボボボボボボボボ」

ケイジロウ「…………」


藍は背中と尻尾を水面から出して水死体のようにうつ伏せに浮かび、ケイジロウは頭が地面に埋まったように水面から体を出して気絶していた。 
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