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鴨子

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第二章

「あんたのそうしたところにね」
「ううん、そうなのね」
「もう少し鼻を低くしたらどう?」
「鼻?」
「日本じゃプライドが高いことを鼻が高いっていうらしいのよ」
 この娘は大学で日本文学を学んでいる、それで日本のことに詳しい。
「天狗になってるってね」
「天狗って日本の妖怪よね」
「そう、凄く強いね」
 そうした妖怪だというのだ。
「その妖怪みたいだっていうのよ」
「ううん、私は天狗?」
「そう言うと天狗っていうかね」
「違うのね」
「家鴨ね」
 今度はこの鳥だった、台湾でもよく食べる。
「あんたはね」
「家鴨だったの、私」
「鴨子みたいよ、実際」
 何か話がおかしなことになってきていると思った、それで彼女に顔を向けて怪訝な顔になってこう尋ねた。
「私が家鴨、それも鴨子って」
「鴨子っていつも顔上げてるわね」
「ええ、偉そうな感じでね」
「それを見てたらね」
「私は鴨子なの」
「変にプライドが高くて意地っ張りで素直じゃなくて」
 そうしたところがだというのだ。
「あんた本当に鴨子みたいよ」
「ううん、何か微妙ね」
「家鴨は美味しいけれどね」
 私も好きだ、実際によく食べる。
「それでもそれみたいっていうのは」
「あまりいい気がしないでしょ」
「結構ね」
 実際にこう返す。
「家鴨って言われたら」
「そうでしょ。それじゃあね」
「あらためろっていうのね、彼への態度」
「さもないと泣きを見るのはあんたよ」
「私なのね」
「幾らいい人でも」
 それでもだった。
「そのうち愛想尽かされるわよ」
「それで失恋するのね」
「そんなの嫌でしょ」
 私に言ってくる。
「だったらいいわね」
「ええ、わかったわ」
「まずは素直になることよ」
 それが第一だというのだ。
「わかったわね」
「素直にならないと自分が」
「素直ってのは美徳よ」
「それで変なプライドを張らないことも」
「いいことだからね」
「じゃあ明日から」
「急には無理にしてもね」 
 それでもだというのだ。
「少しずつ変えていきなさい、いいわね」
「具体的にはどうすればいいかしら」
「全く。わかってないのね」
 彼女は私の今の言葉にはやれやれといった顔になって返した。溜息はなかったけれど呆れた調子で私に言ってきた。
「何処までも」
「何処までもって」
「具体的に言うわね、その具体的ね」
「うん、それは」
「真面目に言葉を受けるの」
 そうしろというのだ。
「彼のお誘いを受けるの」
「そうすればいいのね」
「そう、今は殆ど受けてないでしょ」
 その通りだった、私は彼の誘いも好意も全部突っぱねている。贈りものも何もかもをそうしてきているのが今だ。
 けれどそれをだというのだ。
「二回に一回でも受けるのよ」
「半々?」
「理想はいつもだけれど」
 百パーセント、それが理想だというのだ。
 
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