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鴨子

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第一章

                     鴨子
 素直でない、それは自分でもわかっている。
 けれどどうしてもだった、私はこう言うしかなかった。
「悪いけれどね」
「またそう言うんだな」
 彼は私の言葉に残念そうな顔で返す。
「今日もか」
「仕方ないじゃない。気が乗らないから」
「じゃあどうしたら気が乗るんだよ」
 彼の顔にある不機嫌なものが増していた、そのうえでの言葉だった。
「一体」
「そんなのわからないわ。けれどもう」
「今日は帰ってか」
「ええ、休むから」
「じゃあ送るよ」
 彼は私を立ててこう言ってくれた。けれどこの好意も。 
 私は唇を噛み締めてこう返した。
「いいわ。歩いて帰るから」
「この雨の中をかい?」
「タクシーがあるから」
 丁度目の前をタクシーが一台通り過ぎた。台北の町は屋台とタクシーにはこと欠かない。
「それで帰るわ」
「そうか、じゃあまたな」
「ええ、またね」
 私は彼に背を向けたまま別れの言葉を告げた、振り向くことなくそのまま右から来たタクシーに乗り込んだ。
 それでその日は終わった、部屋に帰って携帯を見ると彼からのメールが幾つも入っていた、だがそれでもだった。
 開いただけで後は削除した、その私に同居人の娘が呆れた顔で言ってきた。
「あんたまたなの?」
「またって何がよ」
「だから。彼とのことよ」
 私の横に来てテレビを点けながら言ってくる。
「またつれない態度を取ったのね」
「何かね」
 私は自分の携帯を収めながら彼女に返した。
「気持ちがね」
「素直になれないのね」
「そうよ」
 私は携帯を置いて返した。
「どうしてもね」
「本音は彼のこと嫌いじゃないでしょ」
「嫌いじゃないっていうか」
 むしろそれよりもだった。
「好きよ、女の子同士だから言えるけrど」
「そうよね、好きよね」
「それにね」
 さらにだった。
「私を立ててもくれるし」
「それ大事よね」
「そう、それが嬉しいのよ」
 台湾では男は女を立てるものだ、それでこのことでも嬉しかった。
「気遣いもあって」
「悪いことおないわよね」
「凄くいい人よ。性格だけじゃなくて」 
 それにだった。
「ルックスもいいから」
「本当に得点高いわね。最高じゃない」
「そう思うわ、けれど」
「けれどなのね」
「面と向かうと」
 私は唇を波にさせた。自分でもわかっているのについそうなってしまう、そのことに内心忸怩たる思いがあってそうなった。
「どうしても」
「辛いわね、そういうの」
「どうして素直になれないのかしら」
 自分でもかえって不思議だった、それで今言った。
「彼の前だと」
「プライドよね」
 彼女はすぐにそれだと言ってきた。
「それのせいよ」
「プライド?」
「あんたのその素直でない意地っ張りなところはプライドからくるものよ」
「私そんなにプライド高いかしら」
「私も今気付いたけれどね」
 部屋の椅子に座ってテレビを観ながら私に言ってくる。テレビを観る間に蜜柑を手に取ってそれを剥いている。
 私にそのうちの一個を私にくれて言うのだった。
「あんた結構ね」
「プライド高いっていうjのね」
「ええ、何か言われてすぐに違うって前を向いて言うでしょ」
「それがプライドなのね」
「そう、そこに出てるのよ」 
 そうだというのだ。 
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