異生神妖魔学園
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時を越えた再会と紺子の決意
夕方のEVOLUTION SPACE。レクリエーションがあった学園から帰ってきた遠呂智、龍華、麻由美は先ほどのデンジャラス・逃走中のせいでぐったりとしていた。
貴利矢「お、お前ら………どうした?」
ぐったりとそれぞれカウンターとテーブルに倒れ込んだ3人に貴利矢は唖然とした表情で尋ねる。
遠呂智「わ、悪りぃな貴利矢……今日は………動けそうにねぇわ………」
龍華「もうマジでレクリエーション嫌だ……休めばよかった………」
麻由美「私も………」
それぞれ疲れきった声で言い、特に遠呂智と龍華はどんな鬼の餌食になったのか口々に言う。
龍華「今日レクリエーションやったんだけどさ、ひどい鬼ごっこでよ………校長のオナラが爆発的でよ…………あとあまみにラスグッラっちゅうお菓子食わされて……今でも………うっぷ………………」
口の中に広がるラスグッラの甘さがまだ抜けていないようだ。しゃべっている最中一瞬吐き気を催し、胃の中にあるもの全てを吐き出しそうになってしまった。
遠呂智「俺なんかあれだぞ?尻叩き1000発よりはマシだったが、ゴムパッチン2回も食らったぞ……たこ焼きは当たりだったからどうでもいいが………それでもマジでヤベェ………」
貴利矢「うわぁ………なんか聞いただけで身体中が痛くなってきたんだが……………」
遠呂智たちを追いかけた鬼とは全く違う……そう、れっきとした妖怪の方の鬼を想像した貴利矢は思わず青ざめてしまった。
特にカウンターに倒れ込んでから挙動不審の龍華がなんとなく気になり、何があったんだと声をかける。
龍華「…………………ツに………」
貴利矢「え?」
龍華「他にも屋上で食らった麻婆豆腐とダークマター………麻婆豆腐が…お……お……俺のパンツに…………//////」
顔を赤らめながら立ち上がると、スカートの裾をつかんでパンツを貴利矢に見せようとした。
貴利矢「わ゛あああぁぁぁぁぁ!!ど、堂々と見せようとすんな!!何で陰陽師の俺がJCのパンツ見なきゃなんねぇんだよ!!お前は俺の性欲でも求めてんのか!?」
龍華「冗談なのに……もうあの麻婆豆腐のせいでさ、あそこは辛いわパンツはニチャニチャするわで気持ち悪りぃよ………口ん中も甘いし、俺のコーヒーで口直ししたい気分だ………」
遠呂智「だが、ダークマターに捕まらなくてよかった…」
貴利矢「………………あー、コンビニで何か買ってくるか?」
遠呂智「頼む……俺と龍華は…………しばらく寝る……………………」
そして遠呂智はカウンターに横たわったまま意識を失うように眠ってしまった。
龍華「お、俺は……ひとまずシャワー浴びてから寝るよ……麻婆豆腐とダークマターがメッチャこびりついてるし……………」
龍華はそう言いながら頼りなげな足取りで風呂場へ向かっていった。
貴利矢「…………ホント、あの学園に常識とかあんのかな?」
麻由美「私が聞きたいよ…………」
こうして貴利矢と麻由美は疲弊した遠呂智と龍華のために一緒に弁当を買いにコンビニへ行くこととなった。
遠呂智「ん………誰だ?」
ところがその数分後、少し目を覚ました遠呂智は自分と龍華以外の誰かが店内にいることを察した。
遠呂智(泥棒か?だったら俺のやり方で散々痛めつけてから………)
カウンターから立ち上がり、少し殺気立ちながら包丁を手にすると、周りを警戒する。
実は遠呂智、こう見えて幼い頃からこれでもかと言うほど本の知識と護身どころか無慈悲に殺すほどの格闘術を身につけていた。といっても彼は親の顔すら知らないどころか会ったこともない。その代わり格闘術を教えてくれた師匠が育ててくれた。今はもういないが、それでも師匠のおかげで今の遠呂智がいた。
遠呂智「…………………」
気配がした場所へ慎重に動く遠呂智。そして彼の目に入ったものは自分にも龍華にも紺子にも見覚えのある人影だった。
人影は遠呂智に襲いかかったが、いとも容易くかわされた。しかも背負い投げで床に叩きつけられた挙げ句、包丁を首元に突きつけられる。
だが遠呂智には人影に襲われた瞬間からすでに正体を知っていた。異生神妖魔学園の者なら誰でも知っている学園長だ。
そう………低身長にも関わらず巨乳で∞の字にねじ曲がった角の持ち主のツインテールでセーラー服を着た異生神妖魔学園の学園長、喰輪辰蛇である。
辰蛇「お、遠呂智君………そ、その包丁しまって?メッチャ怖いんですけど………」
不審者ではなかったから安心したものの、レクリエーションの惨劇を思い出したのか、急に腹が立ってきた。
包丁を近くのテーブルの上に置くと、首めがけて殴りつけた。
辰蛇「ゴバッ!?な、何で…………」
それだけでは飽き足らず、遠呂智は辰蛇の角をつかんで自分の身長ぐらいの高さまで持ち上げると、鼻先が当たりそうなほど顔をギリギリまで近づけながら睨み、こう言った。
遠呂智「学園長テメェよぉ、何だあのレクリエーションは?何だ『デンジャラス・逃走中』って?おかげでゴムパッチン2回も食らったわ、龍華はダークマターと麻婆豆腐とラスグッラを味わう羽目になったんだぞ!?どうしてくれんだ、あ゛ぁっ!?あいつの味覚が変わっちまったら責任取れるのかテメェ!!」
辰蛇「そ、そんなこと…い、言われても……」
遠呂智「とにかく、テメェには罰を与えてやる。こっち来やがれ」
辰蛇「いやああああああ!!痛いのは嫌だァァァァァァァァ!!」ジタバタ
遠呂智は辰蛇の角を持ったまま歩き、地下室へと続く通路へまっしぐら。辰蛇はこれから自分の身に起こる何かに恐怖し、悲痛な叫びをあげながら必死に両足をばたつかせる。
当然それは無駄な抵抗だった。いくら泣いても喚いても遠呂智の耳には全く入らなかった。
嫌がる辰蛇を地下室まで連れていった遠呂智は電灯を点け、彼女をテーブルに座らせ、棚から100枚の皿を取り出す。
辰蛇の目に入ったのは数十個ほど並んだ樽。しかし、それらを見るなり彼女はすぐに察した。この樽の中にある『何か』、ヤバイ気がする。
遠呂智「ウプッ……」
戦慄する辰蛇をよそに、遠呂智は樽のふたを開ける。すると樽の中からふたを開ける前よりさらに邪悪なオーラがこれでもかと言うほど溢れてきた。辰蛇の予感は当たった。そのオーラは遠呂智でも鼻と口を押さえてしまうほどだった。
少し吐き気を覚えるも我慢してふたを置くと、樽に入っているダークマターをおたまですくい上げ、皿に盛る。
辰蛇「ひ、ヒィィィィィィィィ!!?」
遠呂智「学園長は初めてか?『俺特製のダークマター』は。学園長にはこれを3分以内に100皿全部平らげてもらうぜ?」
辰蛇「無理無理無理無理!!こんなの食べたら絶対死んじゃうって!!」
遠呂智「あ、もし失敗したら龍華と同じ目に遭ってもらうぞ?ちなみに拒否権はねぇ。皿置いたらすぐ食え」
辰蛇「イィィィィィィヤァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
それから3分後………。
辰蛇「し、死ぬ………け、けど……遠呂智君の………ダークマター…………3分以内に…………完食………で………き………………」ガクッ
顔色は青黒く、口の中も真っ黒になり、そのまま椅子ごと仰向けに倒れて意識を失ってしまった。もちろんセーラー服はポッコリ膨れ上がった腹を隠せず、まくれてしまっていた。
遠呂智「…………マジで3分きっちりで完食しやがった」
龍華「どうせ失敗するって思ってたんだが……あれを完食できるとかヤベェだろ……」
この3分の間、着替え終えた龍華が遠呂智がいないことに気づき、どこに行ったのか探そうとすると地下室から辰蛇の悲鳴が聞こえた。
学園長!?驚いた龍華は地下室へ駆けつけたが、目の前の光景に思わず引いてしまった。そこには腹がポッコリ膨れ上がり、青黒い顔色で泣きながらダークマターを大量に食べさせられる辰蛇とダークマターを皿に盛りつける遠呂智の姿があった。
助けてと言わんばかりに辰蛇はダークマターが入った口から懇願するような声を出したが、遠呂智から事情を聞いた龍華は仕返しと言わんばかりに辰蛇の両手足を縛り、口をこじ開け、大量のダークマターを流し込んだり膨れ上がった腹やへそをくすぐったりなどしてメチャクチャに苦しませたのである。
そんなことがあったにも関わらず、辰蛇は100皿……いや、正確には100皿以上。3分きっちりで完食した後そのまま気絶し、遠呂智と龍華を戦慄させた。
遠呂智「…………ダークマター完食させたからこれぐらいで許してやるか」
龍華「俺、しばらくダークマター見たくねぇ…」
遠呂智「…………俺もだ」
そうして気絶した辰蛇を置いて地下室から出ると、自分の部屋に戻って眠ったのであった。
レクリエーションから翌日、アルケーが言っていたように5連休が始まった。
自転車に乗った紺子と一海はきっと閉店中であろうEVOLUTION SPACEへと向かっている。何しろ彼らも昨日のデンジャラス・逃走中の影響で疲れていたのだ、そのままぐったり寝て次の日にはすっかり元気になって働いているかもしれないと思ったのだろう。
だが紺子たちは知らなかった。まさかあの店で意外な人物に会おうとは。特に一海が知っているあの男と出くわそうとは。
紺子「あー、昨日ホント死ぬかと思った……」
一海「出雲姐ちゃんが僕たち置いて逃げるからでしょ?こっちもひどい目に遭ったんだから………」
紺子「そりゃ悪かったけど………で、EVOLUTION SPACEは閉店中かな?」
一海「たぶんそうじゃないかな?龍華は胸焼けするほど気持ち悪がってたから保健室に連れていかせたけど」
紺子「あいつ何食ったんだ…?」
インドの菓子、ラスグッラだ。
話しているうちにEVOLUTION SPACEに到着した2人。すぐに扉にかかっている看板を見てみる。
【OPEN】
紺子「あ、やってる……」
一海「2人共、大丈夫かな?」
紺子が扉を開け、店内に入る。すっかり元気になった遠呂智と龍華が仕事に取り組んでおり、カウンターには貴利矢が座っていた。
遠呂智「よう紺子、カズミン」
紺子「って陰陽師!?何でこんなトコに陰陽師が!?」
貴利矢を見るや否や驚く紺子だったが、一海は微動だにしない。紺子の声を聞いた貴利矢はすぐに2人の方を向いた。
貴利矢「お?そこにいる2匹は妖狐かな?なーに、警戒すんな。まずは軽い自己紹介ってことで。自分、『言峰貴利矢』。陰陽師やってる。ウェーイ、仲よくしようぜ?」
紺子「い、出雲………紺子です………(チャラっ!?この陰陽師チャラくね!?)」
貴利矢「紺子か。で、そっちの……………え?」
いつもチャラチャラしている貴利矢だが、一海を見た途端急に静止した。紺子はもちろん、遠呂智と龍華も困惑する。
龍華「貴利矢?カズミン?2人共どうした?」
貴利矢「……あー、紺子?ちょっとこの子貸してくれ。ちょっと外で話させてくれねぇか?」
紺子「え?いや、何勝手なこと…」
一海「出雲姐ちゃん、大丈夫だよ。この陰陽師だけど、信用できるから………」
紺子「??????」
さらに困惑する紺子だったが、一海と貴利矢は気にせずEVOLUTION SPACEの外に出た。
紺子「……何なんだあいつ?」
遠呂智「言峰貴利矢。文字通り陰陽師なんだが、あることがきっかけで裏切り者扱いされた人間さ」
紺子「あることって?」
遠呂智「何でも、ある妖狐を守るために襲ってきた陰陽師を撃退したんだってよ。親はその陰陽師に殺されたが―――――」
紺子「ん?ちょっとストップ、遠呂智先輩。何て言ったんだ?」
遠呂智の話に何か引っ掛かったのか、紺子の狐耳がピョコンと動き、彼の話を遮るように止めた。
遠呂智「何てって、ある妖狐を守るために―――――」
紺子「そこじゃなくて後の方!」
遠呂智「………『親はその陰陽師に殺された』のトコか?」
紺子「………カズミンの奴、確か私に出会った時『父さんと母さんが死んだ』って言ってたような」
龍華「……………まさか……貴利矢が言ってた妖狐って……………!?」
紺子「とりあえず聞き耳するか」
遠・龍「「そうしよう」」
3人は扉に寄り添うように耳をくっつけた。ところがその3人の他にもう1人聞き耳を立てている者がいようとは。
辰蛇「な、何の話………!?」プルプル
昨日遠呂智と龍華にダークマターを100皿以上食べさせられた辰蛇が震えながら聞き耳を立てていたのだ。
紺子「ゲッ、学園長!!また何か企んでんのか!?」
何しろ紺子も昨日のレクリエーションで散々な目に遭ったのだ。彼女にも恨まれても致し方なし。
突然現れた辰蛇に紺子は拳を握りしめる。
龍華「あっ、おい待て!今学園長を殴ったら!」
龍華が止めようとしたが、時すでに遅し。紺子の拳が辰蛇のみぞおちをとらえていた。
辰蛇「グボッ!?」
龍華「うわぁ、よりによって腹パンか………」
辰蛇「オゲェェェェエエェエェエエエエエェェェエエェエェェェェェエエエェェェエエェェエェェェ!!!!」ゲボボボボボボボボボボボボボボボ
紺子「うわっ、何だこりゃ!!何で学園長こんなに吐いてんだ!?」
みぞおちを殴られた辰蛇の生暖かくどす黒い吐瀉物が床に広がる。
龍華「この学園長、マスター特製のダークマターを3分きっちりで完食したらしくてな。俺もマスターもドン引きだったぜ……」
紺子「ダークマター食ったの!?」
遠呂智「正直完食するなんて思わなかったんだ……で、完食の褒美としてお仕置きはそこまでにしたんだが、おかげでトラウマが…………」ガクガク
紺子「遠呂智先輩怯えすぎ!?」
龍華「とりあえず学園長はそっとしといてやれ。いいな?」
紺子「お、おう…」
ところ変わってEVOLUTION SPACEの外。一海と貴利矢は少し気まずそうな空気になっていた。
一海「………………」
貴利矢「………なあ、確認したいんだが…………お前に両親とかいるか?」
一海「…………いない。僕のせいで陰陽師に殺された」
貴利矢「お前を助けに来た陰陽師とかはいたか?」
一海「うん………ちょうどあなたみたいな陰陽師に」
貴利矢「…………そう………か……………」
場が沈黙の空気に包まれる。すると貴利矢が一海に顔を見せたと思いきや、急に土下座した。
貴利矢「すまなかった…!」
一海「え?」
貴利矢「本当にすまなかった!!俺の……俺のせいでお前の両親を奪ってしまった!!」
一海「え、急にどうしたんですか!?何であなたが謝るんですか!?」
突然土下座した貴利矢に戸惑う一海。それでも貴利矢は懺悔を続ける。
貴利矢「元を辿れば…俺があの陰陽師をしっかり見てやっていればこうはならなかったんだ!!」
貴利矢は土下座しながら叫んだ。何しろ一海を助けただけで他の陰陽師に裏切り者呼ばわり。それだけならまだ大目に見てくれたものの、そもそも一海とその両親を殺した陰陽師を殺しかけた。相棒と妖怪退治に行ったことは一海の両親を殺しに行ったのと同じことだ。たぶん許してくれないということはわかっていた。それでも貴利矢は謝罪の言葉を続けた。
一海は気にしていないよというような顔で彼の肩に手を添える。
一海「もういいよ、貴利矢さん」
貴利矢「え……?」
一海「もう懺悔しなくていいよ。確かにあなたのせいで僕の両親は殺されたけど、その代わり出雲姐ちゃんが拾ってくれて今は幸せなんです」
貴利矢「………けど……けど俺は!」
相棒を殺しかけたせいで命を狙われるばかりか家まで燃やされた。自分にできる償いなんてないと言おうとしたが。
一海「だったらお願いがあるんだ」
貴利矢「何だ?何なんだ?俺に償えることがあるなら言ってくれ!」
一海「…………もし、もし僕が僕じゃなくなって『玉藻前』になってしまったら…………殺してほしいんだ」
紺・遠・龍「「「はぁ!!?」」」
一・貴「「!?」」
店内からの大声に2人はビクッとした。紺子たちが聞き耳を立てていたことを知らなかったのだ。
EVOLUTION SPACEの玄関の扉がバタンと強く開かれ、紺子が一海の肩を強くつかんだ。
紺子「お前、自分が何言ってるかわかってんのか!?せっかく助けられた命を散らす気か!?」
一海「わかってるよ!!わかってるから………わかってるからこそ怖いんだ…………もしこの尻尾の色が戻らなかったら、玉藻前が何をするかわかんない………その時には僕は死んでるかも―――――」
紺子「ふざけんじゃねぇよ!!!」
バチンッ!!!
一海「!?」
紺子が一海の頬を思いきりひっぱたいた。
紺子「だったら私が正気に戻してやる!!何年だろうと、何十年だろうと、何百年だろうと、何千年だろうと、この世に私とカズミンしかいなくなっても!!絶対に!絶対にお前を正気に戻してやる!!誰も殺させやしねぇし、自殺なんてさせねぇ!『玉藻前』が何をやらかそうと、私が全部止めてやらぁ!!」
一海「出雲……………姐ちゃん………………!」
辺り全体が沈黙に包まれた。そして一海は紺子を抱きしめると、しばらくの間静かに泣いた。
???「貴利矢が両親を亡くした妖狐への懺悔か……うーむ、これは……人と人ならざる者が共存する道も見えたかもしれぬなぁ……」
一方、とある場所では1人の老人が紺子たちの話を興味深げに聞いていた。
その老人は貴利矢と同じく陰陽師の服装をしていた。
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