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異生神妖魔学園

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音楽も先生もバカにするのは控えるべし

武道館でドタバタ騒ぎが起こっているその頃、一海たち1年のクラスは音楽室で授業を受けていた。合唱の授業だった。
担当は『南原透』というどこかおかしな女教師だった。読みは《なんばら》ではない。《ねんぶら》だ。外なる神『トルネンブラ』から取って《ねんぶら とおる》。
見るからに怪しげな雰囲気を漂わせ、あり得ない方向にねじ曲がった指揮棒を振り回しているが、対照的に素晴らしい音色を奏でていた。


南原「いや~、皆さん素晴らしい歌声だったですよ。振るだけで音楽を奏でられる指揮棒は私でも感動しちゃうですよ」

ココ「南原先生の指揮上手すぎて緊張しちゃいましたぁ…」

南原「フフフ、かの有名なモーツァルトやバッハは私の指導を元にあの才能を開花させたのですよ♪」

藤一「そういうバレバレな嘘やめてくれます?」

南原「ちょっと、さっき嘘とか言った子起立ですよ。私の音楽の才能をバカにする子は痛い目見せてやるですよ」

藤一「先生?ちょ―――――」

南原「バカにした奴はこうやってジャーマンスープレックスの刑に処すですよー!!」

藤一「ゴギャアアアアアアアアア!!」


床に投げつけられた。
音楽をバカにする者は許さない。バカにした者はこうやってジャーマンスープレックスをかける。それが南原にとってのモットーである。


胡「先生ェェェェェェ!?」

来転「た、体罰だ……!!」

無亞「………今日も平和だな」

一海「平和じゃないでしょ!?藤一プロレス技かけられたんだよ!?」

無亞「そんなに騒ぐんじゃないよ。南原先生にとっては当たり前のことなんだぜ?まっ、俺はやられる前にやる方だがな。例えばこんな風に……」


来転に目を向ける無亞。口元を歪める。


無亞「さあ、出番だぞ。『ティンダロスの猟犬』」


音楽室の隅から青黒い煙が出てくる。それが凝り固まってある動物の姿をかたどる。
犬?いや、普通の犬とはかなり違う。無亞が言っていた猟犬とも言いがたい。
そう、その名は古代ギリシア時代から伝わりしクトゥルフ神話の怪物『ティンダロスの猟犬』。底なしの食欲の持ち主で非常に執念深く、獲物独特の匂いを知覚し、それを捕らえるまでどこまでも追いかける。例え時空を超えてでも……………。


来転「まさか…また大声出そうとする俺を黙らせようというのか……!?」

無亞「そりゃそうさ、平和主義者のオーク野郎。また言うんだろ?あのセリフをよォ」

来転「くっ……………殺せぇぇぇぇええええぇえぇぇえぇえええええぇぇえぇえぇ!!!!!」


いつもの口癖を叫び、同時にティンダロスの猟犬も彼に襲いかかる。


来転「恋愛できなくなってもいいから殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


来転は転がるように逃げ、ティンダロスの猟犬はおぞましい鳴き声をあげながら彼を追っていった。
それを見ていた無亞はいたずらそうに笑っている。


無亞「ヘッ、どこまで逃げれるか見ものだぜ。これで静かに授業受けれるな」

彩「…………」

ココ「あ……あ……ああああぁあぁあぁぁぁああああ!!」

無亞「どうした、ココ」


ティンダロスの猟犬を見て大声をあげるココ。周りが次々と心配をよそう声をかける。
しかしココの口から飛び出したのは。





ココ「今の犬みたいなの……すっごくかっこよかったですぅ!!」

ココと無亞と南原以外全員『はあぁ!?』


彼女には恐怖という文字がなく、逆に目を輝かせていた。さらに自分もあんな使い魔が従えたいと言い出したものだから、もう止まらない。
だがあの怪物を見た麻由美と埋は別の意味で止まらない。恐怖で体の震えが止まらないのだ。


麻由美「無亞君が出したあのティンダロスの猟犬って奴……来転君が襲われたの見てかなり寒気が………」

埋「私もクトゥルフなんてちょっと小耳に挟んだぐらいですから………」

無亞「ん?お前らクトゥルフの怪物初めて見たのか。安心しろ、南原先生もクトゥルフ神話に出てくる神だから」

南原「うふふ、その通りですよ無亞君!私は古代より音楽を愛し、音楽に愛された外なる神『トルネンブラ』。さっき『嘘やろ?』とか言った藤一君にジャーマンスープレックスをかけたのは私をバカにしただけではないのですよ。私がクトゥルフ神話の外なる神であることを知らないことも理由に入るのですよ!オーッホッホッホッホッ!!」


高笑いする南原。だがトルネンブラを知らない者は藤一以外にも誰かいるはずである。


一海「………上機嫌のところすいません。僕も知らなかったんですが」

南原「あーら、一海さん?知らないとはどういうことか説明してほしいのですよ」

無亞(あ、これ終わったな)

霜(ていうか私も知らなかったんだけど…)


一海に当たりそうなほどギリギリ顔を近づける南原。少し恐怖するも、一海は答える。


一海「実は僕、クトゥルフ神話の神や怪物はいくつか知ってるんですが……南原先生のような外なる神はいくら僕でも聞いたことがありませんでした……」


そんな中、音楽室に来転を口にくわえたティンダロスの猟犬が戻ってきた。相当抵抗したのだろうか、来転の息づかいが荒い。


来転「くそぉ………いくら殺せって言っても全然殺してくれなかった………」ゼェゼェ

無亞「黙らせるためにやったからな。どうだ、『くっ殺せ』って言いたくなくなったか?」

来転「まだ言いてぇよ………そもそもこいつ犬じゃないだろ?逆に殺さなかったのが不思議でしょうがないぜ………」

無亞「俺が使うティンダロスの猟犬は誰も殺さねぇんだよ」

来転「誰も………殺さない………だと………?」

無亞「ああ」

来転「うそーん………」


自分でも意識が遠退いていくのがよくわかった。
一方、説明を終えた一海だが、藤一みたくジャーマンスープレックスをかけられる覚悟はしていた。





南原「素晴らしいッ!!」

一海「!?」

南原「正直に全部話してくれて先生嬉しいですよ!」


自分もジャーマンスープレックスにかけられる覚悟はあったのに。南原はまたしても上機嫌になった。


南原「またひとつクトゥルフの神を知るのはとても勉強になるですよ!私以外にもそういった先生や生徒はたくさんいるから暇な時聞いてみた方がいいですよ!」

一海「え…じゃあ無亞の種族って……」

無亞「旧神だよ。俺もクトゥルフの神さ」


一方、稚童は南原を見ていた。気になることがあるようだ。


稚童「………」

埋「どうしたんですか?先生の方じっと見て…」

稚童「いや…白髪混じってるから年ごまかしてるのかなって」


その瞬間、南原の鋭い視線が稚童に刺さった。


南原「…………のですよ」

稚童「え……え……?」

南原「私はまだ…………若いのですよッ!!」

稚童「うぎゃああああああああ!!」


南原の投げつけた指揮棒が稚童の額に刺さった。
無論稚童は悲鳴をあげ、額から出血する。


南原「白髪が混じってるからって私の年齢を気にするとか言語道断!!音楽をバカにする子も年齢聞く子も絶対許さんですよ!!」

稚童「ぞ……ぞれはぁ……」


ふらつきながらもしゃべろうとするが、彼の話も聞かず後ろからつかむ。


南原「あんたもジャーマンスープレックス食らいやがれですよー!!」

稚童「■■■■■■■■■■■■■■!!!!」










音楽室に声にならない悲鳴が響き渡った。
やがて静かになり、床には逆さに埋められ痙攣している稚童がいるだけだった。


南原「…皆さん、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんですよ。音楽一筋なので昔からこういうタイプなのですよ。こういった暴力も当たり前で怖がる人もいるかもしれませんが、それでも頑張って授業を受けたいと言うのなら………私も応援するですよ」

メリー「先生………」

胡(なーんかさっきから2年と3年の先輩の悲鳴がここまで聞こえてくるのは気のせい?)










合唱の授業は続けられ、やがてチャイムが授業終了を知らせる。
号令が終わり、教室に戻る一海たちだが、途中紺子たち2年の先輩たち数人と偶然鉢合わせした。


一海「あっ、出雲姐ちゃん。もう授業終わったんだね」

紺子「うん……マッチョマンの方あまりにもひどかったよ。体操する時なんかズボン破りやがった!」

龍哉「宇佐間先生の脳筋っぷりおかしすぎるぜ…フェンリルの大狼先生のドジにも参ったもんだ。転んだ時なんか犬みたいな声出して涙目になってたし、去年なんか爆笑しちゃったな。男子更衣室に入ってきたもんでさ」

一海「……この学園ろくな先生がいないんだね」

ディーゴ「真面目な先生だってちゃんといるぞ。うちの担任のヴォイエヴォーテ先生とかな」

紺子「言っとくけどこいつ昔蒸気機関車だったから運動神経抜群なんだぜ。宇佐間先生みたいな脳筋バカには劣るけど」

ディーゴ「誰が脳筋じゃゴラァ!!!喧嘩売っとんのかぁ!!!」


鼻から煙を出しながら憤るディーゴ。龍哉が以前舌寺に決めた龍王連撃打を出そうとする。


龍哉「また壁ぶち破るってんなら……俺が相手してやるぜ。今すぐ突進をやめるか、俺と喧嘩してお互い校長先生に呼び出されて反省文書く羽目になるか」

ディーゴ「う…………」


龍哉の睨みにディーゴは少し怖じ気づき、同時に怒りが収まってくる。


ディーゴ「…………くそっ。司がトラウマになったあれを出すとは……」

龍哉「いくら運動神経がよくても俺の龍王連撃打に劣るんだから、たまには鍛えろ」

紺子「ん?」

一海「どうしたの?」

紺子「気のせいかな…なんか学園長の悲鳴が聞こえたような気がした」










1階では紺子の言う通り、放送室には逆さ吊りにされた辰蛇がいた。もちろんスカートはめくれ、パンツが丸出しになっている。
目の前には悲鳴を聞いて駆けつけてきた校長のティアマトこと『アルケー・ティアランド・ケイオス』が唖然とした表情で立っていた。


アルケー「が、学園長……!?」

辰蛇「遠呂智君にやられました…………許人君のペットに手出したのと校内放送でいたずらしようとしたのが原因かもしれない…………………」

アルケー「いや、そりゃそうなりますよ。ていうか人のペットに手出すとかどういう思考回路なんですか?」

辰蛇「でもあの『向かって右側をご覧くださ~い』は私じゃないんだけど………さっき放送室に入ろうとしたら遠呂智君に捕まって事情聴取されて、洗いざらい全部話したらこのようになったのよね…………」

アルケー「学園長………………とんでもないバカですね」

辰蛇「あえ!?ち、ちょっと…アルケー校長!?どこ行くの!?お願い下ろして!置いてかないで!ずっとこのままなんて嫌だー!!このまま吊るされてたらウロボロスの私でも死んじゃうよぉぉおおおぉおおおお!!」


辰蛇の叫びを無視するアルケー。ドアを閉めても彼女の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。 
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