歪んだ世界の中で
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第十六話 はじめての時その十五
「暴力を振るうのです」
「僕、実際にそういうことを言う人に殴られたことがあるよ」
「ああ、中学校の時の」
「うん、平屋先生ね」
「あの人は酷かったですね」
「そうだよね。何かっていうと暴力を振るってね」
「しかも下品な人でした」
そうした人間が多いのも教師だ。教師が聖職者というのは架空の言葉になってしまっている。これが日本の教育の呆れ果てた実情なのである。
「理不尽なことばかり言っていて」
「野蛮だったよね」
「腕力だけの教師でした」
こうした教師が幅を利かせられるのも日本だけの怪奇現象である。
「あの先生ですか」
「確かもう退職したんだったっけ」
「これまでやってきた暴力事件が明るみに出たそうですね」
「それでなんだね」
「はい、懲戒免職になったそうです」
それによりだ。正当な社会的制裁を受けたというのだ。
「そうなったとか」
「当然だね。むしろね」
「教師でいたこと自体がおかしかったですよね」
「だよね。あの人は」
「本当に。おかしかったですから」
「学校の先生ってさ」
どうなのかとだ。希望は真人に話した。
「そういう人多いのかな」
「そうかも知れないですね」
「やっぱりそうなんだ」
「僕も。あの人を見ますと」
そう思えるとだ。真人も言うのだった。
「他にも小学校や中学校でいましたよね」
「うん、おかしな先生は結構いたね」
「ニュースを聞いていましても」
彼等の身近だけでなくだ。世間でもだというのだ。
「先生の犯罪行為は多いですからね」
「不思議だよね。何で先生ってそういう話が多いのかな」
「日教組のせいでしょうか」
この組織の名前もだ。真人は話に出した。
「そのせいでしょうか」
「日教組、確か」
「先生の労働組合です」
「あそこって確か」
「はい、北朝鮮が教育の理想ですから」
「北朝鮮っていうと」
どういった国かはだ。希望もよく知っていた。
「独裁国家だよね」
「殆ど漫画に出て来る様な」
「そうだよね。とんでもない国だよね」
「将軍様だけが贅沢をしている国ですからね」
「軍隊ばかり優先されててね」
所謂先軍政治だ。まずは軍隊ありきという国なのだ。
「国民は餓えててね」
「あんなとんでもない国は他にはないですよ」
「けれどそんな国がなんだ」
「日教組の理想です」
「怖いね」
希望はその現実についてだ。しみじみと述べた。
「それが一番怖いね」
「北朝鮮の軍服を着た人が学校の先生なら」
「そんなに怖いことはないよ」
苦い顔でだ。希望は言った。
「本当にそう思うよ」
「僕もです」
そしてそれは真人も同じだった。
「だからああした先生もいたんだと思います」
「北朝鮮じゃ暴力って普通なんだ」
「強制収容所で行われているらしいですね」
その暴力がだというのだ。
「それも日常的に」
「言論の自由もないから」
「はい。ですから」
「嫌な話だね。けれどこの学校は」
「私立ですからね」
八条グループが経営しているだ。完全な私立学校である。
「公立とは違いまして」
「公立だと日教組の力が強いんだ」
「はい、公立の方がです」
「それは何でかな」
「組合を作りやすいからです」
そして公立同士の横の連帯もできるからだ。公立の教師は公務員となる。公務員は本来は組合に参加できないが日教組はあれこれ理由をつけて押し通しているのだ、
「ですから」
「それでなんだ」
「そうです。しかし私立では」
「日教組の力が弱くなる」
「その学校の経営や教育方針に従って教師を選びますから」
それ故にだというのだ。
「日教組の教師は少ないです」
「成程、それでなんだ」
「私立でよかったですね」
また言う真人だった。
「本当に」
「そうだね。もうあんな先生には二度と会いたくないね」
「僕もです。暴力は何も生み出しません」
この現実をだ。真人は遠い目で述べた。
「そうしたものに頼る教育もまた」
「何も生み出さないね」
「そう思います」
こうした話をしてだった。そのうえでだった。
希望は今はその新しく入った写真部の部室でその昼を過ごした。そうしてそのうえでだ。真人とも絆を深めていった。無二の親友とのそれもまた。
第十六話 完
2012・5・4
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