歪んだ世界の中で
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第十六話 はじめての時その一
第十六話 はじめての時
希望は千春と共に商店街の中を歩く。そこはやはり人が多い。
しかも多くの様々な店が左右に並んでいる。その店の一つ一つを見ながらだ。
千春は目を細めさせてだ。こう言うのだった。
「やっぱり商店街っていいよね」
「そうだね。それでこの商店街は」
「久し振りだよ。それでね」
「久し振りに見てなんだ」
「凄く奇麗で賑やかになってるから」
だからだとだ。千春は左右を見回しながら話していく。
「いるだけで楽しいよね」
「だよね。最近商店街もね」
どうかとだ。希望は少し寂しい顔になって述べた。
「結構寂れてるところが多いからね」
「そうだよね。神戸でもね」
「車道に。お店が移っていって」
「こうした商店街にお店はなくなっていってるよね」
「シャッターが閉まってね」
閉店していっているというのだ。要するに。
「駅の前とかにある商店街がそうなっていって」
「寂しいよね。本当に」
「うん。けれどこの商店街は違うよね」
「八条鉄道の商店街は賑やかなんだ」
八条鉄道の駅の傍にある商店街はだというのだ。
「こうしてね」
「やっぱり。あのお家ってちゃんとしてるのね」
「会社の経営がしっかりしてたら商店街にも影響するんだね」
「そうなんだね」
「僕達あのお家が経営してる学校に通ってるけれど」
他ならぬ八条学園だ。だからこそ希望も思い入れがあるのだ。八条家に対して。
「やっぱり違うよね」
「最近電車の会社もおかしいよね」
「近鉄は特にそうらしいね」
希望はこの会社のことをだ。ネット等で聞いていた。
そしてどういった状況なのかをだ。今千春に話すのだった。
「もう何でもかんでも。遊園地も劇団も劇場も潰してね」
「野球のチームも手放したよね」
「本社の社長が滅茶苦茶言ってね。それでね」
「商店街もよね」
「寂れてるし百貨店も減って」
尚且つだった。それに加えて。
「赤字続きの何とか村だけ残ってね」
「そんな状況なのね」
「随分酷いらしいよ」
それが近鉄の惨状だというのだ。
「もうどうしようもないらしいよ」
「そんなに酷いの」
「僕は近鉄の路線にはいないけれどね」
話は聞いているというのだ。その近鉄の。
「もうこれからどうなるんだろうね」
「そんな状況ならどうしようもないよ」
「千春ちゃんもそう思うんだ」
「うん、そう思うよ」
実際にそう思うとだ。千春も希望に答える。
「そんな会社にいる人って大変だよね」
「そうだよね。社長、今は会長だけれど」
「その人が酷いのね」
「球界再編の騒動で特に酷かったらしいから」
その発言があまりにも常軌を逸しているということで世論を唖然とさせたのだ。もっともこの騒動ではそもそもコミッショナーがあまりにも無能だったが。
「そんな人がトップだとね」
「大変ね」
「八条グループは本当にいいよ」
「総師さんがしっかりしてるのね」
「僕達の会社の理事長さんでもあるけれどね」
「そうよね。あのお家ってね」
ここでだ。千春はまた言ったのだった。
「昔からね」
「しっかりした人達ばかりなんだね」
「そうだよ。昔からね」
「らしいね。聞いた話だとね」
千春の言葉の中にあるものに気付かないままだ。希望は言った。
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