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歪んだ世界の中で

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第十五話 幸せの中でその九

「それにハンバーグとかオムライスで」
「サラダにアイスクリームもつくよ」
「それだと最後にね」
「コーヒーがいいっていうんだね」
「洋食を食べて最後にコーヒーを飲むとすっきりしない?」
 魅力的な微笑みでだ。千春は希望に尋ねる。
「それはどうかな」
「ううん。言われてみるとそうだね」
 千春に言われてからだ。希望はまた少し考えた。
 そしてそれからだ。こう彼女に言葉を返した。
「洋食だからね」
「最後はそれだよね」
「うん、コーヒーだね」
 希望は微笑んでだ。千春に同意した。
「それがいいね」
「それじゃあコーヒーにしよう」
「うん、じゃあね」
 こう話してだ。そのうえでだった。
 希望がウェイトレスにコーヒーを頼んだ。勿論数は二つだ。
 まずはハンバーグが来た。それとサラダだ。サラダにはレタスにスライスしたトマト、ラディッシュ、それとオニオンもあった。ドレッシングはフレンチだ。
 ハンバーグはかなり大きい。そのハンバーグを見て言う希望だった。
「ここのハンバーグって四〇〇グラムあるんだ」
「四〇〇?」
「そう、かなり大きいでしょ」
「そうよね。ハンバーグの大きさだとね」
 そうだとだ。千春も答える。見ればステーキ用の鉄板がある皿の上のハンバーグはかなり大きい。そしてその上には目玉焼きがありもうデミグラスソースがかけられている。そしてそのハンバーグの横にはマッシュポテトが置かれている。ハンバーグのブラウンとマッシュポテトの白、鉄板の黒と木のダークブラウンという色彩だ。
 そのハンバーグを見てだ。千春も言った。
「本当に大きいよね」
「そうだよね。じゃあこのハンバーグをね」
「二人で食べよう」
 希望はここでも笑顔だった。
「大きいだけじゃなくて美味しいよ」
「見てるだけでわかるよ」
 そして匂いでもだ。千春はわかるというのだ。
「このハンバーグ凄く美味しいよね」
「じゃあ食べよう」
「その前にスープ飲もう」
 ハンバーグにはスープもついていた。それはコーンポタージュだった。千春はハンバーグを食べる前にだ。まずはそれを飲もうというのだ。
「これね。最初にね」
「そうだね。まずはね」
「スープを飲んでから食べよう」
 こう言ってだ。千春は実際に白い皿の中にあるその薄い黄色のポタージュに銀のスプーンを入れてそうして赤い口の中に含んだ。希望もそうした。
 温かく優しい味を味わってだ。こう二人で言った。
「美味しいよね」
「そうだよね」
「うん、このお店の味ってね」
「味わうと穏やかな気持ちになれるよね」
「飾ってないんだ」
 その味がだというのだ。
「全然ね。それでね」
「味わうと穏やかな気持ちになれるのね」
「そうなんだ。家庭の味っていうかな」
「家庭。お家で作るハンバーグみたいな」
「ほら、フランス料理だと贅沢じゃない」
「うん、あのお料理はね」
「けれど洋食は違うから」
 洋食は洋食、フレンチはフレンチだ。洋食は明治維新から西洋の料理を取り入れたものだ。だから洋食だ。しかしそれはもう日本の、しかも家庭の味になっているのだ。
 だからその洋食だからだとだ。希望は言うのだ。
「飾らなくていいからね」
「だからこうして実際になのね」
「そう。このお店は飾ってないんだ」
「だからこの味なんだ」
「美味しいよね」
 スープを飲みながらだ。千春は微笑んで言う。
「とてもね」
「うん、本当にね」
「スープをまず飲んでね」
 そしてそれからだった。 
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