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歪んだ世界の中で

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第十五話 幸せの中でその五

「そうするんだよ」
「それで僕は少しずつかも知れないけれど」
「もっともっとよくなってくよ」
「そうなるんだね。じゃあ」
「うん、千春とあの人の言うことは聞いてね」
「それとおばちゃん達も」
 彼にとっての心の親達、おばちゃんとぽぽちゃんのことも忘れていなかった。
「そうだよね」
「希望のことを大切に思っている人達の言葉はね」
「そうした人かどうかを見極めるのも」
「大事だよ」
 千春はこのことも言った。
「希望にとってね」
「それが賢いってことかな」
「賢いっていうのはお勉強ができることじゃないから」
「また別のことだよね」
「そう。賢いっていうのは人間としてね」
 どうかというのだ。それは。
「だから。希望はね」
「賢くなることが大事なんだね」
「うん。学校の成績はよくなったから」  
 だが、だ。それはそれだけだというのだ。
「後はね」
「そうだよね。じゃあ僕はそっちも勉強していくよ」
「そうしよう。千春も一緒に勉強して賢くなるから」
「一人で賢くなるんじゃないんだね」
「そうだよ。希望は一人じゃないんだよ」
 だからだというのだ。賢くなることもまた、だというのだ。
「千春と一緒に賢くなろう」
「それじゃあね。じゃあ今度の日曜は」
 その日曜のこともだ。希望は話した。
「アクセサリー買いに行こう」
「お店の名前はエルザっていうのね」
「そう。ただこの名前は」
 エルザという名前についてだ。希望はふとだ。首を傾げさせながら言った。
「少し悲しい感じがするかな」
「どうしてそう感じるの?」
「いや、何となくだけれど」
 だがそれでもだ。感じるというのだ。
「不思議にね。そう思うよ」
「そうなの」
「何か。聞いてはいけないことってあるのかな」
 エルザの名前からだ。そうしたものを感じるというのだ。
「そういうことって」
「そうね。あるのかも知れないね」
「だよね。人の秘密ってあるから」
「希望は千春に隠してることあるの?」
「ないよ」
 素直にだ。希望は笑顔で千春に言えた。
「全然ね。何一つとしてね」
「千春もないよ。千春のお家はあのお山にあってね」
「そこで皆と一緒に住んでるんだよね」
「そうだよ。千春はあのお山で生まれて」
 にこりとしてだ。千春は希望に話していく。千春は確かに希望にありのまま、包み隠さず話している。しかし問題は希望がそのことをどう捉えているかだった。
 だが希望はそのことに気付いていない。そして千春も。お互いに気付かないまま千春はその希望に対して話していく。そうしていた。
「あのお山でずっと育ってきたんだよ」
「ずっとなんだ」
「そこで希望に会ったんだよ」
「あれっ、僕達って」
 ここでだ。希望は奇妙に思った。
「確か町中で会ったけれど。この神戸の」
「ううん、あのお山でだよ」
「そうだったかな」
「そうだよ。希望の勘違いだよ」
「そうなのかな」
 今度は真剣に考え首を捻りだ。希望は言った。 
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