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歪んだ世界の中で

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第十四話 新しい道その十五

「だからね。とてもね」
「美味しくなかったの」
「食べてる間ずっと文句や愚痴ばかりで」
「そんなの聞いて食べても」
「美味しくないよね」
「千春だって嫌よ」
 そうした状況でそうしたものを食べるのはだというのだ。
「絶対にね」
「だから。とてもね」
「美味しくなかったの」
「御料理って心だと思うよ」
 希望が至った考えだった。これは。
「そう思うよ」
「おばちゃん達の御料理にはそれがあるから」
「だから美味しいんだ」
「そうなのね」
「うん、それでこれからは」
「美味しいお料理が食べられるのね」
「それにね」
 さらにだと言う希望だった。
「お料理以外のこともね」
「それ以外のことでもなのね」
「心が篭もってるよ」
 おばちゃん達のやることは全てだ。そうだというのだ。
「本当に何でもね」
「そうよね。だったら」
「嬉しくて仕方ないよ」
 希望はその微笑みをさらに深くさせていく。
「心があるのっていいよ」
「希望は今までは」
「友井君がいてくれたけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「他には。本当に」
「冷たかったのね」
「うん、家でも学校でも」
 これまで生きてきただ。その二つの世界のことはもう希望にとっては過去のものだった。だがその過去は決して明るいものではなかったのである。
 それでだ。希望は一旦暗い顔にもなった。
「何よりも冷たかったよ」
「けれど今は?」
「今は違うよ」
 過去は過去でありだ。現在とはまた違っていた。過去と現在は確かに連続している、しかしそれでも同じものではないのである。
 それでだ。希望は今はこう言えたのだ。
「暖かいよ。おばちゃん達がいてくれて友井君がいてくれて」
「そうよね」
「それにね」
「それに?」
「千春ちゃんもいてくれてるから」
 千春も見てだ。希望は言えた。
「とても暖かいよ」
「千春もなのね」
「僕、こんな暖かい中にいるのってはじめてだよ」
 目を細めさせていた。
「冷たい世界はもう嫌だよ」
「そうよね。じゃあ一緒にいようね」
「うん、暖かい世界にね」
「それじゃあ。今日はもう遅いからプールはいいよね」
「そうだね。今日はね」
「明日にしよう」
 千春からこう提案したのだった。
「明日また一緒に泳ごう」
「そうしようね。また明日ね」
「そうね。けれど秋でも」
「秋でもって?」
「プールで泳げるんだね」
「そうだね。今は温水プールだからね」
 水が温かいからだ。それはだったのだ。
「普通に泳げるよ」
「昔は冬は泳げなかったからね」
 千春も過去の話をした。だが彼女の話す過去は希望の話す過去ではない。 
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