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それから 本町絢と水島基は  結末

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7-⑷

 帰省の前に家庭教師のお宅を訪問していた。幸一郎君の成績は、一応、めざす学校の合格圏内らしい。順調に成績は伸びているので、僕は安心していた。家庭教師にとって、成績が伸びないのは、一番辛いことだから。

「先生 僕は、公立の高校受けようと思うんだけど」と、彼は言ってきた。

「どうして このままで、いけば合格するよ 何か理由あるの」

「まだ、親に言って無いけど、僕は、この家を継ぎたいと思ってるんだ。高校出たら、料理の勉強したいと思ってる。だから、高い授業料払って、進学校に行く必要ないんじやない。親に負担かかるし」

「それは、早く、君の思いを伝えた方がいいよね 親だって、君に期待しているものがあると思うから よく、相談してみなさい。ただ、高校に入って、その間に将来の目標が代わることも有りうるってことだけは、頭に入れておいた方がいいよ」

「そうだよね 料理の才能ないかも知れないしね あと、子供のこと、あんまりかまってやれなくなるのも、嫌だな。僕も富美も、旅行なんて、修学旅行以外で行ったことないんだ。だから、富美なんて、先生と行った水族館の時、すごく喜んでいたよ あの時の写真、大切にしてるんだよ」

「お兄ちゃん 嫌だ そんなこと、言っちゃぁ」

 それまで、おとなしく独りで問題集をやっていた富美子ちやんが、反応した。

「旅行行けない子なんて、いっぱいいるから、それは普通だよ お父さんとお母さんは、君達の為に、一生懸命働いているんだからね 幸一郎君は、この一年で、すごく落ち着いたね」

「うん 勉強出来るようなって、色んな事も考えられるようになってきたんだ」

「お兄ちゃん 最近、私にも何だか優しいんだよ」

 僕は、男兄弟だったから、幸一郎君が羨ましかった。

「先生 海へ連れてって― 海水浴」と、富美子がすり寄ってきた。

「えー 僕は、もう、実家に帰るし、戻って来るのは8月末だから、夏が終わってしまうよ」

「そーなんだ つまんないなぁ」

「友達同士で行けば良いんじゃあない 孝弘君はどうしたんだい」

「あの子 ダメ 頼りないし、クラスも別になっちゃったから、あんまり、会ってないの」

「そうか 難しいんだね でも、共学だろ 気になる子が出て来るよ」

「うん 先生のような人、いると良いけどね」

「幸一郎君 僕からも、相談ごとあるみたいだ、と、言っておくから。自分が考えて、決めたことは、自分を信じて、ちゃんと伝えるんだよ そうしたら、相手にも通じる」

 僕は、帰り際、お父さんに、幸一郎君が相談があるそうなんで、聞いてあげてください、と、言って店を出た。




 
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