真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第110話 遼西の雄 前編
難楼を下し戦後処理を終えた私は上谷郡に歩兵五千、騎兵三千を残し五万五千の兵を率い郡へ向いました。
郡への道中、所属不明の烏桓族数騎と遭遇しました。
行軍中であった私達は兵に大休止を取らせると、私は陣幕にて来訪した烏桓族と面談することにしました。
彼らは私に目通りを求め、現在私の目の前に片膝をつき頭を下げています。
この場には冥琳と警護役に星、泉、瑛千が同席しています。
「面を上げよ。私が劉正礼である。私に目通りを求めたのはお前達か?」
「丘力居の名代、頓に存じます。お目通りの機会をいただきお礼を申し上げます」
烏桓族の女性の一人が私の前に一歩進み出て挨拶をしました。
「丘力居の名代・・・・・・。ということは・・・・・・お前達は遼西烏桓族ということか?」
真逆、こんなに早く遼西の烏桓族が私に接触してくるとは思いもしませんでした。
難楼の一件で私が異民族に対し無用な殺生は行わないと認知されたのかもしれません。
女性の奴隷を献上させはしましたが、彼ら異民族の歴史からすれば、それほど異端なことではないです。
その行為を快く受け入れるか別にして、彼らにとって私は交渉可能な相手と見たのでしょう。
しかし、対応が早過ぎる気がします。
「はい、その通りでございます。劉将軍におかれましては先の戦勝お喜び申し上げます。我が主、丘力居も劉将軍の勇猛さに尊敬の念を抱いております」
頓と名乗った女性は社交辞令を言いました。
彼女の顔を見ると肌は色白で髪は黒髪のストレート、瞳の色は漆黒で意思の強い光を讃えています。
本当に恋姫世界は有名武将が女性のレベルが高いです。
頓といえば、丘力居の後を継いだ大人の名前だった思います。
同姓同名の可能性もありますが、彼女が歴戦の戦士であるのは彼女の鍛え抜かれた無駄な肉などない容姿から理解できます。
「社交辞令はいい。本題に入れ」
「劉将軍、我ら遼西の烏桓族はあなた様に恭順の意を示します。その証として、献上品をお持ちいたしました」
頓は淡々と降伏の弁を述べました。
「丘力居は私に降伏するということか? 今まで、ざんざん幽州の民より略奪の限りをしつくしたお前達がどういう風の吹き回しだ? 見せかけの降伏ではあるまいな」
私は彼女が言った献上品の話は無視し、彼女に降伏の経緯を尋ねました。
丘力居の対応が早過ぎます。
まあ、私が郡に入り、白蓮達に合流してからでは遅いからでしょう。
丘力居の勢力は五千。
対して私達は白蓮と合流したら六万弱、遠征による兵の疲労はありますが数の上では私達が優位であることは変わりません。
我が軍に奇襲を行うにしても前回の私の用兵を鑑みれば、用心深い私が彼らの策に嵌る可能性は低いです。
ですが、それを理解するだけの知恵者が丘力居の元に入ればの話です。
そのような者が入れば、遼西の烏桓族が難楼と同じ末路を辿るのことは目に見えています。
ならば、出来るだけ好条件での降伏を望むはず。
それには一線交える前が一番でしょう。
「そのような恐れ多いことなど考えもいたしません。我らは劉将軍の武勇とあなた様に付き従う兵の精強さ感服し、抵抗するだけ無駄と考えただけにございます。劉将軍、どうか我らにご寛大な処分をお願いいたします。ですが、我らの言葉を信じれないのは当然のことです。先ほど申しました通り、その証に私を献上品としてお納めください。私は丘力居の従姉妹にございます。丘力居に一度叛意あれば、この私を如何様にも扱いください」
頓は私を真っ直ぐに見据え、言葉に淀みなく言いました。
「お前が献上品なのか?」
私は頓に素っ頓狂な声で言いをしました。
「はい、その通りにございます」
ありえない。
なんでこんなことになったのです。
難楼の一件で私は女好きの武将とレッテルを張られているのではないでしょうね。
頓が献上品を持ってきたというのに何もそれらしき物を持っていないのでおかしいなと思っていました。
真逆、使者自身が献上品とは想像もつきませんでした。
多分、彼女達は強行軍にここに向ってきたはず。
降伏の証に嵩張った物を持って、敵陣に向うなど自殺行為です。
使者を降伏の証の献上品とすれば、確かに妙案ではあります。
しかし、その証に自分の従姉妹を差し出すとは丘力居が本気である証と言えます。
私はこのような大胆な真似を即座に判断できる丘力居という人物に一度合ってみたくなりました。
判断するのに迷った私は横目で冥琳を見ました。
すると彼女は頷きました。
あれは受け入れろということでしょうね。
私は目で「断ってもいいか?」と訴えるように冥琳を見ました。
冥琳は目を伏せ、顔を左右に振りました。
「丘力居の降伏の意思はよくわかった。 いいだろう。遼西の烏桓族の降伏を認める。降伏の条件は追って沙汰する」
「劉将軍、ご無礼を承知で申し上げます。降伏の条件はこの場でお示しいただけませんでしょうか」
頓は私に降伏内容を求めてきました。
追って沙汰するでは内容がどうなるか分かりません。
「お前達の望む降伏条件を言ってみるがいい」
「我らが望みは今までの罪を免じていただきたく存じます。その代わりに劉将軍に成り代わり、遼東の蘇僕延を誅殺してご覧に入れます」
頓は私に虫の良い降伏条件を願い出てきました。
確かに幽州の東端である遼東郡まで遠征するのは骨が折れることです。
しかし、遼東郡を手中に治めることがこの私の目的です。
ですが、丘力居が私の幕下に加わるというなら話は変わります。
彼女を遼東の蘇僕延を見事討ち取れば、遼東郡の大守に任じてもいいです。
彼の地は遠い私の配下を置かずとも私と良好な関係を築ける人物なら誰でも構いません。
「そのことは信用できるのか?」
「必ずや劉将軍のご期待に叶う働きをしてごらんにみせます」
私は冥琳を見つめると彼女は口を開きました。
「頓と申したな。その話は信用できぬな。そもそもお前が丘力居の従姉妹であるかも信じるに値しない。お前の言葉のみでは信頼に足りぬ。遼西の烏桓族の今までの罪を全て免じろという無茶な要求をするのだ。それ相応の証を立てよ」
冥琳は厳しい表情で頓を睨みつけました。
「ご信用いただけぬのは承知のことです。この条件をお飲みいただければ、我が主が右北平の国境を越え、劉将軍の御前にまかり越します」
頓は冥琳の睨みなど意に介さず、冷静に受け答えました。
「右北平の国境を越えるだと・・・・・・。真逆、丘力居は既に郡の近くに居るのか?」
私だけでなく冥琳も驚きを隠さない表情で頓を見ました。
「はい、我が主は劉将軍に恭順の意を示しましたが、降伏の条件をお飲みいただくことが叶わねば、仮に負けようとも一線交えて死ぬ覚悟でございます」
頓は私に淡々と言いました。
「私を脅迫するつもりか?」
私は冷徹な視線を向けました。
右北平の国境ということは郡とは目と鼻の先です。
私との降伏交渉が破談した場合、私が白蓮達と合流を果たす前に白蓮達を急襲するつもりでしょう。
勝率を上げるために兵力に劣る白蓮達を襲撃するのが上策です。
ただ、丘力居も無傷では済まないでしょう。
失敗すれば、援軍として駆けつけた私達に叩き潰され、難楼と同じ憂き目に遭います。
丘力居の抜け目なさと大胆さに私は歯噛みしました。
「そのような気は毛頭ございません。我らは劉将軍に恭順の意を示しております。ですが、我らはあなた様に隷属するつもりも毛頭ございません」
頓は私に敢然と言い放ちました。
「隷属はしない」ですか・・・・・・。
もとより隷属させる気など毛頭ないです。
「ならば、私の幕下に加われと申したら丘力居はどう応える?」
腹を割って話した方がいいでしょう。
「それはどういう意味でしょう」
頓は微笑みを讃え応えました。
「そのままの意味だ。私の臣下となれということだ。さすれば、遼東の蘇僕延を討ち果たした暁には丘力居を遼東郡の大守に任じてやろう。悪い話ではないだろう。お前達は晴れて本拠地を持つことが叶う。ただし、私の配下としてだがな」
「それは真にございますか?」
頓は私を半信半疑の表情で見ました。
冥琳を横目で見るとただ私の話を聞いていました。
反論はしないということでしょう。
後で、何か愚痴を言われるかもしれないですけど。
「嘘は言わぬ。返事を聞かせよ」
「私のみで判断できませぬが、そのお話が本当であれば、我が主は喜んで聞き入れると存じます。急ぎ、部下を主の元に送ってもよろしいでしょうか?」
頓は私の申し入れに困惑した表情しながらも、私に丘力居へ連絡を取る許しを求めてきました。
「構わない。できるだけ、急いだ方がいいぞ。右北平に丘力居が居るなら、我が友、公孫賛がお前達に気づき行動する可能性がある。彼女はお前達を根絶やしにすること以外に頭にない。大守の話は我らとの交戦がないことが条件とする。一度でも交戦すれば、この話は無かったことにするしかない」
丘力居と公孫賛が一度でも交戦すれば、彼らの降伏条件など飲めません。
大守の話も無かったことにするしかありません。
「畏まりました」
頓は頷くと部下の1人に声を掛け、送り出そうとしました。
「待て、私の部下も連れて行け。何かあれば戦闘の回避の助けになるだろう。泉、瑛千、私の使者として丘力居の元に向ってくれ。今から急いで文を書く。それを丘力居に渡してくれ」
私は頓に声を掛け、泉、瑛千も一緒に行かせるように言いました。
「正宗様、畏まりました」
「劉将軍、ご配慮痛み入ります」
頓は頭を下げて言いました。
「構わない。無用な戦はしないに越したことはない」
私は衛兵に声を掛け、直ぐに文をしたためました。
烏桓族の1人と一緒に泉、瑛千が私の文を預かり、急ぎ丘力居の元に向いました。
頓の突然の来訪より、1週間後、遼西の烏桓族は私の配下となりました。
今日は丘力居が私の元を訪ねてくる日です。
さてさて、彼女はどのような人物なのでしょう。
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