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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第106話『師匠』

魔導祭本戦1回戦第1試合で見事白星をあげた【日城中魔術部】。そんな彼らは2回戦へ向けての休息──とはいかず、1回戦の残りの試合を観戦していた。


1回戦第3試合。今戦っているのは【花鳥風月】の風香と、予選10位通過の【Dream】の日向(ひゅうが)だ。屈強な男たちが集うこの本戦においては珍しく、女性同士の勝負である。
日向は片目が隠れるほど茶髪を伸ばし、ギャルのように派手な化粧をしている、気が強そうな人物だ。


「ほらほら、避けてばっかじゃダメだよ!」

「……くっ」


ちなみに今の戦況は風香が不利だ。というのも、日向の腕や脚が彼女の魔術によって、恐らくは彪か虎をモチーフとしたものへと変化しており、そこから繰り出される素早い連撃を風香は避けることしかできないのである。


「あんな魔術もあるんですね……」

「いわゆる"変化属性"だな。基本的に身体強化するものが多いから、対処できないとゴリ押しされる」


終夜の言葉に耳を傾けながら、晴登は試合の流れをじっくりと見守る。
日向は予選では"競走(レース)"に出場していたようで、風香よりは順位は低かったようだが、この様子を見る限り、彼女は戦闘(バトル)の方が性に合ってそうだ。
風香はよく見切ってはいるが、日向の攻撃は収まる様子がない。このままだと、ホントにゴリ押しされてジリ貧に……


「……! そこっ!」

「なっ!?」


しかし、やられっぱなしの風香ではなかった。
日向が蹴りを繰り出したその瞬間、しゃがんで避けながら相手の軸足を払い、体勢を崩したのだ。
ずっと狙っていたのだろう、その洗練された動きには思わず舌を巻いてしまう。


「"飄槍突"!!」

「ぐあぁぁぁっ!!」


そして仰け反ったその隙に、風香は予選の時にも見せてくれたあの風を纏った前蹴りで、日向を吹っ飛ばした。その威力は森に風穴を開けるほどだと、晴登は既に知っている。当然、人間ならば尋常じゃないくらい吹き飛ぶだろう。


「がはっ!」

『あ〜っと、日向選手が場外の壁に激突! 残念ながら、これは失格です!』

「ちく、しょう……!」


風香の一撃を喰らった日向は、なんと場外の壁まで飛ばされていた。壁に当たってもリタイアなのかという感想は置いといて、改めて風香の攻撃力に脱帽する。あんな細身の彼女の一体どこにそんな力が秘められているのか、不思議でならない。


「すっげぇ……!」

「三浦と比べて風圧が桁違いだったぞ。一体どんな訓練してんだ」


それは晴登の方が知りたいくらいだ。せっかく弟子になったのだから、早く彼女に教えを乞いたい。


『第3試合、勝者は【花鳥風月】猿飛選手! 若者の猛攻が止まらない!』


そのジョーカーの言葉に、会場が沸き立つ。【日城中魔術部】に続いて、またもや未成年チームが勝利しているのだ。胸踊る展開なのも頷ける。


『それでは、続く第4試合の準備を──』


「──あ〜もう、我慢できない!」

「あれ、ハルトどこ行くの?!」

「ちょっと野暮用!」


そんな盛り上がる会場の中、晴登は結月の問いにそう答えながら応援席から離れた。
このまま試合を見たい欲もあったが、それよりも今の試合を見てじっとしている方が嫌だったのだ。

ちなみに目的地はもちろん──







「いや〜さっすが風香、相変わらず隙を突くのが上手いんだから」

「褒めすぎ、月」

「でもでも、ホントに凄かったよね! ビューンって!」

「とにかく、1回戦が突破できて良かったね〜」


フィールドから退場しながら、【花鳥風月】のメンバーがそんな会話を繰り広げていた。そのまま入場の時にも通った通路を歩いていると、


「さ、猿飛さん!」

「ん? あ、君は確か──」

「どうしたの? 三浦君」


月の言葉に続くように、風香が訊く。もっとも、彼女には何の用かは察しがついていたが。


「え、えっと、猿飛さんに訊きたいことが……」

「わかった。そういうことみたいだから、みんなは先に戻ってて」

「えぇ? ポンポン話が進んでよくわかんないけど、彼女持ちだからちょっかいかけちゃダメだよ〜?」

「そんなことしない」


月の忠告に、風香は呆れたように答える。
彼女以外のメンバーは不思議そうな表情をしていたが、言われるがままに3人でそのまま行ってしまった。


「さて、思ったより来るのが早かったね」

「だってあんな凄い試合見たら、いても立ってもいられなくなって……」

「だからって、試合直後に来ることはないでしょ。私だって疲れることはあるんだよ?」

「う、すいません……」


ご最もだ。後先考えず行動して、さらに相手の都合を蔑ろにするのは全く賢くない。これは反省。


「わかればよろしい。でも、今日はまだ力が残ってるから、午後からならいいよ」

「本当ですか?!」

「うん」

「よっし!」


しかし、風香の懐の広さに救われた。あまりの嬉しさに、思わずガッツポーズまでとってしまう。これでまた強くなれるのだ。ワクワクして仕方ない。


「それじゃ、昼飯を食べたらホテルの裏庭に来て」

「裏庭……わかりました!」


風香の言葉に元気よく答え、晴登は応援席へと戻るのだった。






その後、午前の試合の観戦を終えて昼食もとった晴登は、早速ホテルの裏庭にやって来ていた。
ちなみに、1回戦は8試合行なわれるため、午前と午後に4試合ずつ行なわれることになっている。そのため、午前で試合が終わった【日城中魔術部】と【花鳥風月】は、午後は観戦しようが特訓しようがフリーなのだった。


「おまたせ」

「いえ、俺も今来たところです」

「そう。なら、早速本題に入るんだけど……何を教えて欲しいの?」


後からやって来た風香が、そこで晴登を見つめる。そうだ、そういえば目的があるのだった。彼女もそれを見抜いているのだろう。


「実は──空を飛びたいんです」

「……」


それを聞いた瞬間の、呆気に取られた風香の表情は実に見物だった。しかし、ふざけているように聞こえるかもしれないが、こちらは至って真剣である。最初からそれが目的だったのだから。

その真面目な晴登の眼差しを見て、冗談ではないのだとわかった風香は考え込む。そして一言、


「……ごめんなさい、私じゃ力になれないみたい」

「えぇっ!?」


まさかの戦力外報告に、思わず声を上げてしまった。風香ほどの実力があれば、空を飛ぶくらい訳ないと思ったのだが。


「ちなみに三浦君、君の能力(アビリティ)のレベルは?」

「えっと……確か3ですけど」

「……言いにくいんだけど、実は風属性で空を自由に飛び回るには、能力(アビリティ)レベル4以上はないと難しいの」

「そうなんですか?!」

「空を飛ぶってなると、自重を浮かせるほどの風量を継続的に生み出す必要があるじゃない? その条件だけでも、並の能力(アビリティ)じゃ満たせないの」

「なるほど……」


風香の言うことには納得できる。事実、晴登にできるのはあくまで瞬間的な"噴射(ジェット)"のみ。たとえ全力を出しても、高い崖から落ちて着地するのがやっとだ。


「じゃあ、猿飛さんの能力(アビリティ)のレベルって……?」

「私は2。空を飛ぶなんて夢のまた夢よ」

「2……!? あんな凄い技使えるのにですか?!」

「訓練次第で、レベルなんて多少は誤魔化せるよ。君のチームの部長なんか良い例じゃないの?」

「確かに……」


言われてみれば、終夜はレベル3の能力(アビリティ)であるにもかかわらず、とんでもない威力を誇っている。それを鑑みれば、風香の能力(アビリティ)がレベル2だと言われても変ではない。


「それにしても、君こそ能力(アビリティ)のレベルが3だったとは驚いたよ。てっきり4くらいだと思っていたのに」

「そうですか? 別に何も凄くないと思いますけど……」


続く風香の言葉に、晴登は首を傾げる。風香と比べても大した威力もないし、レベル4どころか、レベル2と間違われてもおかしくないくらいだと思うのだが。


「いや、風を放出したり身体に纏わせるだけならまだしも、刃として繰り出すのはさすがにびっくりしたよ。普通はそこまでできないから。よっぽど訓練したんだね」

「えっと、まだ魔術が使えるようになってから3ヶ月くらいしか経ってませんけど……」

「……え? 嘘でしょ?」


感心したように頷いていた風香に事実を伝えると、鳩が豆鉄砲を喰らったかのようなポカンとした表情になった。しかし、嘘ではない。


「……そんな、それならあまりに早すぎる。器用とか、そういう次元じゃないよ」

「そう言われても……」


できるものはできるのだと、天才じみたことを言おうとしてやめる。けどできるのは事実なのだ。"鎌鼬"も"風の加護"も、イメージすればすぐにできた。まさかこれが普通じゃなかったなんて。

そんな様子の晴登に、風香は指を立てて説明する。


「いい? 元々、能力(アビリティ)っていうのは、レベルによって扱いに制限がかかるの。例えば……私は"脚にしか"魔術を使えなかったり」

「え、そうなんですか!? ……てか、そんなこと教えちゃっていいんですか?」

「説明するためだもの、仕方ないよ。それに、バレたところで何かが変わる訳じゃないでしょ?」

「それは、まぁ……」


思い返せば、風香が脚以外で魔術を発動したところをついぞ見ていない。
能力(アビリティ)に制限があるなんて話、終夜から聞いたことはなかったが……。


「それに対して、君の魔術は汎用性が高すぎるの。レベル4以上、もしくは熟練したレベル3と言われれば納得するけど、君はまだ覚えたてのレベル3。それなのにそこまで魔術を扱えているのは、普通に考えておかしいの」

「そうだったんですか……」


風香の言い方から察するに、レベル3の能力(アビリティ)でも少しは制限があるのかもしれない。しかし、会得してから日が浅いせいで、制限されているのかどうかすらもよくわからなかった。気づかなかっただけで、実は終夜や緋翼も制限を抱えているのかも……。


「あのさ……良ければ、君の能力(アビリティ)を教えてくれないかな? 代わりに私も教えるから……」


風香はおずおずとそう申し出た。

魔術師にとって、能力(アビリティ)を教えることは手の内を晒すことに等しい。しかも彼女とは本戦で当たる可能性もある。当然、お互い不利になってしまうのは必至だ。
それにもかかわらず訊きたいというのは、同じ風属性を扱う魔術師としての好奇心ゆえだろう。

晴登は一瞬迷ったが、別に隠すことでもないし、他でもない師匠の頼みだと考え、教えることにする。


「俺の能力(アビリティ)は、"晴風(はれかぜ)"って言います」

「なるほど……あ、私は"疾脚(しっきゃく)"よ。意味は文字通り。それにしても"風"はともかく、"晴"って何かしら? それがきっと君の力のキーだと思うんだけど……」

「言われてみれば……考えたこともなかったです」


能力(アビリティ)は、基本的に主属性と副属性の2つで構成されている。晴登の場合、主属性は"風"で、副属性が"晴"という訳だが……如何せん"晴"が何を表しているのか見当もつかない。
ふと、『晴れてる時に強くなる』のかとも思ったが、今までそこまで恩恵を受けた気はしない。何なら、一番本気で魔術を使った林間学校のスタンプラリーの時は雨だったし。


「う〜ん、本人にもわからないなら、考えても仕方ないかな」


悩む晴登を見て、これ以上の言及は意味がないと思ったのか、風香はそこで話を打ち切った。


「それじゃあ話を戻すけど、空を飛びたいって言ってたよね?」

「あ、はい」

「レベル3じゃ無理……って言いたいところだけど、君の力が計り知れない以上、結論は出せなくなった。でもどちらにせよ、私自身が飛ぶことができない以上、力になることはできないの。だから──」

「だから……?」


いつか空を飛べるという希望をまだ持っててもいいのだと嬉しくなった矢先、風香が気になる言い方をする。その表情は先程までの申し訳なさそうなそれとは変わり、自慢げなものだった。


「代わりに私の技、"飄槍突"を教えようかな」

「……! いいんですか?!」

「君の力のことを知って、成長する姿をもっと見てみたいと思ったの。この技はきっとその糧になるはず」


なんと彼女が提案してきたのは、あの風による強力な突き技、"飄槍突"の伝授だった。
いつか盗みたい技とは思っていたが、まさか教えてもらえるなんて。空を飛ぶ術はわからなかったが、これはこれでラッキーである。


「今日だけで会得できるかは君次第だけど、少なくとも魔導祭期間中にはマスターできるよう頑張ろう」

「はい!」


風香の言葉に大きく返事を返す。
もし今日中に会得できれば、明日以降の本戦にも活用できるだろう。ここは気を引き締めて臨まなければ。


「よろしくお願いします、師匠!」

「ふふっ。その響き、悪くないね」


まずは形から入ろうと、とりあえず雰囲気的に師匠と呼んでみたら、風香はまた静かに笑ったのだった。
  
 

 
後書き
はぁ……はぁ……大変お待たせしました……。レポートに追われに追われ、いっそバックれてやろうかと思っていましたが、何とかさっき終わりました。波羅月です。もう執筆が遅いのは皆さん慣れっこだと思うので、これ以上は言及しないことにします。

さて、今回は見た通り「師弟のやりとり」がメインとなっていましたが、中々魔術の本質的な話が出てきて、書きながらちょっと楽しくなってました。なんかこういう細かい設定作るの好きなんですね。まぁ大抵忘れて無視しちゃうんですけど()

ということで、忘れない内に次を書いていこうと思います。次回は2回戦行く……かな……? ちょっとわかりません(適当) 期待せずに待っててください。
それでは今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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