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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
第1部 閑話
  閑話2 ~好きな食べ物~

 
前書き
バハラタより先の話です。
 

 
「ユウリって、甘いものは苦手なんだよね? じゃあ辛いものは平気なの?」
「いきなりなんだ。突拍子もないこと言いやがって」
次の町へ向かう道中、私たちは丁度いい木陰を見つけて、その下で休憩をすることにした。
爽やかな晴天の下、なんとなく心も晴れやかな私は、滅多にプライベートな会話はしないユウリに、たまには質問をしてみようと軽い気持ちで試みた。確かアッサラームで唐辛子のかかった食べ物を食べていた気がしたので、確認のため聞いてみたのだった。
案の定しょっぱい対応をされたが、今日の私はこの陽気のせいか、とても気分がいい。ユウリの毒舌なんかほとんど気にならないだろう。
「なんかふと気になっちゃって。もし野宿とかするときに、たまにはスパイスの効いた料理でも作ろうかなって」
「いいんじゃないか? 別に俺は辛いものは嫌いじゃない」
返ってきたのは、意外にも肯定的な反応だった。その様子を見て、私はあることを思い付く。
「そっか。じゃあ今度試してみるね」
 曖昧にそう約束すると、ユウリはさして気に留める様子もなく、ああ、と一言だけ呟いた。あまり関心がないくらいがちょうどいい。
バハラタで黒胡椒の効いた料理を積極的に食べていたことも思い出した私は、頭の中で色々シミュレーションしてみた。うん、この組み合わせなら出来そうだ。
するとユウリが「急に喋らなくなったがボケたのか?」とか言われたが、適当にごまかした。どうせならサプライズにしたい。私はある決意を秘めながら、来るべきその日まで胸を躍らせていたのであった。



後日。寄った町で準備を整えた私は、さっそくユウリを外に呼び出した。
「一体何の用だ。こんなところに呼びだして」
町の外れにある小さな広場に、二、三人がけのベンチがある。そこに座るように彼を促した。訝しげな彼の目線を無視し、私は止まらないニヤニヤを抑えつつ言った。
「あのね、今日はユウリにプレゼントがあるの」
「……本当にプレゼントか? 何か企んでるだろ」
ああ、やっぱり疑われてる。けど、そういう疑い方ならむしろラッキーだ。
わたしはいそいそと鞄から『それ』を取り出すと、ユウリの目の前に突きつけた。
「はいこれ! 私が作ったの。開けてみて!」
それは、鞄に入れるには少し大きすぎるくらいの蓋付きの木の箱だ。ユウリは不思議そうな顔をしながらも箱を受けとり、おもむろに蓋を開けた。
「!!」
中に入ってたのは、こんがり焼いた鶏肉に、サンドイッチ。それと今が旬のフルーツ。鶏肉には塩、唐辛子、それとバハラタでタニアさんからもらった黒胡椒を使って味付けをしている。
「お前……。これって……」
「へへ、前にエマが作ったのよりは少ないけどお弁当だよ。ユウリが喜ぶ顔が見たくて頑張って作っちゃった」
「……」
完全に予想外だったのか、驚いて声もでないようだ。そりゃあ今までお弁当作ってあげるだなんて言わなかったし、宿屋の厨房を借りて作ったのもユウリが朝の鍛練に行っている間だったから、まず気づかれることはなかったはずだ。
そんな中、まじまじとそのお弁当を見るユウリ。
「……見るだけじゃなくて、せっかくだから食べてほしいな」
「あ……ああ」
 早く食べたあとの感想が聞いてみたい。私はつい急かすようにユウリに言ってしまった。
早速ユウリは、黒胡椒のかかった鶏肉をフォークで刺し、口に運んだ。そして飲み込むまで見届けたあと、彼の次の言葉を待つ。
「……美味い」
「本当?!」
私は嬉しくなって、思わず身を乗り出した。ユウリは若干後ずさったが、すぐに視線をお弁当に戻す。
「お前でも何か取り柄はあるんだな」
「取り柄ってほどでもないけど、料理は実家にいたとき手伝ってたからね。ちょっと自信はあるかな」
そう言って私は得意気になる。言い方はどうあれユウリに誉められて悪くない気分だ。
するとユウリは、再び鶏肉をフォークに突き刺すと、私の方へ差し出した。
「お前も食べるか?」
「え、いいの?」
朝早起きして作った私のお腹は空腹で限界寸前だった。なので鶏肉を目の前に突きつけられたとたん、たまらず私はそのままかぶりついてしまった。まずい、こんな食べ方、絶対食い意地のはった奴って思われる。
案の定、ユウリは仰天したような顔になったあと、やがて口を押さえて俯き、声を圧し殺すように笑った。
「本当にお前は色気より食い気だよな」
私が食べてる様をじっと見ながら、彼が言った。全くその通りです。反省してます。
私は顔を赤らめながらも鶏肉をなんとか飲み込んだ。そして俯き加減でユウリの失笑している様子をちらっと覗き見る。
ユウリの笑ってる姿なんて、滅多に見られないから結果オーライかな?
結局残りの料理も二人で半分ずつ分けあって食べたのだが、それでも結構お腹がいっぱいになった。調子に乗って作りすぎたらしい。
「本当に美味かった。ありがとうな」
「いえいえ、どういたしまして」
笑顔ではないものの、食べる前よりも大分柔和な表情でお礼をいうユウリ。正直なところ、こんなに率直に感想を言ってくれるなんて思ってもみなかった。
お礼を言われるのはくすぐったいけど、ユウリに喜んでもらえて本当によかった。
「今度はナギやシーラの分も作って皆で食べようね」
私がそう言うと、なぜかユウリは露骨に表情を歪めた。
「別にいいだろ、とくにあのバカザルの分は」
「そんなこと言わないでよ。皆で食べるとまた違うと思うよ?」
「ふん。別に人数が変わったって同じだろ」
 大家族で育ってきた私にとって、その言葉には愕然とした。そもそもユウリは大人数で食事をしたことがないのだろうか?
「そんなことないよ。それともユウリは今みたいに二人で食べる方が好き?」
「!?」
なぜか急に顔が真っ赤になるユウリ。突然ベンチから立ち上がり、
「そんなわけないだろ!! 誰がお前となんか!!」
「え?」
そう切羽詰まったような顔で言うもんだから、私は慌てて説明する。
「いや、別に私とだなんて言ってないよ。少人数で食べる方が好きなのか聞いただけで……」
ぐいっ。
「いったぁ!!」
言葉の途中でいきなり三つ編みを思い切り引っ張り上げられ、私はたまらず声をあげた。
「いきなりなにするの?!」
「うるさい黙れ。間抜け女の癖に偉そうに」
訴えもむなしく、彼はさっきとはうって変わった機嫌の悪さで私の三つ編みを引っ張り続けた。
せっかく喜んでもらえたのに、なんでいつもこうなるんだろう。私は心の中でがっくりと肩を落とした。
でも、目に焼き付いて離れないのは、お弁当を口にいれたときの嬉しそうな表情。といってもよーく目を凝らしてみないとわからないくらい少しなんだけど。
それを一瞬見られただけでも、良しとしよう。そして私は再びにやけた顔をユウリにみられ、あとで恥ずかしい思いをすることになったのだった。
 
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