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姫石

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第三章

「歩いていますが」
「むっ、幼子とは思えぬ確かな足取りだな」
 吉保も姫が歩くのを見た、泣きながらであるがしっかりと歩く様は七つ位の子供が駆けるのと同じ位であった。
 そして姫は泣きながら東の山に入っていった、吉保はこれは何事か東の山に何かあるのかと思い藩士と石屋を連れて姫の後を追った。
 姫は東の山をどんどん登っていきある岩の中に泣いたまま入っていった。そして泣き声は止まり岩は何もなかったが。
 その岩を見つつ吉保は思わず首を傾げさせた。
「これはな」
「どうにもですな」
「面妖な」
「はい、石から姫が出てです」
「岩に入るなぞな」
「妙なこともありますな」
「全くじゃ、しかしな」
 それでもとだ、吉保は藩士に話した。
「この姫が入った岩は鳥居の石には出来ぬな」
「中に姫が入ったので」
「姫が中にいるであろうからな」
「そうなりますな」
「うむ、石屋もそれでよいな」
 吉保は石屋に対して確認を取った。
「それで」
「はい、これは神の岩でしょう」
 石屋もこう言った。
「それは幾ら何でも鳥居には」
「鳥居も神のものであるがな」
「神がそのまま中におられる様なものなので」
「使えぬな」
「他の石を探します」
「その様にするといい、今回はご苦労であった」
 吉保は石屋に微笑んで言うと彼に褒美を渡してすぐに江戸に帰った、そして江戸に帰るとずっと供をした藩士にも褒美を渡し綱吉にことの全てを報告した。
 話を聞いた綱吉はそれはという顔になって言った。
「それはまたな」
「面妖な話でありますな」
「うむ、確かに竹取物語の様であるが」
「あの話以上にですな」
「変わった話じゃ、人がおるのは竹だけではないか」
「石もですな」
「そしてかぐや姫は月に帰ったが」 
 物語の最後でそうなったがというのだ。
「その姫は岩に入ったか」
「そうなりました」
「そうしたこともあるか」
「世の中は実に面妖ですな」
「全くじゃ、これはよい話である」 
 綱吉は真面目な顔になって述べた。
「ではな」
「それではですか」
「この話は後の世に残し」
 そうしてというのだ。
「後の世の者達に知ってもらおう」
「学問の一つとしてですか」
「世の中こうしたこともあるとな」
「それがよいかと。世の中は不思議なこともある」
「神仏にまつわる様な、そしてな」
「物語の様なこともある」
「そのことを後の世に伝えるとしよう」
 綱吉は吉保に真面目な顔のまま述べた。
「この度はな」
「それでは」
「うむ、そうしようぞ」
 綱吉はこう言ってこの話を書き残させた、そして姫が出や石もそのままにさせた。
 この姫がいた割れた石は諏訪にあるというが今もあるかどうかはわからない、だが綱吉はこの話を書き残させ今も残っている、また姫が登った場所は姫のなきあらしと言われ今も残っている。元禄の頃の不思議な話である。


姫石   完


                   2020・11・16 
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