夢の雫
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第三章
「さて、その相手をな」
「今から見せるか」
「そうしようか」
二人でこう話してだった、フライヤがその杯を誰に贈るのかを見守った。そのフライヤが杯を持った時に。
神々は注視した、一体どの神に贈るのか。そして今度はどの神若しくはそこにいるエインヘリャルの誰と恋に落ちるのかを。
するとだ、フライヤは。
何と彼女の父ニョルズの前に来た、これにはだった。
さしものロキもまさかとなって言った。
「いや、流石にな」
「これはないな」
トールも言った。
「幾ら何でもな」
「そうだな、ニョルズはフライヤの父だ」
その顔に皺が目立ち地味な外見の神を見て言うのだった。
「そのニョルズに恋をするなぞな」
「有り得ない」
トールは言い切った。
「如何にフライヤでもな」
「フライヤはこれまでニョルズに恋をしたことはない」
「何しろ実の父親だ」
「そのニョルズと恋をすることなぞだ」
ロキも言い切った。
「流石にだ」
「決してない」
「何があってもな」
「これまでなかったしだ」
「これからもない」
決してというのだ。
「絶対にな」
「そうだな、ではな」
「恋愛はないな、となると」
ここでだ、ロキはやれやれといった笑顔になって述べた。
「俺はあいつに蜜酒をやることになるな」
「俺もだ、肉をだ」
そのとっておきの干し肉をというのだ。
「やることになる」
「そうだな、絶対にないと思ったが」
「これは仕方ない」
「全くだ、俺は約束をよく破るが」
この辺りは奸智に長けているとされるだけはある、それだけにロキは相手を謀略で陥れることも多く約束もよく破るのだ。
だが今回はとだ、彼は言った。
「しかし今はな」
「破らないか」
「あいつには貸しも多い」
「だからだな」
「今は守る」
その約束をというのだ。
「絶対にな」
「俺は最初からだ」
トールの言葉は揺るぎのないものだった。
「約束は何があっても守る」
「あんたはそうだな」
「そうだ、お前とはそこが違うな」
「ははは、全くな」
「だからだ」
「最初からは」
「絶対にないと思っていたが」
それでもというのだ。
「約束は約束だ」
「だからだな」
「干し肉はあいつのものだ」
「そうなるな」
「そうだ、しかしだ」
トールはここで首を傾げさせた、そのうえでこう言った。
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