彼女は軍師

　　　　　　　　　　　　　　　　彼女は軍師
　広島市で八条グループの系列にある牛丼のチェーン店牛の八条屋の店長龍造寺慎吾には彼女がいる。名前は鍋島ともよという。
　小柄で落ち着いた黒目がちの目で黒髪を肩の長さで切り揃えている。同じ店で働いていて副店長を務めているが。
　龍造寺は何かあるとともよに話を聞いている、店のこともプライベートのことも全てだ。それでこの時もだ。
　アルバイトの面接の後でともよに聞いた。
「さっきの子だけれどね」
「勝占世寝助って子ね」
「どう思う？」
「採用したら駄目よ」
　ともよはすぐに言った。
「あの子は」
「駄目か」
「あの子の高校をチェックしたわね」
「広島で一番レベルの低い学校だな」
「ええ、不良しかいないことでね」
「有名だな」
「学校で判断しないけれど」
　それでもというのだ。
「あの外見だし」
「如何にもガラが悪そうだな」
「喋り方も酷かったわね」
「敬語使ってなかったな」
「しかも態度も悪かったし」　
　面接の時のそれもだ。
「接客なんて出来ないわ、しかもね」
「しかも？」
「シンナーや煙草の匂いしたし」
「シンナーか」
「まともな子じゃないから」
　だからだというのだ。
「採用したら駄目だわ、教えても身に付けようとしないでしょうし」
「じゃあもう一人のか」
「女の子をね」
「採用すべきか」
「それがいいわ」
　一八〇以上の背でがっしりした体格で丸い顔に太い眉を持つ彼に話した。
「あの娘は礼儀正しいし喋り方もしっかりしているから」
「そうだな、じゃあな」
「あの娘を採用しましょう」
「そうするな」
　龍造寺はともよの言葉に頷きアルバイトの採用を決めた、その後不採用になった男子高校生が無免許でバイクを運転して警官に捕まったと聞いた。
　ともよは他にも店のあらゆることについて龍造寺から聞かれるとすぐに答えた、それはどれも的確で彼も店も助かっていた。
　だが店員達はそのともよを見て言うのだった。
「店長さん大きいけれどな」
「一八三あるよな」
「日本人だとかなり大きいな」
「そうよね」
「けれど副店長さんは」
　そのともよはというのだ。
「一四八位か」
「小さいよな」
「凄い対象的なカップルだな」
「滅茶苦茶頭いいけれどな」
「広島大学首席で卒業したんだろ」
「それで入社でも筆記試験全問正解で」
　ともよのことをさらに話した。
「勤務の時も冷静で状況とかちゃんと見て動いてな」
「滅茶苦茶出来るからな」
「凄い人だよな」
「店長さんを支える名軍師だな」
「ああ、工夫も考えてくれるし」
「頼りになる副店長さんだよ」
「店長さんもそう言ってるしな」
　ともよは店員達からも評判がよかった、そしてある日ともよは店で龍造寺に対してこんなことを言った。
「十五日分の仕入れは減らしましょう」
「どうしてなんだ？」
「その日台風が来るから」
　だからだというのだ。
「それも朝から夕方まで広島は大雨と暴風になるから」
「ああ、そういえば台風近付いているな」
「だから」
　それでというのだ。